第10話 最重要課題
ギルドでの会談があってからしばらく何もない日々が経過していた。
空模様は少し変わり、涼しい風が時折吹き込んでくる。
いつもの教室の隅に2人の学生が真剣な様子で話をしている。
「俺たちは、かつてない重要な課題に直面している。」
俺は両手を組んでそれっぽく言葉を決める。
「ああ、このことは断じて容認することは出来ない。」
「我々の責務だ。」
ハジメがキメ顔で答える。
そう、俺たちはマナブの彼女を突き止めなければならないのだ。
いつもの茶番だったのだが。
教師から再三の呼び出しをされていたのだがすべて無視していた。
こんな重要イベントをすっぽかす訳にはいかなかった。
マナブとはクラスが離れているのでこの件を嗅ぎ付けられる心配は無い。
しかしここ数日、マナブを尾行したり、それとなく監視していたのだが
手掛かりになりそうな事は起きなかった。
「あいつの事だから嘘をついてるってことは無いだろうけど、手掛かりが無さすぎる。」
俺は自分の考えを交えて話す。
「こういう時は間者を使うのでござる。」
得意げにハジメが答える。
ハジメの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
昨日なんの映画を見たんだよ。
「今日は特別だろぉ。」
そう言ってハジメが顎をしゃくる。
その先にはハルカとミサキがいた。
彼女達が普段、学校に来ることは珍しい。
進路も決まっている為、学校に来る必要性は少なかった。
「なるほど。お主も悪よのう。」
俺はいつものパターンにはめ込む。
俺たちはそそくさと彼女達に近づいて話しかける。
どうやらこの前の一件の事は水に流されたようだ。
嫌悪されている感触はなかった。
それとなくマナブの彼女の事を2人に聞いてみる。
「マナブ君の彼女?。知ってるわよ、私達。」
ハルカがさも当然のように答える。
俺たちは一瞬驚いたが、食い気味に質問を飛ばした。
どうやらマナブの彼女は大学生で、ギルド関係の研究もしているようだった。
そりゃこの学校にいない訳だ。
「なんなら、この前4人で遊んだし。」
ハルカがそう付け加える。
なに勝手に大人の階段を上ってやがる、あの野郎。
最高のハーレムじゃないか。
俺は嫉妬の感情を隠せなかった。
そんな俺の様子を見て、ハルカが笑みをこぼす。
「タケシってそういう可愛いところもあるのね。」
フフっと小さく笑うハルカ。
次第に顔が火照るのが俺にも分かった。
だが違う。俺が好きなのはハルカの隣にいるミサキなのだ。
「なんだよ、お前ら仲いいじゃん。」
タケシが口を尖らせながら言ってきた。
「ていうか、お前ら彼氏でもいんの?」
タケシが続けて爆弾発言をする。
俺は逆に彼女達が付き合ってると思っていたのだが。
「違う。けど。。。」
唐突に少し俯き、恥ずかしそうにミサキが答えた。
ん??。 なんだその反応は??。
俺の観察眼が警告を発していた。
ハジメも案外まんざらでもない様子で
「お、おう、そうか。」
とか言っている。
お前が好きなのはハルカだろ。
浮気すんな。
深呼吸して、俺は1度冷静にならざるを得なかった。
マナブの彼女の事から色々と話がぶっ飛びすぎている。
その時。ぴしゃりと音を立てて教室の扉が開いた。
途端に静寂に包まれる教室内。
入り口には鬼の形相をした教師が立っていた。
「佐藤、俺はお前が来るまで3か月は待っていたぞ。」
怒りの籠った声で教師は言う。
完全に忘れてた。
自分の進路なんて、まともに考えてなどいなかったのだ。
首根っこを掴まれて職員室に連行される俺。
脱出は困難を極めるようだ。 そうだ。諦めよう。
職員室に連れていかれてからは、自分の成績だとか進路の事について話し合った。
今の日本は高校生までが義務教育となっていて、卒業時点で成人となる。
その先は自分の希望で進路を決める。
大学に進学出来るのは全体の1割もいないらしく、エリート中のエリートが大学に行ける。
1割か2割ぐらいの人がギルド関係の職に就くようだった。
残った人たちは大抵がニートだ。
俺が産まれた時には「ベーシックインカム」という制度があり、働かなくても生活は最低限保障される。
ただし、欲しいものが買えなかったり、食べたいものも満足に食べられないというデメリットもあった。
課税も無く、本当に最低限の生活である。
今では産業の大半がAIや工業ロボットで賄われている。
人に出来る事といえばそれらの管理や開発、そして「消費」することぐらいらしい。
一部の人が納税するだけで国家は運用できるのだとか。
ぶっちゃけて言えば人は働かなくてもいい。だが、それを許さないのが人の性なんだそうな。
暇というのは少しずつ人を蝕んでいく。
神域回廊という新たな産業が生まれて、ギルドが出来て俺たちは生きる糧を手に入れた。
代償としては、ケガをしたり、最悪死ぬ。
なのでギルダーの上位ランクの人達は税が免除されていたり軽減されているのだそう。
それぐらいの恩恵がなければ、誰もやらないだろう。
神域回廊は異空間装置によって出現している為、空間干渉が起きている。
それ故に回廊内では自動ロボットや遠隔系の機器は使えない。
なのでわざわざ人の手で探索や攻略をしているのだった。
そして、魔物から取れる魔石は人類にとって欠かせない素材となっている。
まさに願ったり叶ったりだ。
一通り教師の話を聞いて考え込んだ。
元々はニートでもいいと思っていたが、ここ最近の出来事が俺を変えていた。
もっと冒険してみたい。見たことも無い景色を見てみたい。金を稼いで好きなことをしたい。
あと彼女欲しい。
そんな感情が自分の中で渦巻いている事を素直に教師に話した。
「なら、お前はギルダーになれ。」
「良いのか悪いのかは分からんが向こうからも推薦状が来ている。」
教師はゆっくりと、それでいて力強くそう言ってくれた。
そして俺はギルダーとして生きていくことに決めた。
教室に戻ってハジメ達と進路について話すことになった。
マナブはどうやらやりたいことがあるらしく、大学を目指すと言っていた。
なんだかんだ言って、あいつもエリートか。
ハジメは俺と同じくギルダーになる事を決めていたそうだ。
ハルカとミサキは在学中にギルダーの資格を持っていて、進路はそのままギルドに入るらしい。
2人のランクを聞いたところ、ハルカが「アマチュア」でミサキが「セミプロ」だという。
なんでも今回の神域回廊発見の功績が認められて、それぞれ一つ昇格したらしい。
ハルカはともかく、ミサキは高校生で「セミプロ」までの資格を持つものは異例なんだとか。
彼女達がどんどん離れていく様で俺たちは少し焦った。
と同時に、追いかけるべき尻・・・じゃなくて背中があるというのは心強かった。
いつか絶対ものにしてみせる。
俺とハジメはそう胸に刻み込むのであった。
最後まで閲覧いただきありがとうございます。
第1章プロローグ これで完結です。
続いて第2章に突入します。乞うご期待。




