第18話 既成事実
ハルカは荒い息遣いをしながらさらに迫ってくる。
少し強引に俺を抱き寄せてキスをする。
ほんとにハルカか?普段の行いからは想像できない。
キスはより一層激しさを増しながら彼女は服をはだけさせる。
「ま、待て。。ハルカ目を醒ませ。」
俺は強引に体を引きはがして、ハルカの頬を軽く叩いた。
するとハルカの瞳に光が宿る。
「え?。あたし、、、嘘。」
ハルカは瞬時に今の状況を理解したようだった。
途端に恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ご、ごめんタケシ。私、自分でもよく分からなくなって。」
ハルカは、はだけた自分の小袖を直しながら言った。
「だ、大丈夫だ。ハルカは悪くないよ。今すごく不吉な予感がしたんだ。」
俺も気持ちを落ち着かせながら言った。
正直ヤバかった。これがミサキだったら止まらなかっただろう。
ただでさえハルカの魅力は凄まじいのだ。
俺はかろうじて己の欲に勝利したのだった。
俺は真面目な顔をして元の場所に座りなおした。
ハルカも俺に倣って元に戻る。
「俺の予感を話してもいいか?。」
ハルカはコクリと頷いた。
俺はそれを確認して話し始めた。
「俺が初めて{のっぺらぼう}に会った時には顔が無かったんだ。」
「だけど、さっき鏡を見た時にはうっすらとだけど鼻があった。」
「原因は分からないけどこのまま進めば、あいつの顔が出来ていくような気がして不安になったんだ。」
「それにさっきの、、、ハルカの様子もどこかおかしいように感じた。」
俺は咳払いをして少し誤魔化す。
「もしかしたらあの鏡に触れた影響で、あいつとの接点が出来てしまったのかもしれない。」
俺は少し俯いた。
「ということはさっきの私は{のっぺらぼう}に乗り移られていたということ?。」
ハルカが推測して言う。
「その可能性はある。さらに進行すれば酷くなるかもしれない。」
俺は考える限りの可能性を話す。
ハルカは驚きながらも胸の前で手を結んでいる。
「だから、今後は出来るだけ俺のそばにいてほしい。」
俺はリスクケアの為にそう言った。
はっと息を吸う音を出してハルカは顔を赤くした。
あれ??。
言葉を間違えたかもしれない。違う意味で捉えられた気がする。
ハルカは嬉しそうな顔で大きく頷いた。
「私もそうしたい。」
やっぱりそうか。
まあいい。大きくは間違ってはいない。
あいつが乗り移るかどうか分からない。
万が一ということもある。俺はハルカの挙動を監視しなければならないのだ。
道具を片付けて俺達は2人揃って拝殿を出た。
途端にハルカは俺の手を繋いで指を絡ませてきた。
なに!。これが噂に聞く恋人繋ぎというやつか。
ハルカはとても幸せそうな顔をしている。
無理に振りほどいても可哀そうなだけか。
俺はやれやれと思いながら聖域を後にした。
麓まで降りると1台の車が待っていた。
中から1人の男が出てくる。
「お待ちしておりました。」
男はそう言って後部座席のドアを開ける。
ハルカは俺に目配せをしてきた。
「送っていくわ。」
そう言うハルカはいつもの態度に戻っている。
人前では毅然とした態度なんだな。やっぱツンデレか?。
自転車のことが頭をよぎったが、俺は甘んじて受けることにした。
それにしても驚いたものだ。ハルカが優等生なのは誰もが知ることだが、
こんなVIP対応されているとは思ってもいなかった。
車の中で父親がマスターだからとか、護衛がどうたらとか色々考えたが
答えは分からなかった。
そんなことを考えていると家まで着いた。
「また、明日ね。」
ハルカは満面の笑みでそう言った。
可愛い。素直にそう思った。
「送ってくれてありがとう。じゃあまた。」
俺はそう言って彼女と別れた。
車を見送った後に俺は空を見上げる。
さっきまでの拝殿での出来事が走馬灯のように巡った。
いかん。思い出すだけでムラムラしてくる。
「適切な処置」をしなければどうにかなってしまいそうだった。
ふぅ。っとため息をついて俺は家に入った。
枯れた落ち葉が宙を舞っていた。
翌日
俺はいつも通り登校したのだが何か違和感がある。
すれ違う生徒や机で固まって談笑している生徒やらがこっちを見てヒソヒソと話しているのだ。
どうにも気分が悪い。なにかあったのだろうか。
「おーっス。 これはこれはプリンス殿ではないか。」
ハジメがふざけながら挨拶してきた。
「プリンス?。何のことだ。」
俺は疑問に思った。
「だってハルカと付き合ってんだろ?。当然だ。」
ハジメは手を頭の後ろで組みながらそう言った。しかも声がでかい。
「そんなこと誰にも言ってないぞ。昨日のことだって・・・。」
そう言いかけて気が付いた。
お前かハジメ。
ハジメはケタケタと笑っていた。
俺が狼狽えるのがよほど愉快らしい。
「でも間違いじゃないんだろ?俺は羨ましいけどな。」
ハジメはそう言いながらニタニタしていた。
反論は出来なかった。
腹が立つがそれがハジメなのだ。
今に始まったことではない。
すると廊下の方がなにやらざわざわしている。
そこにはハルカとミサキが来ていた。
どよめきが大きくなる。
完全に教室中の注目が俺たちの方へと向けられていた。
彼女達は俺たちのところまでやってきて話した。
「放課後は空いてるわよね。ダーリン。」
ニコっと笑うハルカの表情はどこか既視感がある。
「ダーリン?そんな仲良くなったのか?。」
ハジメが訳が分からない様子で言った。
「昨日あんなことまでして、カップルじゃないとは言わせないわ。」
頬を赤らめながらハルカは色気を出した。
おお。、と教室中にどよめきが上がった。
教室中のヒソヒソ話が加速する。
おお。じゃないんだよ。緊急事態だ。
「タケシ、お前ってやつは。そういうのは疎いと思ってたんだけどな。」
ハジメまでこの調子である。
まずい。こんなつもりじゃなかった。
もはや収拾がつかないところまで事態は進んでいた。
ハルカの狙いはこれか?。だとすれば策士すぎる。
俺は嵌められたと思いながらも彼女の提案に乗るしかなかった。
放課後呼ばれた場所に行くとハルカが待っていた。
タケシは用事があるとか言ってそそくさと先に帰っていた。
「あれ?ミサキは?。」
俺は辺りをキョロキョロと見回した。
「先に帰らしたわよ。」
「もう、あなたが言ったんじゃない。そばにいろって。」
頬を膨らませながら腕を組んでくる。
「そうは言ったがこれでは・・・。」
俺は反論しようとしたがハルカが腕に胸を押し付けてくる。
それはヤバい。
豊満な彼女の胸は馴染むように柔らかい。
心臓が早鐘を打つのが自分で分かった。
実際これを見ていた周りの男子生徒は羨望の眼差しでこちらを見ていた。
ほんとにハルカか?。
俺は分からなくなった。
念のために神鏡を取り出して見てみるが変化はない。
「さあ、行きましょ。」
彼女は短くそう言うと俺の腕を引っ張った。
学校を出て商店街へ向かう。
メインストリートを通り路地の方へ足を向けた時に嫌な予感がした。
まさか。
そのまさかだった。
見慣れた雑貨屋の前で俺達は足を止めた。
「あれ?タケシはこのお店を知ってるの?。」
ハルカは何食わぬ顔で聞いてくる。
俺は一瞬迷ったが知らない風を装った。
「いや、初めてだよ。こんな場所に店があるなんて知らなかったな。」
カランと綺麗な音色の音を出して扉を開ける。
カウンターの奥からひょこっと婆さんが顔を出す。
「いらっしゃい。」
店主は一瞬俺の顔を見たが、ハルカの姿を見て「普通」の対応をしてくれた。
流石はプロだな。
ハルカは嬉しそうに店内にある雑貨に目を向けている。
時々手に取って俺に感想を求めたりしていた。
相槌を打ったりはしていたが俺は気が気でなかった。
「こういうの憧れてたんだよね。タケシはどう思う?。」
彼女は首を傾げながら聞いてくる。
「ああ、いいと思うよ。」
俺の返事はどこか上の空だった。
「ホントに?。」
顔をぐっと近づけて彼女は言った。
俺はドギマギした。
すると彼女はニコっと笑ってペアリングを買うことに決めたようだ。
カウンターへもっていって2人で買った。
「ひひひ、若いってのはいいことさね。あたしも昔を思い出すよ。」
「ありがとうね。」
店主はそう言いながらも会計してくれた。
俺達は店を出た。
どうやらハルカはこの店の裏の顔を知らないらしい。
ほっと息をつくと彼女は俺の指にリングをはめた。
「これで私達お揃いだね。」
「外しちゃ駄目よ。」
無邪気に笑う彼女を見て、こういうのも悪くないと俺は思ってしまったのである。




