第一章・プロローグ
夕暮れの煌びやかな日に照らされてその男は歩いていた。
「佐藤 タケシ。」17歳。どこにでもいる、ありふれた高校2年生だ。
背はふつう。少し痩せた体系に若干の猫背で髪はぼさぼさだった。
そんな彼は年の割に疲れた顔をしながら頭を悩ませていた。
「運動が得意でもないし、頭がいいわけでもない。何か俺に得意なものはないだろうか・・・」
「せめて、回廊で稼げれば食うには困らないだろうな~。」
一人寂しく小言をつぶやいていた。
なに、他愛のない話である。
担任に進路希望について詰められた挙句、ほとんど逃げ出すような形で学校を抜け出してきていた。
「おい、タケシ!。帰るならラーメン食べに行こうぜ。」
後ろから肩を抱きながら、屈託のない笑顔を見せる男がいる。
「三河 ハジメ。」同い年であり、保育園のときからの腐れ縁であった。
俺の数少ない友人の一人であり、俺と違って運動は得意とする陽キャである。背は俺より少し高く、服の上からでも分かるように鍛えた体の輪郭が出ていた。オツムの方は・・・これ以上は皆まで言うまい。
「この時間にラーメン食べて、晩飯が食えるのか?」
そんな俺の正論攻めでもこいつには敵わない。
「何言ってんだよ、晩飯はおかずだろ?これから主食を食べるのさ。 それにもう何時間も我慢してるんだぜ!」
満面の笑みを浮かべて、ハジメは反論してきた。
だめだ、話が通じない。食べ盛りとはいえ、動けるやつは食べる量もちがうのか。と
燃費が悪すぎる。
「分かった、分かった。それじゃあ、いつもの店ならいい。」
そう言って寂しくなる懐を気にしながら俺は折れるしかなかった。
そんな俺の様子を気にしながらハジメは言う。
「大丈夫だって! またあそこに行って小遣い稼げばいいんだから。」
「ああ、あそこね、、、」
少し不安に感じながら答える。
「まあ、そうだな。あそこは、まだばれてないし、見つかる前に稼いでおきたいよな。」
今の言葉にはちょっと悪い顔が出ていたかもしれない。
そんなことを考えている内に進路希望のことなどすっかり忘れているのであった。
夕暮れの中、二人の学生は和気藹々と繁華街の方向へ歩みを進める。その足取りは軽いものだった。
この後、世界を脅かすことになるなど、つゆほども知らずに。
ここは22世紀の日本である。一通りの産業革命を得て、テクノロジーがものを言う時代だった。
21世紀末にとある博士の論文発表とともに、驚くべき装置が開発されて、世界を巻き込んだ改革が進められていた。
その一端として開発されたのが{異空間装置}である。
この装置の発現は現代の常識を覆すものだった。
この異空間装置はなんでも、とある場所にしか効果を発現できない装置だったらしい。
その場所とは聖域である。
つまり、日本でいう神社や教会などがそれに該当するらしいのである。
当然そういった場所は日本のみならず、世界各地に点在している。
だが、世界は混乱に陥ってしまった。
聖域内の決められた場所に見たこともない羅列文字が浮かび上がり、その文字が赤く発光する。
というのだから、驚くのも無理はない。
しかし、幸いなことにそれが直ぐに害をもたらす。とはならなかったようだ。
しかし問題はここからだった。
聖域内のその場所にある、赤く発光した羅列文字を踏んでしまう者達が出てきた。そうすると、別の空間に転移されてしまうという事件が起きた。
その事件を調査し、解明を進めると、とある事実が浮かび上がる。
転移陣を踏むと別の空間に転移する。
ただしその風景や匂いといった人間の五感で感じるものは、元の場所と酷似していた。
同じ風景なのに人がいない。騒音もしない。混乱するのは無理もなかった。
さらにその場所には10倍の大きさをした生き物がいたのである。
でかくなった昆虫。イノシシのような大きさの鼠。パニックにならない方が無理であった。
しかし、転移陣を再び踏むと、元の世界に戻ることが出来た。
こちらから侵入しなければ害となることは無かったのである。
だが、犠牲者が出てしまうこともあった。
当然、世界各国はそれらの場所の立ち入りを禁止した。
だが、いつまでも聖域を封鎖することは出来なかった。
そうして世界各国は共通してこれらの転移陣先の空間のことを{神域}と定め、むやみに立ち入らないように監視する組織{ギルド}が設立されたのだった。




