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愛は流星群~受け取ってください愛しい人!~  作者: こう


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16 立ててはいけないフラグもある


 悪徳妖精が感知している巨大な魔物の存在は、クラッシャ家の面々も認識していた。


 見張りの騎士から齎された情報で、最近仕留めた魔物が全て、死に際に森の奥へ身体の一部を飛ばしているのを確認していたのだ。

 その方向が毎回同じ。回数を重ねるごとに、圧がどんどん濃縮されていく……そしてとうとう、森の奥で蠢く黒い鱗粉が、城壁の上から確認できるほどになった。


 そう、遠目に確認できるほど巨大な魔物が、森の奥に存在していた。

 倒された魔物の一部を吸収して、成長した魔物が。


 侯爵のいる執務室で森の地図を広げ、隊を担う者達が集まっていた。

 メンタルとコックの姿もあり、彼らはとうとう視認できるほどになった魔物の討伐について話し合っていた。

 主題は迎え撃つか、こちらから立ち向かうかだ。


 今までは城壁に近付く魔物を迎え撃つカタチで戦ってきたが、遠目に確認できるほど巨大な魔物だ。あれが近付いてくれば、砦にかけられた加護もただではすまされない。

 そう思えるほど、遠目から見て脅威を感じる魔物だ。


「現在の戦力なら、待たずともこちらから討伐できるのでは」

「しかし主戦力を森へ向かわせている間に、他の魔物が城壁を襲う可能性もある」

「攻めと守りのバランスが問題だ。魔物を倒した後、無事に帰還できるかも怪しい」

「だからといって目に見えた敵を放置して、やって来るのを待つのは合理的ではない。何より奴は、こちらが魔物を倒す度に屍を吸収して大きくなっているのだぞ。あれがまた巨大になるのを待つ気か?」


 古参の言葉を聞きながら、メンタルは以前調べた魔法少女の出没時期について思い出していた。

 書物に寄れば、魔法少女が現れるのは巨大な魔物が現れる頃。魔物を倒す為に、妖精が信頼している少女と契約を結んだ事が始まりだった。


 今回の妖精は自称悪徳妖精だが、もしや目的は同じだったのではないか。


(魔物と妖精の関係性は不明だが、人と共に魔物を倒してきたのも事実……妖精にとっても、魔物は放置しては置けない存在なのでは?)


 だから悪徳妖精は魔法少女になり得るグリンレインに声を掛けて、契約を結んだ。

 巨大な魔物と戦わせる為に。


(グリンレインはクラッシャ家次期当主……俺の婚約者だ。唆すのはさぞ容易かっただろう……)


 想像して拳を握るメンタルだが、唆すどころかグリンレインが身を乗り出す勢いで話しを聞きに行ったとは思っていなかった。


 まだちょっとグリンレインに夢を見ている。

 メンタルはそろそろ、グリンレインが愛するメンタルの為なら火の中水の中森の中魔物の臓物の中まで突っ込んでいく戦闘に適応した令嬢だと認識を改めた方がいい。


「あれほど巨大な魔物が、ここ数日動いていない事実にも注目した方が良かろう。まるで眠っているかのように身動き一つしていない」


 見張りの騎士達からの情報によると、その魔物は森の奥から一歩も動いていないらしい。

 いくら魔物とは言え生き物である。一日中、同じ場所に留まり続けるのもおかしな話だ。

 縄張りから動かないという意味ではない。そのまま、その場から動いていないのだ。


「魔物が今どのような状況かわからんが……巨大になりすぎて、身動きがとれないのかも知れない。もしくは、生まれて間もなくまだ動ける状態でないのか……」

「ここ数日確認しても動かないのです。もう動けないと仮定した方がいいでしょう。だからといって慢心しては予想を裏切られたときに痛手だ。ここは相手が動かぬうちにこちらから行くべきです!」

「にらみ合いをしていても仕方がない。時間をかければかけるほどこちらが消耗していく。最大戦力で、討伐隊を編成しよう」


 結論を述べた侯爵が、メンタルへと視線を向けた。

 言わんとする事がわかって、メンタルはグッと口を噤む。

 侯爵が、その最大戦力に魔法少女を入れているとわかったが、何を言う事もできなかった。


(俺が、彼女がいなくても勝てると断言できるほど強くないばかりに……!)

「メンタル」

「……はい」

「この先、彼女の力がどこまで通用するのかわからない」

「はい……」

「よって、出発前に二人の結婚式を執り行う」

「まだ諦めていなかったのですか!!」


 改めて現れた自分以外の署名が埋まった婚姻届けにメンタルが叫ぶ。ちなみに初期の婚姻届けはメンタルの部屋の日記に大切に保管されていた。


 コレに色めき立ったのは古参の騎士達。

 全員分家の出で、グリンレインの婚約に一度は反対するも結局折れた若い恋愛を見守ってきた者達だ。面構えが違う。


「戦前に婚姻を結ぶ騎士は昔多かったからな。何が起きるかわからんから賛成だ」

「グリンレインを最高に着飾られるドレスはあるのか? 最高の花嫁姿でないと儂は許さんぞ」

「プラナー伯爵家へ招待状は出したのか。あちらの家族が参列できる余裕はあるか?」

「こりゃいかんすぐ伝令を飛ばせ! 避難訓練張りに走れ!!」

「待て待て待て待て!!!!」


 古参の命令に下っ端が走り出しそうになるのをなんとか止めて、勝手に盛り上がる大人達を宥める。


「だから! それどころではないと言っているでしょう!!」

「何言っとるんだこの若造」

「それどころじゃないと後回しにして激戦の最中に魔法少年が現れて魔法少女を華麗に助けて新しい恋が目覚めたらどうする気だ。魔物の謎能力で生存本能が限界突破して適当な男を押し倒したらどうする気だ。お前が押し倒されたとて未婚の令嬢がはしたないと後ろ指指されてしまうのだぞ。魔物との戦いは何が起きるかわからんのだから考え得る問題は埋めていけ」

「何が起きるかわからないの種類がおかしくないか!?」

「前例がな、あるのだ」

「前例があるのだ!?」


 婚約者がいるのに危ないところを助けられて恋に落ちた騎士とか、謎能力で貞操の危機を迎えた騎士の話とか。悲しい事に前例がある。ちなみに性別の質問は鬼門とする。


「勿論万が一もある。その万が一の為にグリンレイン嬢をプラナー伯爵令嬢ではなくクラッシャ次期侯爵夫人の立場に据えるのは、双方の為だ」


 そう言ってメンタルに婚姻届けを差し出す侯爵。横から見たコックは、グリンレインの名前が誰よりも力強い筆圧で書かれているのを見て「デスヨネ」と引っ込んだ。


 一方、二度目の婚姻届けを差し出されたメンタルは、青くなったり赤くなったりを繰り返していた。


 勢いでする物ではないと保留にしたが、万が一の問題を無くす為にもした方がいいと差し出された婚姻届け。今宵は宴かと盛り上がる大人達。

 早鐘のように打ち付ける胸を抑え、メンタルはなんとか喉を震わせた。


「でも、俺は、まだ、グリンレインに、プロポーズ、できていません……」


 沈黙が落ちた。


「お前お前お前お前! 名前を書かないのはグリンレインちゃんにまずプロポーズしたかったからとかお前!!」

「同時で良いだろ書いて持ってけ結婚してくださいって頭下げてこい馬鹿野郎!!」

「ロマンチストかシチュエーションに拘るか!? 夜景が必要か今すぐどっか燃やしてこようか!?」

「やめろやめろ! この戦いが終わったらちゃんとする!!」

「終わったらだと!? この期に及んで日和やがって!! 儂らだって知っとるんだぞ坊ちゃんが日和って婚約者に素直になれていない事!!」

「今すぐ行ってこいー!! 終わってからとか待てるかー!! この戦いで万が一がない事を願っての結婚だぞー!!」

「するなら最高の花嫁にとお前達も言っていただろうが!! グリンレインを最高に可愛く綺麗に着飾った花嫁にさせろ!!」

「言ったなヘタレ日和若造!! 聞いたからなー!!」

「式ではお前を最高に情けない新郎として紹介してやるからなー!!」

「やめろと言っているだろうが!!」


 静かに激しかった男達の話し合いは、最終的に子供のようなやりとりで終わった。


 しかし男達は知らなかった。


 ――この戦いが終わったら俺、結婚するんだ――。


 この台詞こそが、どの世界でも有名な死亡フラグである事を。



フラグが立ちました。立派な死亡フラグです。

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