21 代償の支払と供給
『あんたに求める代償は【愛情】でさァ』
「愛情……?」
『コレは試練でもありやすからねェ。愛する人の為にどこまでできるか試されているんですぜィ。大丈夫。一気になくなったりしやせん。変身する度、魔物を倒す度にちょっとずつ溢れた分を貰うだけでさァ』
にちゃにちゃ笑うぶちゃいくな猫に魔法少女になる為の代償を聞いたグリンレインは、目を丸くした。
――なんて優しいのだろうかと。
「安心しましたわ」
『へェ?』
元気いっぱいの笑顔で、グリンレインはぶちゃいくな猫を抱き上げた。
突然抱っこされたぶちゃいくな猫は驚いて逃げだそうとするが、それよりグリンレインが頬ずりする方が早かった。
「愛があるからこそ戦える……愛があるからこそわたくしは強くなれる……そう、メンタル様への愛があるからこそ、わたくしは魔法少女として戦えるのですね!」
くるくる踊るように回りながら、びよんと伸びた猫の胴体も揺れる。一通り踊ったグリンレインは、目を回しているぶちゃいくな猫の頭にキスをした。
「ずっとわたくし達の傍で様子を窺っていたのは、わたくしが魔法少女に相応しいか確認していましたのね! お眼鏡にかなって嬉しいですわ!」
『あっれェ気付かれてやした?』
「猫ちゃんがうろうろしていたら視線で追うのが人間ですもの!」
主語がだいぶ大きいが、猫がいたら視線を向けてしまうお猫様の奴隷の数は多い。
「わたくしを選んで下さりありがとうございます! ご期待通り頑張りますわ!」
『予想していた展開と違う……いやでもこれからでさァ』
ぶちゃいくな猫はブツブツ言いながら、グリンレインに抱っこされていた。
――そう、グリンレインは心から感謝していた。
だってグリンレインがメンタルに恋している限り、どんな魔物がきても戦えるのだから!!
「大好きアターックッ!!」
旋回しながらマサカリを叩き込み、ラブシャワーは卵の側面を駆け上がる。
戦う度に、疲労に近い形で蓄積していくものを感じる。それがグリンレインの柔らかい部分を削って行くのは、なんとなく感じていた。
きっとそれが愛情で、削り取られた部分は二度と戻らない。
それでもグリンレインは平気だった。
削られるのだとしても、想いが溢れてくるから!
(メンタル様が、大好き!)
「ラブラブになりたい、バスター!!」
飛び上がって、叩き付けて。くるくる回ってまた別のところを叩き付ける。
威力の上がった攻撃は、卵全体にヒビを入れていく。ラブシャワーを捕まえようとする触手をくぐり抜け、ラブシャワーは舞うように飛び回った。
(メンタル様が、大好き!)
グリンレインにとって愛情とは、カタチのある物ではない。
たとえるなら湧き水だった。次から次へと湧き出して、コップに溜めようとしても溢れ出る愛おしさ。だから零れ落ちた分が消えてしまっても、減ったりしない。
「お近付きクイッククイック!」
ひび割れた部分に的確に、攻撃を重ねていく。衝撃波が出てきても大丈夫なように、できるだけ上部を狙った。
(メンタル様が、大好き!)
――どうしてそんなに、好きなのか。
文通をしていた頃に、メンタルが紙面越しに問いかけてきた事がある。
助けたのは事実だが、望みがないとわかっているのに諦めないグリンレインが不思議だったのだろう。デリカシーの話はしないで欲しい。メンタルからしてみれば、仔犬のように追いかけてくるグリンレインが不思議で仕方がなかったのだ。
――俺があなたに、何をしてあげられただろうか。
メンタルは好意を伝えてくるグリンレインに、何かした覚えがない。
だって期待を持たせるような事をすれば、辛いのはグリンレインだとわかっていたから。だから、メンタルはグリンレインに物を贈ったり、出掛ける誘いをしたりした事が無い。
婚約中は流石に誕生日プレゼントを貰ったが、一緒に出掛けた事はない。
そんな不甲斐ない自分をわかっているので、メンタルはグリンレインが何故ここまでメンタルを好いているのかわかっていない。
愛を代償に戦っているのに、変わらない理由がわからない。
そんなの、とても単純な事なのに。
「メンタル様が、大好きですわ!」
気持ちを叫べばより攻撃力が上がる気がして、ラブシャワーは高揚感から声を張り上げた。
「何もしていないと思っているようですけれど、いつだってわたくしを気遣うメンタル様が大好き! いつでも何よりも守ろうとして下さるメンタル様が大好き! わたくしの事が大好きだから、臆病になるメンタル様が大好き!」
「!?」
「いやバレバレだから」
何故それをという表情をするメンタルに、よろよろ立ち上がるコックが突っ込む。
むしろあれだけ必死に訴えて、バレていないと思う方がおかしい。
「叶わない想いに苦しんだ事もあります。すれ違いが辛くて傷ついた事もあります。わかり合えなくて悲しかった事もあります……でもそれは全部、あなたが愛おしいから!」
キラキラと輝くラブシャワー。
「視野が狭いとお笑いになるかしら……それでも、でもでも、わたくしは、あなたが大好き!」
光り輝くラブシャワー。
溢れるエフェクトが、メンタルから痛みを取り除いた。
「好きだから何でもしたいのです! なんでもできる気持ちになるのです! あなたへの好意が、わたくしの自信に繋がる!」
叫んで、攻撃を繰り出す。相手の触手を足場にして、ぽーんっと高く飛んだ。
「燃え盛れわたくしの愛! 軌道を作れわたくしの想い! 何を出し惜しむ必要があるのです? ……わたくしの愛は! 毎秒更新され続けておりましてよ!!」
空中でぐるぐる旋回したラブシャワーは、頬を紅潮させて叫んだ。
「この想い、燃え尽きるなど、あり得ない!!」
振り下ろされたマサカリが、真上から卵に叩き付けられる。
衝撃音と同時に、眩い光が溢れた。
――――それでも卵は、壊れなかった。
魔法少女として戦って大好きが30%減ったら即60%補充されます。
溢れている? はい!!!!!
メンタルが好きだと自信を持って言えるグリンレインの自信は恋する自分は無敵だぜうりゃりゃりゃりゃっという万能感からきていました。




