第15話 復活の兆し
「ここは、、、どこだ。」
俺は重いまぶたを開けながら呟いた。
体はなんだか窮屈だった。
目の前には透明のスクリーンがある。
どうやら俺は医療カプセルの中に安置されているようだ。
首を少し浮かせて左右を見る。
隣にはハジメがだらしない顔をしながら眠っていた。
よかった。
とりあえずは俺たちの命は助かったのだ。
動こうとするたびに全身に痛みが走る。
特に左の太ももは焼けるように痛んだ。
あの鶏にやられた時に頭を打ったせいで記憶が曖昧だ。
未だに頭がズキズキと痛む。
俺は少し落ち着いて状況を思い返していた。
小坂を助けようと神域回廊に入り、鶏の魔物に襲われて・・・
そこで疑問が浮かんだ。
あいつは小坂が来た時に逃げた。なぜだ?
俺たちをコテンパンにするほどの力があるのに。
俺は一つの仮説を立てた。
魔物といっても動物がなんらかの影響で、でかくなってるだけだ。
弱肉強食という自然の摂理は変わらないのかもしれない。
それだけ小坂の実力が圧倒的だったのか。
だが、今はあまり考えても仕方がなかった。
どちらにせよ、もう一度小坂に会って礼をするべきだ。そう考えたのだ。
俺はカプセルのスクリーンに目を移した。
スクリーンには俺の心電図やら脳波が映し出されている。
全身を表す模型には左ももの部分が橙色に変わっていた。
誰が見ても一目で患者の状態が分かるようになっているらしい。
ハジメのカプセルを遠巻きに見てみると、全身のうち半分は橙色に変わっている。
支給品とはいえアーマーが無ければヤバかったかもしれない。
俺は改めて防御力というものを意識した。
すると機械音が鳴り響き、カプセルの蓋が開いた。
蓋が少し浮いてから、上の方へとスライドして折りたたまれる。
まるで棺桶みたいだな。
「よお、生きてるか?。」
目を覚ましたハジメが顔だけこちらに向けて声を掛けてきた。
「ああ、おかげさまでな。」
俺は上体を肘で起こして答える。
「バカだったよなぁ。ろくな偵察もしないで突っ込んで。」
ハジメが後悔を滲ませながら話す。
ハジメにしてはめずらしい言葉に俺は少したじろんだ。
「小坂さんが俺たちを助けてくれたんだ。覚えてるか?」
俺は確認も込めて聞いた。
「そうなのか。完全にのびてたよ。後で礼を言わないとな。」
「それにしても笑っちまうよ、助けに行ったつもりが逆に助けられるなんてな。」
ハジメは自分の体を確認しながら言った。
「軽率も甚だしいわな。だけど助かったんだから、またやり直せる。」
俺はそう言うと、なぜかミサキの顔が頭に浮かんだ。
途端にポケットが冷たくなるのを感じた。
手鏡を取り出すと、氷のように冷たい。
あぁ。そうか、確か着替えさせられるときにロボットに没収されそうになったが
これに触れたロボットがショートしたんだっけ。
そんなことを思い出しながらその鏡を見た。
くすんだ鏡にはミサキの姿が映っている。
なんだ?。 少し嫌な予感を感じた。
すると病室の扉が開く。
顔を向けるとそこには宮澤と見知らぬギルダーがいた。
「やあ、容体は?回復傾向は良いようだね。今話せるかい?。」
相変わらず弾丸のような速さで一方的に宮澤が聞いてくる。
「はい、大丈夫です。」
俺は短く答えた。
一瞬彼女達が来てくれるものと淡い期待を抱いたのだが。違った。
簡単に言うと、俺たちは叱られた。分かりきっていた事だった。
ギルドに報告せずに無断で神域回廊に入った挙句
こうして怪我で動けなくなり、助けに来てくれたギルダーにも迷惑をかけた。
俺たちは淡々と「はい。」としか言えなかった。当然なのだ。
すると宮澤がすべての鬱憤を吐き出したかのように満足して、話題を切り替えた。
「ところで、君達に昇進の話が来ている。」
「本来ならば降格ものの失態だが、小坂さんの進言により審議が行われた。」
「実力は足りていないが成長の見込みがある。」
「それに加えて、仲間を救うために強力な魔物に立ち向かった勇気は称賛に値する。と。」
「君たちの返答次第だが、どうかね?。階段を登ってみる気は。」
宮澤の言葉に俺たちは唖然とした。
虫が良すぎないか?
俺たちはギルダーの資格はく奪とか、最悪ギルド追放ぐらいの事をされると思っていたのだ。
だが、受けない手はなかった。
「やります!。」
俺たちは息が合った。
それを見て、宮澤もその隣のギルダーもにっこりと笑った。
「精進しろ。」
宮澤は短くそう言うと、病室を出ていった。
なんとかなった。
そう思いながら気の抜けた顔で病室の出入口を見ると、
宮澤達と入れ替わるようにミサキとハルカが来ていた。
round2。か・・・。
彼女達は宮澤達が出ていくのを見届けてから俺たちのそばに来た。
「大丈夫なの?タケシ、怪我は?」
「そう。よかった。」
ハルカは矢継ぎ早に質問をしてきた。
「俺よりもハジメの怪我の方がひどいよ。」
俺はハルカにそう説明する。
ふとミサキのことを見ると
ハジメのそばに立って、折れてない方の手を握っていた。
「心配させないで。」
ミサキは優しくそう言うと、ハジメの頬に口づけをした。
俺は目を見開く。
静かに心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
・・・なん、だと・・・。
見たくはなかった。
俺のミサキに対する好意が音を立てて崩れていた。
もうこれは決定的にあれじゃないか、脈ありというやつだ。
ハジメもまんざらでもない顔をしている。
さっきの失念はどこ吹く風だ。
俺は・・・めちゃくちゃ複雑な気持ちになった。
ミサキのことは好きだったが、俺からの一方通行ではどこにも結び付かない。
もっと早く、告白だけでもしておくんだったと後悔した。
ハルカもそんな俺の様子を見ていた。
察したのか、そっと手を握ってくれた。
そんな彼女の健気さに俺の心は揺らいでしまった。
「じゃあ、私達はもういくから。」
「詳しいことは、退院してから聞くわ。」
ハルカの行動は速かった。
俺に気を利かせてくれたのであろう。
俺は返事も出来ずにただただ頷くことしかできなかった。
「おう、またな。」
ハジメが能天気な声で挨拶をする。
病室を後にするハルカとミサキ。
俺は彼女達の後ろ姿をただただ眺めていた。
ちくしょう。やっぱり可愛い。
ふつふつと謎の怒りがこみ上げるが、誰にもぶつけることは出来ない。
自分自身の問題だったのだ。
「あー。 もう一回、気絶してぇー。」
俺は枕に頭を落とし、呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
ハジメが聞いてくる。
「なんでもないさ。」
俺はため息をつくように言った。
その時、ビビっと閃いたのだ。
{のっぺらぼう}からもらった手鏡の効果を。
俺は一連の現象をじっくりと思い出した。
鏡が「熱くなった」時、俺は刺激を求めていた。
そして鏡が「冷たくなった」時、俺は現実を突きつけられた。
つまり、見たいものがある時は鏡は熱く、見たくないものがある時は鏡が冷たくなる。
良いものも、悪いものも、見せる。それが神鏡の効果なのではないかと考えた。
なんという神がかったアーティファクトなんだろう。
そのうえ他の人には触れないという呪いまで付いている。小坂を除いて、だが。
俺は少し、やる気が出てきた。
良くも悪くも自分次第だ。
己を写すこの鏡もまた俺自身なのだ。
俺は強くなってみせる。
決心を胸に刻み、鏡を握りしめた。




