第12話 初任務
多くのギルダーが行き交うロビーに1人の学生が誰かを待っている。
「悪い悪い。装着に手こずった。」
ハジメは各装備を確認しながら言った。
「大丈夫だ。それより忘れ物はないか?。」
俺は確認をする。
今日は俺たちの初任務の日だった。
学校を公欠して仕事をするのはなんともいえない背徳感がある。
最初は彼女達と一緒にやろうと言ったのだが断られてしまった。
冷たいやつらめ。
「プライベート」ランクの受けられる仕事は決まって雑用だったのだ。
だが俺たちは嬉々として任務に赴いた。
なによりコソコソと人目を気にして稼ぐ必要がないのである。
これからは堂々とギルダーとして稼ぐことが出来る。
それだけで俺たちの気持ちは軽くなるのだ。
ロビーには大きなスクリーンが展開されており、さまざまな情報が掲示されている。
装着しているゴーグルでそのスクリーンを見ると、より詳細な情報がゴーグルに映し出される。
すごい技術だ。俺がこれを見たいと思うだけでその情報が映し出されるのだから。
俺たちは手始めに警備の任務を経験してみることにした。
運搬や保守よりも神域回廊に関係しそう、ってなだけなのだが。
ゴーグルを通して、警備の任務を選択する。
そこには集合場所や時間、参加人数の詳細などが克明に記録されている。
俺たちが受注した段階で、まだ人数の空きがあった。
「とりあえず、近場のとこにしようぜ。」
ハジメが横目で見ながら言ってきた。
「作業時間も少ないし、これでいいんじゃないか?。」
俺は手頃な任務を見ながら言った。
任務の受注は完了したが、集合時間までまだ時間が余っていた。
「時間あるから、飯でも食いますか。」
ハジメが提案する。
頷く俺。
「地味にギルドの飯に興味あったんだよな~。」
鼻をヒクヒクさせながらハジメが言う。
「食ってみなきゃ分かんないけどな。」
俺も少し期待した顔で答えた。
ロビーの端の方にフードコートがある。
どれもこれもおいしそうな食べ物ばかりだ。
「とりあえず俺はラーメンだな。これだけは外せん。」
そう言いながらハジメは注文をしていた。
俺は腹も減っていたのでステーキを注文した。
腕に着けている機器で支払いを済ませる。
これは自分の持っている銀行口座と紐付けされている為、ギルドでは基本的に電子マネーを使うのだ。
注文した料理を配膳ロボットが持て来てくれる。
「これはうめぇ。めちゃくちゃうまいぞ。」
ハジメが口いっぱいにラーメンを頬張りながら言ってくる。
俺も出されたステーキを前に生唾を飲み込んだ。
あらびきの黒胡椒とガーリックの香りが俺の空っ腹を刺激する。
中はミディアムレアといったところか。一口噛めば甘味のある肉汁が口いっぱいに広がる。
ああ、幸せだ。
俺たちはなんといってもグルメなのだ。
うまいものを食べる為に働いているといっても過言ではない。
あっという間に完食する2人。
「うんまかった。安いしうまいし、最高だな。」
ハジメが至福の顔でそう言った。
俺は激しく同意した。
「さて、そろそろ時間だし行くか。」
そう言って俺たちは席を立つ。
指定の集合場所に行くと見慣れた人物がいる。
「あなたたち、遅いわよ。」
ハルカが腕を組みながら待っていた。隣にはミサキもいる。
「なんでいるの?用事があったんじゃないのか?。」
俺は驚きを隠せなかった。
「初任務でオロオロしてるんじゃないかと思って、見に来たのよ。」
少し偉そうな態度でハルカが言った。
なんだツンデレじゃねえか。
「見に来た。か。一緒に行く訳では・・・。」
ハジメがそう言いかけた。
「一緒に行くわよ。」
食い気味にミサキが言う。
こっちもかよ。。。
俺はあきれ顔をしつつも彼女達に感謝した。
なんだかんだ言っても知らない人と任務をするより知ってる人の方がいい。
俺たちは他愛のない話をしながら送迎用の施設まで移動する。
目的地までの移動は基本的には全自動の車で移動することになる。
そこで任務をしているギルダー達と引継ぎをして交代するのだ。
車の中では、俺たちはギルドの食事の美味さを彼女達に熱弁した。
彼女達はあまりギルドで食事を取らないらしい。今度誘ってみよう。
そうこうしている内に目的地に着く。
そこは少し人里離れた人気の少ない場所だった。
それでも大きさはそこそこあるようだ。
神社の敷地に入り本殿がある方向へと歩みを進める。
そこには3人のギルダーが交代を待っている様子だった。
「やあ、君たちが交代の要員だね。」
爽やかな感じの青年が声をかけてきた。
俺たちのギルドカードを確認して大きく頷く。
途端にわざとらしく驚いた声を出した。
「セミプロが警備の任務を受けてるのかい?。」
「ここは田舎の方だし、参拝客もほとんど来ないけど。」
チラチラとミサキの事を見ながら言ってくる。
「まあ、君達みたいな可愛い子と警備につけるなんて、君らも幸せ者だな。」
今度は俺たちの方をチラチラと見ながら言ってきた。
なんだこいつ。
「この子たちが初任務だから付き添ってるだけよ。」
ハルカが若干イライラしながら答える。
それで納得したような顔をする青年。
わざとらしい反応をしてくるこの青年に、この場所についての引継ぎを受ける。
「普通」はアマチュアランクをリーダーとしてボランティアの人やプライベートランクの
ギルダーで警備をするらしい。
セミプロランクのギルダーが出てくる場所なんてものは、大規模な場所か参拝客が多い場所だけらしい。
この青年はなぜか「普通」をめちゃくちゃ強調してくるのだ。
なんなんだ一体。
その後もなにかとネチネチと質問と回答を飛ばしてくる青年。
ふいにミサキが言った。
「それで、あなたのランクは?。」
ギクっとしながらもギルドカードを見せてくれる青年。
そのカードには「プライベート」としっかり刻まれていた。
なるほど。見栄っ張りか。
下級者は上級者には逆らえないのだ。
「今は人手が足りないから、しかたなくリーダーをやっているんだ。」
言い訳がましく青年が言った。
途端に怪訝な顔になる俺たち。
「それじゃあ、後はよろしく。」
俺たちのそんな反応を見てバツが悪そうに、ボランティアの2人を連れて
そそくさとこの場を去っていった。
「ギルダーってあんな変な奴ばっかなのか?。」
俺は彼女達に聞いてみた。
「十人十色だから、、、。」
ハルカが言葉を濁す。
そうなのか。
「ああいうのは後で顎で使ってやればいいんだよ。」
「俺らはまずランクを上げねえとな。」
ハジメが吹っ切れたように言う。
流石は我が友。前向きにやっていかないとな。
そうして俺たちは警備の任務についた。
基本的には神域回廊への転移陣に関係者以外が入らないように警備するのだ。
後は神社内{聖域}を巡回して、不審者やいたずら小僧が悪さをしないように見張る。
そこまで難しい内容ではなかった。
転移陣には簡易的な囲いがしてあるし、参拝客もまばらだ。
俺たちは直ぐに手持ち無沙汰になった。
つまり、暇だったのだ。
刺激という刺激もなく、たまに来る参拝客は転移陣に近づこうとすらしない。
この程度の仕事なら警備ロボットでも出来るんじゃないかと思っていたのだが、
どうやらそれでは駄目なのだとか。
この聖域内は異空間装置の影響で磁場が変動している。
つまり神域回廊と同じ状況にあるとのことだった。
ロボットは使えない。故に人がこうして警備しなければならないのだ。
俺は肩を落としていた。
思っていたのと違う。と
「警備っていうのは何も問題が無いというのが仕事なのよ。」
ハルカがそう説明してくれた。
「そろそろ巡回に行きましょ。」
ハルカがそう言って俺の手を引っ張った。
不覚にもドキっとしてしまった。
落ち込んだ俺に気分転換を促してくれているだけなんだろうが。
付いてこようとするミサキをハルカが止めた。
「巡回だけならタケシと2人で十分よ。」
その言葉にミサキは頷き、転移陣の警備に戻る。
聖域の巡回中に俺は気になっていた事をハルカに聞いてみた。
「ハルカとミサキってなんでいつも一緒にいるんだ?。」
「俺は2人が付き合ってるんじゃないかと思っているんだが。」
俺は続けざまに言う。
「違うわよ!。そんなわけないじゃない。」
ハルカは少し赤面しながら言った。
「あの子はね、私の護衛なのよ。」
ハルカはぽつりと呟くように言った。
「ミサキが護衛?。なんで?。」
俺は驚きつつも続けて聞いた。
「それが私の父の願いなんだって。」
なにやら思いの籠った声でハルカが言う。
父の願い?どういうことだ。
しかしそれ以上のことを彼女は話してくれなかった。
何か深い理由があるのだろう。
ただ無言で2人は歩く。
気が付くと転移陣の場所までの巡回を終えていた。
「異常なし。」
俺は形式的だがミサキにそう報告する。
小さく頷くだけのミサキ。
ハジメはなにやらニヤついた顔をしていた。
いつもの悪い顔だ。
そうした業務をこなしているといつの間にか日が傾いていた。
交代の人員が3人来る。
こうして俺たちの初任務は無事終了したのである。
長い1日だった。
だがこれを積み重ねなければ「上」は目指せない。
俺は先が思いやられる気持ちに小さくため息をつくのであった。




