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神域回廊  作者: 亜空間モドキ
第2章 新たなる1歩
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第14話 異変

 夕暮れの日に照らされた田んぼの稲穂が金色に輝いている。

その中にぽつりと佇む神社にある転移陣を2人のギルダーが警備している。


「ハルカの親父さん全然戻ってこねえな。」

ハジメはそう言いながら転移陣の横にある標識に目を向けた。


「ああ。少なくとも「向こう」の時間で5時間は経ってるはずだが。」

俺はゴーグルに表示された時間を見て計算していた。


小坂が神域回廊(パンドラ)に入ってから、こちらの時間で既に2時間30分が経過していた。


発見調査された神域回廊(パンドラ)には時間の「ずれ」を表示する標識が建てられる。

神域回廊(パンドラ)ごとに影響される時間が異なるのだ。

ここにある神域回廊(パンドラ)には「+2」と表示されている。

どういうことかと言うと、現実世界の2倍の時間がここの神域回廊(パンドラ)では経過する。

例えでいうなら、俺たちが見つけた神域回廊(パンドラ)の時間は2分の1だった。

つまりこの標識でいう「-2」になるのだ。


時間は伸びたり縮んだりはするが、過去には戻れない。

それが今の日本では常識だった。


「やべえな。もうすぐ閉鎖の時間だぞ。」

ハジメは焦った声で言った。


「ああ。逆に言えば囲いを閉鎖すれば俺たちも中に入れる。警備の必要は無くなるからな。」

俺は冷静に言った。


ここの神域回廊(パンドラ)は日中のみの解放となっていた。

故に夜は厳重に施錠して封鎖するのだ。


さらに日が傾き、黄昏時の空模様になる。


「よし、時間だ。」

俺はそう言って、行動を開始した。


一度聖域の外に出てから通信機器でギルドに任務完了の報告をする。


それから転移陣を囲っている柵の内側から施錠を掛けた。


これでひとまずは、誰かが誤って神域回廊(パンドラ)に入ることは無い。

まあ、この時間になれば誰も来ないのだが。


小坂が神域回廊(パンドラ)に入ってから4時間が経過していた。

つまり小坂は8時間は中にいることになる。何かがあったのかもしれない。


俺たちは意を決して神域回廊(パンドラ)に足を踏み入れた。


転移してすぐに状況を確認する。


転移陣を囲っている柵がない。

ということは、うまく神域回廊(パンドラ)には入れたようだ。


ただ、魔物の数が異様に多い。

それに俺たちが今まで相手をしてきた魔物とは、大きさも種類も違った。


「まずいな。」

ハジメが小さく呟く。


「戦闘は極力避けよう。目的は小坂さんの捜索だ。」

俺も声を抑えながら言った。


幸いにもここの聖域は広くない。

つまりは神域回廊(パンドラ)も広くないのだ。

無駄な戦闘を避けて捜索すれば、すぐに見つかるだろう。

辺りを見回したが小坂の姿は無い。

ひとまず俺たちは本殿に向かうことにした。

転移陣があった場所からはそう遠くない。


コソコソとなるべく足音を出さずに移動していたのだが蛇の魔物に見つかってしまった。


「来るぞ、構えろ。」

俺はハジメに合図する。


頷くハジメ。その手には両手剣がしっかりと握られている。


チロチロと舌をだしながらも魔物は滑らかに近づいて来る。

その大きさは1メートルはありそうだった。


「あの蛇、毒があるかもな、牙に気をつけろよ。」

ハジメは横目で言ってきた。


最初は様子を伺うようなそぶりを見せた魔物だが、鎌首を上げて威嚇してくる。


俺が槍を突き出して、蛇の攻撃を促す。

蛇の噛みつきを俺が避けたところでハジメが間合いを詰めた。


ザシュ!という音と共に蛇の首が落ちた。

首を失った胴体がくねくねとのたうち回る。


我ながら良い連携だと思った。

自然と笑みがこぼれる。


ハジメに目を向けると額に汗を流しながら呟いた。

「まずい。」


俺も咄嗟に周囲を見る。


先ほどの戦闘音に他の魔物が反応してしまっていた。

襲ってくる様子はないが、明らかに警戒されてる。


「数が多すぎる。遠回りしながら、本殿に行こう。」

俺は咄嗟に判断を下した。


ハジメと俺は走り出した。

周囲の魔物も反応して近づいて来る。


その時、ひと際大きい影が俺たちを襲う。


「ぐわぁっ。」

ハジメが不意を突かれて大きく吹き飛んだ。


「ココォ~、コココ。」

腹に響くような鳴き声を出しながら

2メートルは超える雄の(ニワトリ)が俺たちの行く手を阻んだ。


襟首を逆立てて大きく羽ばたきながら威嚇してくる。


俺たちが少し怯んだのを見て、突進してきた。

動きがめちゃくちゃ早い。


蹴り爪を間一髪で避けるが、風圧で体勢を崩される。


慌てて体勢を立て直したところに、もう一発蹴りが飛んでくる。


俺は咄嗟に槍で爪を受け止めたが、耐える間もなく吹き飛ばされた。

速いうえに重さも威力も段違いだ。


この(ニワトリ)バカ強ぇ。


ハジメが雄叫びをあげながら(ニワトリ)に立ち向かっていく。

その肩口には赤い血が滴っていた。


大きく振りかぶりながら(ニワトリ)を切る。が、弾かれた。

硬すぎる。


よろけたハジメを蹴り爪が直撃する。


「ぐあぁっ!。」

ハジメが苦悶の表情をしながら飛ばされた。


「ハジメェー!。」

俺は叫んだ。


(ニワトリ)は標的を俺に変えて突進してくる。


体を斜めに反らして蹴りを躱す。

咄嗟に槍を突き出して(ニワトリ)の足に突き刺した。

浅い。


「ゴケー!」

と鳴きながら(ニワトリ)が少し後ずさる。


俺は間髪入れずに間合いを詰めて槍を刺す。

羽毛が硬すぎて刃が通りきらない。


力が逃げてバランスを崩した俺に蹴り爪がお見舞いされる。


避けきれずに俺はまともに蹴りをくらった。


「ぐふぅっ」

と肺の中の空気が無くなる。

苦しい。


吹き飛ばされる感覚に死を感じた。

もうだめかもしれない。


そう思った時、(ニワトリ)の動きが止まった。


「コココ、コ〜。」

と辺りをキョロキョロと見ている。


何かを見つけ、慌ててその場を離れていく。

不思議と周りにいた魔物も居なくなっていた。


「お前らこんなところで何してる。」


声のする方に顔を向けると小坂がいた。


俺はそこで気を失った。





気が付くと俺たちは聖域の外に並べて寝かせられていた。


日が落ちている。辺りは月明りに照らされていた。

俺はとっさに周囲を見回す。

どうやら神域回廊(パンドラ)からは出ているようだ。魔物の姿はなかった。

それと同時に痛みでうめき声が出た。

俺の左太ももは引き裂かれてはいたが包帯で止血されている。

手当してくれたのだろう。


暗さに目を凝らしつつもよく見ると、小坂がハジメを手当しているようだ。


俺は這いずるようにしてハジメのそばに寄る。


ハジメの状態は酷いものだった。


肩口は血で濡れている、右の脇腹はえぐれて肋骨が微かに見えていた。

右手も肘の辺りからあらぬ方角を向いている。

小坂は淡々と応急処置を施しているようだった。


「気が付いたか。」

小坂は手を動かしながら声を掛けてきた。


「あの、助けていただいてありがとうございます。」

俺は疑問を飲み込んで、まずは礼を言った。


「ああ。」


小坂は一拍置いて言った。

「なんで入ってきた。」

「あの」神域回廊(パンドラ)はお前たちのレベルじゃ無理だ。」

「そんなことも分からなかったのか。」

小坂の言葉には怒気が含まれていた。


「すみません。 小坂さんが戻ってこなかったので心配になって、見に行ってしまいました。」

俺は下を見ながら言った。


「そうか。それは俺も悪かったな。」

小坂は優しい声に戻っていた。


「もうすぐギルドの連中が来る。」

「この子の傷は深いが、死にはしない。安心しろ。」

俺はそんな小坂の言葉に安堵すると共に、泣きそうになった。


自分の無計画な行動のせいでハジメが大怪我をした。

俺自身も怪我をしたが、小坂がいなければ死んでいたという事実に悔しさがこみ上げてくるのだ。

今までが順調すぎた。浮足立ってなんでも出来ると思い込んでいた。

自分の非力さに現実を噛みしめた。


まもなくギルドの応援がやってきて、俺たちは搬送された。

小坂はギルダーの1人に仔細を伝えて神域回廊(パンドラ)に1人で戻っていった。


小坂に対する疑問がいくつも浮かんだが、今はそんな彼の背中を見ているしかなかった。

































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