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第13.5話「その一言から始まるもの」

風が、静かに止まろうとしていた。


夜の名残が、まだ空の端に残っている。


風車は――

完全ではないまま、かすかに鼓動を続けていた。


月が、ゆっくりと沈んでいく。


朝が来る。


けれど、それはまだ

“始まりきっていない朝”だった。


「……」


琥珀は、その風車を見上げる。


昨夜。

マナを使い、クラフトを行った。


不完全ではあるが、

風車の鼓動を――繋ぎ止めた。


成功、と呼べるのかは分からない。


けれど。


前のような、はっきりとした代償は――なかった。


「……あれ?」


ほんの一瞬。


胸の奥に、違和感がよぎる。


軽すぎる。


けれど、その感覚はすぐに消えた。


「行くか」


グランの声に、琥珀は小さく頷く。


二人は、炭鉱へと戻る。


一区切り。


そう思った――その時。


「……っ」


ぴたり、と琥珀の動きが止まる。


耳が伏せられる。


しっぽが、きゅっと縮こまる。


「あ……」


思い出した。


約束。


女将との約束を――破っている。


「……どうしよう」


声が、どんどん小さくなる。


完全に、子供のそれだった。


グランは、一瞬だけ目を丸くし――


ふっと笑った。


「なら、一緒に謝るか」


「え……?」


「一人で怒られるより、マシだろ」


その言葉に、琥珀は少しだけ顔を上げる。


「……うん」


小さく頷き。


二人は、帰路についた。



集落が近づく。


その時。


「――こはくー!」


遠くから、声が響く。


「……っ!」


琥珀の顔が、一瞬で青ざめた。


「来てる……!」


「何がだ」


「怒りが……!」


意味の分からないことを言いながら、慌てる。


ラファは、少しだけ遅れて反応する。


「……音源、確認しました」



集落の入口。


そこに立っていたのは――


ひとりの女性。


心配そうな顔で、こちらを見ている。


女将ノーラ


琥珀は、反射的に動いた。


ラファの後ろではなく。


グランの後ろに、隠れる。


「……あ」


その瞬間。


ラファの足が、ほんのわずかに止まる。


一歩。


遅れる。


言葉はない。


けれど。


そこに、わずかな“距離”が生まれた。



ノーラは、琥珀を見て――


そして、グランを見た。


「……」


すっと、息を吐く。


胸を張るようにして。


「……無事で、よかった」


怒りではない。


安堵だった。



その背後から――


ひょこっと、小さな影が飛び出す。


「あっ!」


次の瞬間。


「父ちゃん!」


少女が、グランに飛びついた。


リノ


「お、おう!?」


勢いに押されながら、受け止めるグラン。


琥珀とラファは、同時に声を上げた。


「えーーーーーー!?」



家へ戻る。


泥だらけの二人を見て、ノーラが眉をひそめる。


「どこで泥遊びしてきたのよ」


「……いろいろあってな」


グランが苦笑する。


けれど。


その空気は、どこか柔らかい。


完全に元通りではない。


けれど――


確かに、日常は戻り始めていた。



「ほら、入ってきなさい」


次の瞬間。


琥珀とラファは、そのまま風呂へ放り込まれた。


「えっ!?」


「きゃっ!?」


リノも一緒に飛び込んでくる。


湯気と、笑い声が広がる。



外。


その声を聞きながら。


グランとノーラは、静かに立っていた。


「……にぎやかだな」


「ほんとね」


少しの間。


湯気の向こうから、笑い声が響く。


「ノーラ、悪かったな」


「いいのよ」


ノーラは、ふっと微笑む。


「……リノが、あんなに楽しそうにしてるの、久しぶり」


「……そうか」


「歳の近い子がいて、嬉しいんでしょうね」


グランは、小さく頷いた。



食卓。


湯上がりの余韻が残る中。


料理が並ぶ。


「はいっ!」


リノが、元気よく手を合わせる。


「いただきまーす!」


琥珀は、少しだけ遅れて。


「……いただきます」


ラファも続く。


「いただきます」


グランは、慌てて。


「お、おう……いただきます」


そして。


きょとんとした顔で――


「……それ、なんだ?」


リノは、ぱっと顔を上げる。


少しだけ、胸を張って。


「これはねー♪」


楽しそうに、説明し始める。


ノーラは、何も言わず。


ただ、微笑みながら見守っている。


琥珀は、少し照れながら笑う。



ラファは――


その光景を、静かに見ていた。


「……」


誰かに教わり。


それが、当たり前のように受け継がれていく。


(これが……)


ほんのわずかに、視線を落とす。


(家族、というもの……)


言葉にはしない。


けれど。


その意味を、少しずつ理解していく。



夜。


静かに更けていく。


食事の中で、今日の出来事が語られ。


笑いが生まれ。


やがて、灯りが落ちる。



――場面が変わる。


月が、再び空に浮かぶ。


ラビィは、ひとり。


風を感じながら、立っていた。


その視線の先。


水瓶座の風車。


わずかに。


ほんのわずかに――光が増している。


「……」


けれど。


その光は、不安定だった。


揺れている。


今にも、途切れそうなほどに。


「面白いことをするね」


くすっと、笑う。


期待。


そして、不安。


どちらもある。


「いい経験になる」


すぐに答えは与えない。


それでいい。


「世界は、まだ広い」


「ゆっくりでいい」


風が、優しく吹く。


「たくさん学んで」


「たくさん出会って」


「そして――」


空を見上げる。


「また出会えた時に」


「その時は、少しだけ手を貸そう」


月を見つめながら。


静かに、呟く。


「……アリュー」


そして、微笑む。


「本当に、面白いことになってきたね」



世界は、変わり始めている。


誰も気づかないまま。


静かに。


確実に。

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