第16話 進展
吹き抜ける風が冷たくなり、澄み渡るような青い空が広がっている。
俺とハジメは校舎の屋上で腰掛けながら話をしていた。
ハジメの頭には包帯が巻かれ、腕は三角巾で吊っている。
病院から退院したのだが、俺たちは完全回復とはならず、療養にはまだ時間が必要だった。
当然ギルドで仕事をするわけにもいかず、家でじっとしている気にもならなかったのだ。
進路の決まった俺たちは決まった日だけ登校すればよかったのだが、
することもないので、放課後にこうして屋上でだべったりしていた。
「で、結局のところどうなのよ。」
俺は少し恥ずかしかったがハジメに聞いた。
恋バナである。
俺としてはこの時点でどうしても区切りをつけておきたかったのだ。
「どう、て言われてもなぁ。」
「だろぉ~?」
ハジメは頭をぽりぽりと搔きながら困っていた。
「ハジメはハルカの事が好きなんだろ?。」
「なんで知ってんの?。タケシに話したっけ?。」
「お前とは腐れ縁なんだ。見てれば分かるだろ。」
俺は、はにかみながらも答えた。
「そうかぁ。流石タケシだな。」
「そういうお前もミサキの事が好きなんじゃねえの?。」
少しニヤつきながらもハジメは言う。
ギクリとなったが予想は出来ていた。
俺たちは長い付き合いだ。感情の1つや2つを見抜けないのでは友とは呼べない。
「そうなんだよ。そこでこの前の件が気になって夜しか眠れないんだ。」
少しジョークも入れつつ本題に入る。
「眠れてんじゃねえか。」
笑いながらハジメはちゃんと突っ込んでくれた。
「だけどな、俺としては悪い事ではないと思うぜ。」
「ミサキはたぶん俺の事が好きだ。じゃないとほっぺにキスなんてしないだろ?。」
途端に真剣に話すハジメ。
ぐっ。あの光景がフラッシュバックして俺の心を抉る。
「俺がハルカのことが好きなのは変わらない。」
「ミサキに言い寄られたとしても悪い気もしない。」
「それが男ってもんだろ?。」
ハジメは続けて言った。
「つまり、どっちが付き合ったとしても言い合いっこは無しってことか?。」
俺は補足しながら聞いた。
「分かってんじゃん。そういうことだ。」
ちょっとキメ顔で言ってくる。
少し腹は立ったがハジメの言っていることは真っすぐなのだ。
好きな人に振り向いてもらう。そして実を結ぶ。
至極、単純明快だった。
「そうか、それを聞いてみたかったんだ。」
俺は空を見上げながらそう言った。
「なんだよ、キモいぞ。それ。」
ハジメが笑いながら言った。
そんな時
「おーい。やっぱりここにいたか。探したぞ。」
マナブが俺たちを見つけて駈け寄ってきた。
「久しぶりだな。しばらく見ない内にえらい変わりようだな。」
マナブが俺たちを見回しながら言う。
「まあ、ギルドでいろいろあってな、それより進路は固まったのかよ。」
俺は言葉を濁しつつも気になることを聞いた。
「ああ。彼女と同じ大学に行こうと思ってる。合格できたらギルド関係の研究だな。」
「くっそ。彼女ときましたよ。ハジメさん。」
俺はそのことをすでに知っていたが、わざとらしくマナブを弄る。
「ほんと、マナブも隅に置けねえよな。いつの間に出来たんだよ。」
「今度紹介してくれよな。」
流石はハジメだ。さらっと合わせてくれる。
「あれ?言ってなかったっけ?まあいいか。」
「今度、時間が空いた時にでも連れてくるよ。」
「実を言うと彼女もあまり暇な人じゃなくてね。俺もあまり会えないんだ。」
マナブは周りに人がいないか気にしながら小声で聞いてきた。
「ハルカ達にこそっと聞いたんだけど、アマチュアに昇格したんだって?」
情報管制ガバガバじゃねえか。
「耳が早いな。」
俺は思わず本音が出た。
ハハハと笑いながらもマナブは認めた。
「お祝いっちゃなんだけど、これを2人に渡したくて持ってきたんだ。」
マナブは1冊のノートを渡してきた。
「なんだこれ?。」
ハジメが顔を覗かせてくる。
「ギルドで妖怪が出るようになったと聞いてな。研究がてら一覧を作ってみたんだよ。」
マナブはノートの中を見せながら説明してくれた。
これは凄い。妖怪の特徴や伝記を克明に記してある。
これがあれば妖怪が出たとしても対応することができるだろう。
マナブノートと名付けてみよう。
「ありがたい。これは今の俺たちに必要なものだ。」
流石はマナブである。情報量と引き出しの多さは俺たちでも敵わない。
だてにメガネをかけている訳ではないのだ。
マナブは俺たちにノートを渡すと、用事があるからと先に帰ってしまった。
マナブも忙しくなったものだ。
俺たちはマナブノートを見て想像を膨らませていた。
聞いたことも無い妖怪が多くて興味深々だった。
すると誰かが近づいて来る気配を感じる。
目線をノートから上げるとハルカとミサキが屋上に来ていた。
「よくここにいると分かったな。」
俺は感心を込めて言う。
「あなたたちならここしかないと思ったわ。」
「さっきマナブ君が教えてくれたしね。」
ハルカが腰に手をあてながら答えた。
ふと横を見るとハジメとミサキが気恥ずかしそうに見つめあっている。
ハジメぇ。さっきの片思い宣言はどうした。
「それで、、今日は何しに?。」
俺は意識をハルカに戻す。
「言ったじゃない。話の続きを聞かせてもらうって。」
ハルカは少し呆れたように言った。
忘れてた。なんて言えなかった。
どうしてもお隣さん達の挙動が気になる。が。
俺はあの神域回廊についての詳細を出来るだけ分かりやすく説明した。
すると、みるみる驚いた顔になっていくハルカ。
「父さん。。。」
ほとんど聞こえない声でハルカが呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
そんなハルカの様子を見て、ミサキがそばに寄って肩を抱く。
「なんだ?喧嘩別れでもしたのか?。」
ハジメが無鉄砲にも聞いた。
「そんなんじゃないわ。」
「もうかれこれ10年は会えていないのよ。」
ミサキが代わりに答えた。
「私が覚えてるのも小さかった時の記憶だけよ。」
泣きそうな声でハルカは言った。
「そうだったのか。何か訳があるんだな?。」
俺は確かめるように聞いた。
コクリと頷く彼女達。
皆までは聞くまい。
「俺たちも助けてもらった手前、もう一度会って礼をしたいんだよ。」
「小坂さんを探し出さなきゃな。」
俺の言葉にハジメも頷く。
「優しいのね。」
目を少し赤くさせながらハルカは言った。
恐らく小坂が家に帰ってこない理由と
神域回廊に入り浸る理由は繋がっているような気がする。
俺は心の中でそう結論づけた。
「それと、今日はもう一つ用があって来たの。」
ハルカは気をとり直して言った。
「来月あたりに少し離れた神域回廊で大規模なクエストが依頼されるの。」
「参加するのにパーティーを組む必要があって、それで・・・。」
ハルカは若干もじもじしていた。
なんだか可愛らしい。
それで、俺たちか。
「分かった。参加しよう。」
俺は恰好つけて言った。
「だが、ハジメはこのとおりの有様でクエストはまだ無理だ。」
「参加するなら俺1人だな。」
俺は首を振りながら、さも残念がるように言った。
「行くに決まってんだろ!。」
ハジメが三角巾を投げ捨てながら言う。
「ありがとう。」
そう言いながらも彼女達は笑ってくれた。
「でも無理は駄目よ。」
それでもミサキは心配そうにハジメに声を掛ける。
頭を搔きながら恥ずかしそうに喜ぶハジメ。
く~。イチャイチャしやがって。
「あなた達、もう付き合ったらいいじゃない。」
ハルカはストレートに言った。
視線をずらすとミサキの顔は真っ赤に染まっていた。
「でも、まだ私にはまだ役目が・・・。」
ミサキは少し俯きながら言った。
「そうね~。今のはやっぱりなし。」
「でもミサキの代わりになってくれる人が居たら問題ないわ。」
ハルカはそう言いながらチラっと俺の事を見る。
修羅場だ。
「もう少し待ってみたら現れるかもね・・・。」
そう言うのが精いっぱいだった。
気持ちの整理なんて全然出来てない。俺にはまだ時間が必要だ。
俺は苦笑いするしかなかった。




