24 魔法少女ならば耐えられた!
その光は、遠く離れた各地まで届いていた。
天へと舞い上がったラブシャワーから放出された光が世界中に飛び散って、戦う騎士達の中へと溶けた。その影響から薄れていた妖精の加護が強化され、窮地だった多くの騎士達は難を逃れた。
クラッシャ家の加護が全国的に底上げされた。
『いやなんで????』
これに一番びびったのは悪徳妖精である。
種族は同じでも妖精だって個性がある。悪徳妖精とクラッシャ家を加護する妖精は別物なのに、なんでそっちの加護まで爆上がり??
びびる悪徳妖精なんて誰も気にせず、誰もが彗星のように魔物を両断したラブシャワーに視線を奪われていた。
あれほど硬かった卵が、熱で焼き切れたように溶けている。卵の中身が藻掻く度、黒い鱗粉が空気に解けていく。生まれる前に倒した存在を、ラブシャワーはじっと見詰め続けた。
人類にとって脅威でも、生まれてくるはずだった命だ。
それが動かなくなるまで、ラブシャワーはじっと身動きせずに見詰め続けた。
そして、静かな風が一陣吹いて。
ラブシャワーはぱっと顔を上げて、ぽかんとしているメンタルを振り返った。
「メンタル様ぁ~っ!」
技は出していないがハートや星のエフェクトが漏れに漏れた。
ピカーッと輝いて、あまりの眩しさに騎士達が目を覆う。メンタルは目を逸らす暇もなく、突進してくるラブシャワーの突撃を受け止めた。
「やりましたわ勝利ですわわたくしたちの愛の勝利ですわー!」
大喜びで飛び跳ねるラブシャワー。メンタルを抱えて三メートルほど軽快に飛び跳ねた。
「ああ嬉しい! 愛があれば全てに打ち勝つと証明できました! わたくしとメンタル様の愛は無敵! 不滅!」
両手を取り合ってぐるぐる回る。ラブシャワーの踵を基点に、メンタルがぐるぐる振り回される。メンタルの身体は地面を離れて大回転していた。
「なんでも恋ですわ! 間違えましたわなんでもこーいっですわ!!」
ぽーんっと天高く打ち上げられたメンタルは地平線を目視して、亡き母に抱かれた幼い日を思い出した。走馬灯とも言う。そのまま彗星のように落下してラブシャワーに受け止められた。
踊るようにくるくる回って、ラブシャワーはメンタルの胸に飛び込んだ。この数秒で何が起きたのか理解し切れていないメンタルだったが、根性で受け止めた。足が震えていたが、腰が抜けなかっただけ大金星だ。
「愛していますメンタル様!」
叫ぶラブシャワーは、メンタルの腕の中でグリンレインに戻っていた。
「この溢れる愛が続く限り! 愛しいあなたをお守りし! わたくし自身も必ず帰ると約束いたしますわ! 愛は、無敵なのです!!」
愛で戦うラブシャワーならその通りなのだろうなと騎士達は思った。
思った以上に感情で左右されるらしいラブシャワーの能力。愛情が爆発して幸せの絶頂で無敵強化されるのは強すぎる。喜怒哀楽が明確なグリンレインだからこそ強すぎる。
数秒魂が抜けかけていたメンタルだったが、ラブシャワーからグリンレインのか弱い抱擁に変化したことで現実へ帰ってきた。
喜色満面で擦り寄るグリンレイン。絶対守ると豪語する無敵状態から守らなければならないか弱い令嬢へと姿を変えた彼女に、メンタルもそっと腕を回した。
「ありがとうグリンレイン。俺もあなたを絶対守る」
彼女に守られたからって、彼女を守らない理由にはならなかった。
自分だけが守りたいというエゴを捨てて、メンタルは自分の加護が上がったのもうっすら感じながら、グリンレインを抱きしめた。
生身で聞いた初めての愛しているだった。
「ぽきゅ」
「グリンレイン? ……グリンレイン!?」
婚約者からのデレに慣れていなかったグリンレインは、急激に体温が上昇してあっという間に意識を失った。
魔法少女ならば耐えられたが、か弱いご令嬢では耐えられなかった。
――そうして、巨大な魔物との戦いは、生まれてくるのを阻止するカタチで幕を閉じた。
最後のエフェクトで完全回復した騎士達は怪我もなく、全員が健康体で帰還した。出迎えた者達は大いに驚き、喜び、規格外な魔法少女に呆れと感謝を抱くのだった。
それから、急激に魔物が減る……なんて事はなかった。
魔物は相変わらず現れるし、騎士達も戦い続けている。
しかしその騎士達は、戦闘の度に妖精の加護が補強されたのを実感していた。
今まで苦戦していた魔物相手でも、攻撃が通りやすくなった。魔物が弱体化したのではと疑いたくなるほど、各地の血筋の者達全てが、強さを手に入れていた。
薄れていた加護が強くなったことで、更に枝葉を伸ばして国を守っていく力を存続させる事ができそうだった。
となれば本家に他所者が嫁ぐ問題など些末。むしろ魔法少女は積極的に取り入れていきたいとなる。
しかし魔法少女は、大きな戦いを終えれば役目を終える。
ラブシャワーもまた、この戦いで姿を――。
「メンタル様大好きアターックッ!!」
消していなかった。
ラブシャワーは今日もまた、魔法少女としてメンタルと共に魔物退治に勤しんでいた。
「ラブシャワー! 一人で暴れるな! 心配になる!」
「ご心配ありがとうございますメンタル様ぁ!!」
血相を変えて追いかけるメンタルと、そんなメンタルにメロメロなラブシャワー。
「あなたが強いのはわかっているが、俺の目の届く範囲に居てくれ。でないと閉じ込めたくなってしまう」
「あなたの腕に閉じ込めてくださいませ」
「このバカップルが居ればなんとかなるってのが辛い」
「独り身には本当に辛い」
戦闘の終わりに必ずいちゃつく二人に辟易しながらも、二人の仲が良ければ良いほど戦闘で無敵なので、騎士達は揃って遠い目をしていた。
『本当になんでェ……?』
ピンピンしているラブシャワーに、悪徳妖精は横転しながら納得がいかないと嘆いていた。
魔物退治に巻き込まれない草木の影から、ひっくり返りながら今日も絶好調なラブシャワーを見る。
愛情が溢れているからって、本当になんでそこまで元気でいられるのか、悪徳妖精には理解できない。
『だってそう言うもんではなくねェですか……? 払った瞬間溢れるほど元通りになるってどういう事でさァ……? お支払いした瞬間に褒賞が入るシステムおかしくねェですか……? 借金知らずじゃねェですかァ……』
なーんも面白くない。
悪徳妖精は、思った通りの悲劇が見られずに地面ででろんと伸びた。完全に脱力していた。
『こんな暑苦しくてギラギラした愛を見せつけられる事になるなんてェ……』
『愛を否定して、愛を信じなかったあなたも、流石に認めるしかないわね』
鬱々していた悪徳妖精は、聞こえた声に顔を上げた。
こっそり隠れる草木の影。
その葉っぱの上に、ちょこんと座る妖精が一人。
――妖精界に引きこもっているはずの女王陛下が、悪徳妖精を眺めていた。
妖精には、多種多様な姿がある。
その中でも女王は、妖精の代表格。誰もが一度は思い描く『小さな隣人』の姿をしていた。
『なーにしに来たんでさァ引き籠もりの女王様が……無様なあっしを笑いに来たんでェ?』
草木の葉に腰掛ける妖精は、ぶちゃいくな猫にかかればあっという間に捕食できそうな程小さくてか弱い。
緑の髪に、青い目をした妖精は、朝露のように煌めくドレスを着ていた。何も知らない人が見たら、朝露と疑わず見過ごしてしまうだろう。
けれど、とても小さな隣人は、妖精達の頂点に立つ程の力を秘めていた。
『そう邪険にしないで。仕方がないとわかっていても悲しいわ』
『つーんだっ』
そっぽを向いて寝転がる悪徳妖精の視界の先で、ラブシャワーが迫り来る魔物第二弾と戦っていた。衣装は初期の物で、ツインテールがあっちへこっちへと揺れている。
『……まさか、不利な条件をものともせずに魔法少女であり続ける子が居るなんて、不思議ね。魔法少女全盛期なら、そもそも契約が成り立たなかったはずだもの』
『劣悪な契約だからこそ真価を発揮したと言うべきですかねェ。いやマジでどうしてそうなるのかあっしにはさっぱりですけどもォ』
『そういう、愛に満ちた人間もいるのよ』
メンタル様大好きアターックッと恥ずかしげもなく叫ぶラブシャワー。遠い目をしていた騎士達もすっかり慣れて、メンタルのどんなところが好きー? とか合いの手を入れている。慣れ方が柔軟すぎる。
『……むしろ私は、人間ってそういう子ばかりだと思っていたわ』
『そりゃあんたの周りはそうでしょうぜィ』
そんな純粋培養だったから、あんな事になった。
ちょい悪どころか極悪魔法使いに惚れて、玉砕して、世界を巻き込む大事件を起こすなんて事に。
この女王、自由を求めて箱庭を飛び出して、悪の大魔法使いと出会って、今までにないタイプの男にときめいて惚れてしまったのだ。
女の子がちょっと悪い男に惹かれるあの現象が妖精にも適用されていた。悪事に縁のない純粋な子ほど捻くれた人に惹かれるのだ。気を付けろ。闇堕ちの危機だから。光堕ちの可能性って実は僅かだから。大体引きずり込まれる。
そう、女王も闇堕ち仕掛けて……悪徳魔法使いが自分を道具としか見ていないと直前で気付き、我に返った。
我に返った瞬間に怒りから大爆発。
女王は悪徳魔法使いに魔法をかけた。
――愛を知るまで、自分が一番嫌いな姿になる魔法をかけた。
そしてぶちゃいくな猫の姿になったのが、問題の悪徳魔法使い……女王を怒らせたと世界中で有名な、大魔法使いだった。
悪徳妖精の正体。元悪徳魔法使いでした!
何故猫ちゃんなのかは次回。
そして次回……最終話!!




