22 愛の過不足
「えっ」
ラブシャワーにはじめて動揺が走る。
全力だった。それなのに、卵は割れなかった。
動揺していると、ひび割れた箇所から、卵の中身が見えた。
胎動する赤子の単眼と、目が合う。
ひび割れから突き出た脚が、ラブシャワーを蹴りつけた。
「きゃああ!」
「グリンレイン!」
吹き飛ばされたラブシャワーが卵から振り落とされる。地面に叩き付けられる前に、滑り込んだメンタルがラブシャワーを受け止めた。
卵の上に生えたのは、馬の蹄に似た形をした脚だった。ぐらぐらと揺れて、ひび割れた箇所から甲高い声が響く。
耳を劈くような声は空気を揺らし、彼らの肌を打った。
「あれこれってもしかして生まれそう? 生まれるのをお手伝いしちゃった?」
「反応から見て中身にもダメージが入っていると信じたいところですけど……!?」
回復した面々がラブシャワーを庇うように前に出る。武器を構えるが、割れた箇所から漏れる黒い鱗粉の悍ましい量に背筋が震えた。
「大丈夫かグリンレイン! 怪我はっ」
「メンタル様……」
ラブシャワーを抱き留めたメンタルは、彼女に怪我がないか確認していた。衝撃から衣装が良い感じに裂けているが、外傷自体は見られない。しかしラブシャワーは呆然と藻掻く蹄を見上げていた。
「わたくし、全力でしたわ。本当です。わたくしの大好きを込めて、叩き付けましたのに……」
倒すどころか、生まれそうになっている。
卵と一緒に倒すつもりだったのに、それができていない。事態を悪化させたのだろうか。
ラブシャワーの目元に、ぷきうんと涙の塊が生まれた。
「わ、わたくしのメンタル様への愛が、足りなかったというの……っ?」
毎秒更新される大好きじゃ、足りないという事だろうか。
全部注ぎ込んでいるはずなのに、まだまだ溢れる大好きが上手く込められていないのだろうか。
大好き過ぎるから力が溢れているのかもしれない。
ちょっと違う方向にショックを受けたラブシャワーが震える。わたくしがメンタル様を大好きすぎるばかりに。
声に出さないので誰も突っ込めないが、絶対そういう事ではない。
泣きそうになっているラブシャワーに、メンタルは何か言おうと口を開いた。しかしすぐに閉じて、言葉を呑み込み……。
「……っ、愛している!」
叫んだ。
「えっ」
涙目のラブシャワーが、思いがけない言葉を聞いて目を丸くする。
見上げた先で、メンタルがとても真剣な顔でラブシャワーを見下ろしていた。
そしてその背後で騎士達が触手を全力でたたき落としていた。
「俺は、あなたに戦って欲しくなかった。危険な場所にいて欲しくなかった。俺自身があなたを守りたかった。魔物の危険からも、魔物に俺を殺される恐怖からも」
母が耐えられなかった恐怖を、愛する人に与えたくなかった。
そんなメンタルのエゴで、覚悟を決めるグリンレインを遠ざけた。
「すまなかった。あなたの覚悟を、否定した。俺の都合であなたを遠ざけた。あなたは俺の弱さをわかってくれたのに、俺が自分の弱さから逃げていた」
グリンレインを遠ざける方法ばかり探して、彼女と向き合っていなかった。
メンタルの言葉に、ラブシャワーの目がキラキラと輝き出す。
ぽろりと零れ落ちた涙の雫を、メンタルの武骨な指が拭った。
見つめ合う二人の背後で、コックとアイラブミーが触手を裁きながらあの脚切り落とせないかなと相談していた。
「臆病ですまない……だが俺への愛が君を強くすると言うのなら、そうも言ってはいられない。……羞恥心で黙っている暇も惜しい」
言いながら、メンタルの頬は赤い。
ラブシャワーの頬も赤い。
周囲には鮮血が飛び散っている。
「愛しているグリンレイン。俺の日常の象徴。俺への愛を伝えるあなたはいつだって、目が離せないくらい、輝いている」
メンタルからの愛の言葉に、ラブシャワーはカッと目を見開いた。
だって、愛。
愛している。
大好き通り越して、愛している。
愛していると言った。
(メンタル様が、わたくしを)
愛している。
「ひゃぁ」
どっかん。
爆発音が響いた。
巨大な魔物相手に戦っていた騎士達は、まさかの背後からの衝撃にひっくり返る。うねる触手も衝撃で大きくぶれた。
ひっくり返った騎士達が見たのは、ピンク色の光の放流。
「っひゃわぁああぁあぇうあぁぇあぅあうあぁあああああ~~~~!!!!」
目を潤ませ頬を染めた恋する少女が、歓声を上げた。
ラブシャワー、愛の大爆発。
ちなみにメンタルは吹っ飛ばされて木の幹に背中を強かにぶつけていた。
大 爆 発。




