20 ラブシャワーの代償
「増やした代償で強化できるならお安い物ですわ! どれくらい増やせますの!? 確実に卵を壊して中の魔物を倒せるくらい強くなれますの!?」
『えええすごいグイグイ来るゥ』
逃がさないように、ラブシャワーはぶちゃいくな猫の脇に手を突っ込んで抱き上げた。びよんと伸びる胴体。あまりの勢いに、耳と尻尾が下がった。
『ここは普通に悩む物ところじゃありやせんかィ? わかってやす? 代償を増やすって事は、今は平気そうでもそれなりに影響が……』
「ご安心を! わたくしのコレは底なしですわ!」
「何を根拠に……! 許可できない! あれを倒せるだけの強化に、どれだけの代償が必要になるかもわからないんだぞ! そもそも代償はなんだ!!」
『ほら普通はこうなるもんでさァ!』
「あれは今ここで倒さなければならない敵ですわ! わたくしにだってわかります!」
大きな攻撃をした後だからか、魔物の動きはとても小さくなっていた。攻撃してくる触手を捌いていた面々も衝撃で吹き飛ばされている。そんな中で、ラブシャワーの声はよく響いた。
「あれに対抗できるのはわたくしとメンタル様だけですわ! ですが決定打に及ばない……ならば強化するしかありません! 幸いわたくしは悪徳妖精にお支払いすればいくらでも強くなれます! なれるならなるべきですわ! あれを野放しにはできませんもの!!」
「悪徳だと言っているだろうが!」
『言っているんですけどねィ……』
悪徳業者に騙されて支払い続けた末路など、説明するまでもないはずなのに。ラブシャワーは全くへこたれていない。
「二人の攻撃で傷は付いたんだ。繰り返せば卵の破壊は可能だ! あなたが一人で代償を払う必要は」
「予想以上の抵抗でしたわ。あちらのダメージとそれに対する攻撃力、繰り返せば一帯が更地になってしまいます」
思ったより冷静なラブシャワーの言葉に、メンタルは思わず口を閉ざした。
こちら側が与えた卵へのダメージは、精々ヒビが入る程度。そこからこじ開けて、中身に攻撃するのに時間が掛かる。
だというのに、そのヒビが入った箇所からの攻撃は、木々を消失させて遠目に見える山に穴を空けるほど。こちらが卵の中身に攻撃できるようになるまで、何度撃たれるかわからない。
「だから、高い威力の攻撃手段が必要ですわ。普通はすぐに用意できませんがわたくし達にはできます。そう、魔法少女ならば!」
――恐らく、大昔もそうだったのだろう。
巨大な魔物の出現に、対抗する為に魔法少女がいるならば、その場で妖精と威力の調整ができた。妖精と共存していた頃に騎士達がどう戦っていたかわからないが、魔法少女ほどの親和性はなかったのだろう。
かつての魔法少女達は、その戦いで力を出し尽くし、魔力を失った。
ならばラブシャワー……グリンレインも、代償を失うのではないか。
メンタルに、グリンレインの支払う代償はわからない。わからないが、彼女から何か失われるなど認めたくない。
「それなら俺の加護を強化する方法はないのか。グリンレインだけに負担をかけるわけには」
『あっしはクラッシャ家と契約した妖精じゃないんで無理でィ』
「くっ!」
悔しげに呻くメンタルに、ラブシャワー……グリンレインはキュンキュンしていた。
だってメンタルはどこまでも、グリンレインを心配してくれている。
グリンレインは、そんな彼が大好きなのだ。
だから大丈夫。
メンタルがきつく握りしめた拳にそっと触れて、グリンレイン……ラブシャワーは微笑んだ。
「大丈夫ですわ愛しいあなた。この想いは、絶対になくなりません」
「……グリンレイン?」
あまりにも真っ直ぐ、確信を持った囁きに、メンタルは目を見開いた。
にっこり笑ったラブシャワーは、流れ星の形をしたマサカリを担ぐ。
「さあ悪徳妖精! やりますわよ!」
『本当に躊躇いがありやせんねィ~……よいせっと』
呆れた顔の悪徳妖精がくるんと回る。尻尾から星屑が飛び出して、ラブシャワーに吸い込まれた。
「愛情チャージ!」
叫んでくるくるマサカリを回し、天高く掲げる。
キラキラと輝くエフェクトが飛び出して、吹っ飛んでいた面々の傷を癒した。
「愛情チャージ完了……全力アタック、ラブシャワーパワー!!」
光り輝くラブシャワーが一人、巨大な魔物へと突っ込んでいく。
後を追おうとしたメンタルは、立ち上がろうとして痛みに蹲った。直撃は免れても、吹き飛ばされたダメージがまだ残っていた。
痛みを誤魔化すように、唸る。
「おい、悪徳妖精」
『地の底から響くような声ですぜェハガネの旦那』
「グリンレインが今言った……想いはなくならないとは、どういうことだ」
『あっお気付きに……』
アチャーとばかりの悪徳妖精の反応に、メンタルは歯を食いしばった。
そもそも、魔法少女が活躍するに相応しい状態ならば悪徳妖精などと名乗らない。
メンタルが調べた魔法少女が騙された案件……その全ては、真面に魔物と戦えないような状態だった。それは力量不足もあっただろうが、そもそも代償が上手く機能していない所為だった。
命に関わる代償ではないと言っていたが、それでも生活を脅かすもののはずだ。だって悪徳妖精は、そうやって代償に苦しむ人間を見たくて契約するのだから。
つまり、代償はとても不合理なもの。
「グリンレインの代償は、愛情か……!」
【愛情チャージ】
コレはそのまま、グリンレインの愛情を代償として、力へと変換して溜めていたのだ。
愛を主張して戦う魔法少女の言動から、全く違和感がなかった。
魔法少女として戦う度に支払われる代償。
愛を主張する魔法少女の源泉は、本当に愛だった。
『その通りでさァ。代償はまさしく【愛】。厳密に言えば恋愛感情ですねィ。ラブシャワーとして戦う度に、グリンレインは恋愛感情を……そう、ハガネの旦那への想いを消費していくんでさァ』
にちゃりと悪徳妖精が笑う。
婚約者への想いから戦いと願った少女。
想いから契約し、想いを代償に、想っているから行動する。
悪徳妖精は、グリンレインに『代償は恋心』と説明した。同時に『溢れるほど想っているなら問題ない』とも。
一気に搾り取っては意味がない。悪徳妖精が見たいのは、徐々に戦う意味を失っていく少女の喪失感。何より大事だった人への想いが消失していく恐怖。
その分、戦う為の力は強くした。そう。燃え尽きる時こそ輝く流れ星のように。
最期の輝きが人々を魅せる、一過性の輝きのように。
『……のはず……なんですけど、ねィ……』
「メンタル様、大好きアターック!!」
魔物に突っ込み、愛を叫びながら果敢に戦うラブシャワー。
そのきらめきに、陰りは一切見られない。
「大好きアタックアタック大好きアタック!! ラブラブになりたいバスター! メロメロウインククリティカル!! ウィンククリティカル!! 大好きアターック!!」
「……代償は、愛情……なんだよな……?」
『コレがあっしにとっても最大の謎でしてェ……なんで?????』
元気に愛を叫び続けるラブシャワーに悪徳妖精はひっくり返り、白い腹を曝け出した。
本当になんで????
グリンレイン魔法少女になる為の代償:愛情(婚約者への恋愛感情)
溜めれば溜めるほど攻撃の威力が上がる。使用した分は戻らない。




