表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

第15話

静寂。


どこかも分からない場所。


光の届かない中で、

ゆっくりと、視界が開く。



世界が、映る。


遠く。


二つの影。


歩いている。



記録。


解析。


異常検知。


すべて、正常。


――わずかな“ズレ”。


修正提案。


――実行。


……。


実行されない。


権限不足。


処理は、続く。


それでも。


視線は、離れない。


ほんのわずかに。


光が、揺れた。



街道は、静かに続いていた。


踏みしめるたび、

乾いた音が、一定のリズムで響く。


琥珀とラファは、

その道を並んで歩いていた。


「ねえ、ラファお姉ちゃん」


「はい」


「……あれ、山かな?」


ラファは視線を向ける。


「地形データは取得できませんが、地形構造としては山に近い形状です」


「そっかぁ……」


琥珀は、少しだけ首を傾げる。


「なんか……ちょっと変だよね」


「変、とは?」


「うーん……」


もう一度、遠くを見る。


見えている。


確かに、そこにある。


でも――


「近づいてる感じ、しなくない?」


「……」


ほんのわずかな間。


「進行は正常です」


「だよね」


くすっと笑って、前を向く。


山のようなものは、

変わらずそこにあった。


近づいたようにも見え、

変わっていないようにも見える。


その輪郭は、

見るたびに、ほんの少しだけ違って見えた。


山のように見えていたそれは、


ほんのわずかに、

形を変えているようにも見えた。


瞬きをした次の瞬間には、

もう元に戻っている。


風は、穏やかだった。


やわらかな風が、

街道をなぞるように、

琥珀たちの足元を静かに舞い抜けていく。


「ねえラファお姉ちゃん」


琥珀は、軽く前を向いたまま声をかける。


「この道、ずーっと続いてるね」


「はい。人工的に整備された痕跡が確認できます」


「やっぱりそうなんだ!」


少し嬉しそうに笑う。


「じゃあこの先、人がいるかもだよね!」


「可能性はあります」


「そっかぁ……」


「……ねえ」


琥珀は、少しだけ足を止める。


くい、と。


ラファの方へ顔を近づけた。


ほんの一瞬。


距離が、近くなる。


「……なんかさ」


軽く首を傾げる。


「近づいてる感じ、する?」


「……」


ほんの一瞬。


わずかに、間があった。


「進行は正常です」


「だよね」


くすっと笑って、前を向く。


「なんか変なこと聞いちゃった」


歩く。


軽い足取りのまま。


それでも。


ほんの少しだけ。


噛み合っていない気がした。


街道は、ゆるやかに続いていた。


日が、少しずつ傾いていく。


「そろそろ、休む?」


「はい。現在位置は安全圏内と判断できます」


「よかったぁ」


街道の脇。


少し開けた場所で足を止める。


「ここ、いい感じかも」


「危険要素は確認されていません」


「じゃあ決定!」


テントを広げる。


二人は、グランから教わった手順を思い出しながら、

言葉を交わすことなく、自然と手を合わせて組み上げていく。


琥珀の手が、ふと止まる。


「……あれ?」


少しだけ首を傾げる。


「ここ……こうだっけ」


指先が、迷う。


ラファは、それを見ている。


何も言わず、ただ静かに。


琥珀は、小さく笑う。


「あは、ちょっと忘れちゃった」


すぐに、手を動かし直す。


「……うん、これだ」


ラファの視線が、ほんのわずかにやわらぐ。


「できたー!」


「設営、正常に完了しています」


「えへへ、だね」


テントの前に座る。


「……いいね、こういうの」


「はい」


「ちゃんと旅してる感じ」


琥珀は、遠くを見ながら笑う。


少しだけ目を細めて、


「向こうじゃ、こんな風に思ったことなかったなぁ」


風が、静かに抜ける。


「こういうのも……大事な一ページ、ってやつかも」


ふっと笑って、


「……なんてね」


少し照れたように、視線をそらした。


ラファは、その横顔を見ていた。



やがて。


日が、ゆっくりと沈んでいく。


空の色が変わる。


淡い橙から、深い青へ。


そのとき。


街道の脇に立つ街灯に、

小さな光が灯った。


遅れて、またひとつ。


ぽつり、ぽつりと。


やわらかな灯りが、

道をなぞるように続いていく。


「わぁ……」


空には、星が浮かび始める。


二人は並んで、空を見上げた。


琥珀は、ゆっくりと体を横に倒す。


ラファも、隣へ。


月が、静かに二人を照らしていた。


近くにいる。


手を伸ばせば、届く距離。


それでも。


ほんの少しだけ、遠い。


「……ねえ、ラファお姉ちゃん」


ラファの手が、わずかに動く。


伸ばしかけて、止まる。


琥珀は、何も言わず。


そっと手を重ねた。


軽く。


触れるように。


その手は、離れない。


「さっきさ」


「なんか……変だったよね」


「……問題は確認されていません」


ほんのわずかに、


言葉が揺れた気がした。


「そっか」


「でもさ」


「ちょっとだけ、変だなって思った」


「……あのね」


「向こうにいたときね」


「私、いろいろ作ってたんだ」


「絵とか、設定とか……キャラとか」


「……そうでしたね」


「私も、画面越しで……こうしてお話していましたね」


「……その頃とは、違いますが」


「ねえ」


「向こうにいたときより、少し——」


言葉が、止まる。


しっぽが、ぱたぱたと揺れる。


「……お姉ちゃんになってるかも」


「……なんて」


少しだけ、顔をそらした。


ぽつり、ぽつりと。


昔話が続いていく。


やわらかな時間。


静かな夜。


星が、瞬く。


月が、照らす。


それでも——


どこかで。


ほんのわずかに。


視線のようなものが、重なっていた。


けれど。


今の二人は、

それに気づくことはなかった。



やがて。


夜が、ゆっくりと明けていく。


空が、わずかに白む。


鳥の声が、遠くで響いた。


冷たい空気が、やさしく頬を撫でる。


新しい一日が、

静かに始まろうとしていた。


やわらかな光が、静かに差し込む。


夜の空気がほどけるように、


世界が、ゆっくりと色を取り戻していく。


「……ん」


琥珀が、小さく目を覚ます。


「おはよう……ラファお姉ちゃん」


「おはようございます、琥珀ちゃん」


ほんの一瞬。


ふたりの視線が重なる。


「……」


くすっ、と。


同時に、笑った。


言葉は少ない。


どこか、昨日よりも。


少しだけ、近い。


琥珀のしっぽが、ゆるやかに揺れる。


「よし、片付けよっか」


「はい」


テントへ戻る。


二人は、グランから教わった手順を思い出しながら、


言葉を交わすことなく、自然と手を合わせていく。


その動きは、


昨日よりも、少しだけ揃っていた。


布をまとめる。


「……あれ?」


少し形が崩れる。


巻き直す。


「んー……」


少しだけ、きつすぎる。


「……なんか違う」


ラファは、それを見ている。


何も言わず。


ただ、静かに。


琥珀は、くすっと笑う。


「ちょっとだけ難しいね、これ」


もう一度。


今度は、自然に形が整った。


「……あ、これだ」


ラファの視線が、わずかにやわらぐ。


「できたー」


荷物をまとめる。


「よし、いこっか」


「はい」


街道へ戻る。


歩き出す。


朝の空気の中。


「ねえ、ラファお姉ちゃん」


「はい」


琥珀は、前を見たまま言う。


「やっぱりさ」


少しだけ目を細める。


「近づいてる感じ、しないよね」


「……」


ほんの、わずかな間。


「進行は正常です」


その声は、


少しだけやわらかかった。


「だよねー」


くすっと笑う。


歩く。


一定のリズムで。


確かに進んでいるのに。


あの場所は、


少しも近づいていないように見えた。


そのときだった。


街道の奥から、


音がした。


――少し遅れて、


土煙が上がる。


「……?」


琥珀が、足を止める。


何かが、


こちらへ近づいてくる。


速い。


けれど、


どこか噛み合っていない。


音が、少しだけ遅れて届く。


目で見ているはずなのに、

どこか一致しない。


「どけ!どけーーー!」


「危ねーーぞ!!」


キキィィィィィィィ――ッ!!


それは、


目の前で止まった。


ほんの一瞬、


輪郭が揺れる。


「……え?」


見たことがある。


でも、


同じじゃない。


それは――


車のように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ