第12話
扉の向こうに出た瞬間。
そこには——
炭鉱夫たちがいた。
「……え?」
見覚えがある。
さっきまで、外にいたはずの光景。
ツルハシの音。
会話。
動き。
すべてが——
同じだ。
「……」
琥珀は、一歩踏み出す。
近づく。
けれど——
誰も、こちらを見ない。
「……あれ?」
手を伸ばす。
触れる。
確かに、触れている。
なのに。
存在していないかのように——
認識されない。
「……」
耳が、わずかに揺れる。
違和感だけが、残る。
——その瞬間。
景色が、歪んだ。
次の瞬間。
琥珀たちは——
元の場所に、立っていた。
そこは、倉庫のような空間だった。
けれど。
本来あるはずの歯車はなく。
あるのは、石と岩だけ。
「……さっきの」
振り返る。
もう、あの光景はない。
「……なんだったんだろ」
奥へ、進む。
壁に。
絵が、描かれていた。
「……?」
近づく。
違和感。
羽が——
動いているように見える。
四枚。
いや——
八枚。
位置が、変わっている。
「……多い?」
琥珀は、首をかしげる。
「……形は違うのに」
指先で、なぞる。
「……同じ、気がする」
ラファは、わずかに間を置く。
「……否定できません」
その時。
月光粒子が、ふわりと流れた。
壁を、照らす。
文字が、浮かび上がる。
〇〇〇〇〇〇〇、〇〇゛〇〇とき——
〇〇〇〇、〇〇〇〇き〇ら△。
き〇゛〇〇〇〇、き〇〇とき、
「……な」
「……ら」
「……と、き……」
「……◯゛……?」
濁点の形だけが、残っている。
文字は崩れているのに——
なぜか、それだけが分かる。
「……なんか」
言葉に、できない。
ラファは、静かに言う。
「……保存しておきます」
「……後で、確認します」
——しばらく、誰も何も言わなかった。
階段を、見上げる。
上の方から、淡い光が差していた。
月明かりと共に、月光粒子が降りてくる。
見上げる。
そこに、窓はない。
——天井が、開いている。
「……上?」
階段を、登る。
二階に、上がる。
そこは、暗かった。
何も——
反応がない。
「……?」
ふと、足が止まる。
見覚えのある形。
そこにあったのは——
あの時見た風車と、同じ。
……ひとつだけの、台座だった。
見上げる。
天井が、わずかに開いている。
月明かりが、静かに差し込んでいた。
その光は——
台座の上を、照らしている。
「……一つ?」
琥珀は、周囲を見回す。
——そして。
部屋の隅に。
それは、転がっていた。
「……あ」
ゆっくりと、近づく。
「……これ」
台座と、見比べる。
「……コア、置く場所?」
ラファは、わずかに間を置く。
「……可能性があります」
琥珀は、しばらくそれを見つめる。
けれど。
「……後で、だね」
階段を、さらに上る。
「……なんか」
琥珀が、小さく呟く。
「……呼ばれてる感じがする」
わずかに、間。
「……前にも、あった」
思い出す。
集落で出会った、あの子。
少しだけ、怖い笑顔。
でも——
優しさを感じる笑顔だった。
「……あの子も、こんな感じだった」
わずかに、間。
「……ラビィも」
「……アリューさんも」
「……こうやって、作ったのかな」
ラファは、わずかに間を置く。
「……可能性はあります」
「……ですが」
「……完全には一致しません」
琥珀は、少しだけ視線を落とす。
「……違うかもしれないけど」
小さく、呟く。
「……これ」
「……ふたりが、作った気がする」
ラファは、わずかに間を置く。
「……否定はできません」
——少しだけ、静かになる。
ギィ……
ギィ……
音がする。
「……?」
琥珀は、足を止めた。
見渡す。
何も、動いていない。
「……なんか違う」
ラファは、わずかに間を置く。
「……構造が一致していません」
三階に、辿り着く。
そこには——
小さな扉があった。
——静かだ。
何も、動いていない。
それなのに。
ギィ……
ギィ……
扉の向こうから、音がする。
「……回ってる音、だよね」
琥珀は、ゆっくりと手をかけた。
扉を、開く。
中に入る。
視線を、上へ。
頭上から——
山の奥へと続くように、
歯車が、伸びていた。
「……」
——動いていない。
ひとつも、回っていない。
それなのに。
ギィ……
ギィ……
音だけが、響く。
「……なんで」
よく見ると——
風車と、軸の歯車が。
……離れている。
「……壊れてる?」
荒々しい風のせいか。
下に落ちた羽のせいか。
——分からない。
けれど。
止まっているはずの歯車から。
音だけが、部屋に響いていた。
「……これ」
琥珀は、歯車を見上げる。
「……動く、かな」
わずかに、間。
「……合えば、いける?」
ラファは、わずかに動きを止める。
「……一致しません」
——間。
「……ですが」
「……完全に異なるとも、言えません」
琥珀は、そっと歯車に触れる。
「……でも」
小さく、呟く。
「……似てる」
ラファは、わずかに間を置く。
「……否定できません」
琥珀は、振り返る。
「……一回、戻ろう」
外に出る。
荒々しく、渦巻いていた風は——
……消えていた。
静かだ。
月明かりが、優しく降りている。
今にも壊れそうな風車を、
そっと照らしていた。
見上げる。
月は——
真上にある。
光が、降り注ぐように。
「……さっきと、違う」
——その時。
「……?」
琥珀の耳が、ぴくりと動く。
遠くから。
聞き覚えのある声が——




