14 わたしがかんがえたさいきょうにかわいいいくさしょうぞく
「一体どこが間違っているというのです!?」
「どこもかもだが!?」
胸を張るセラミックだが、流石にそれは戦士としても騎士としても令嬢としても女性としてもアウトな格好だった。
宝石の付いた髪飾り。雫型のピアス。青い鎧は肩と胸元。胴体は薄くて白い布で包まれているが、布の上からでも腹筋の筋が見えている。下半身をV字に守る鎧の周りにはひらひらした薄布が重なり、太ももを隠している。黒いブーツは膝までの長さで、その下から伸びる白い靴下が膝を隠していた。白いスカートと白い靴下で引き締まった太ももがチラリズムだが、柔らかさより逞しさが目立つ。
というか、太ももは女性にとって何よりも隠さねばならぬ絶対領域。
庶民だろうが貴族だろうが、太ももはいかん。太ももだけはいかんのだ。
魔法少女だってかろうじて隠していた。スカートは膝丈だったし、タイツでしっかり隠していた。
戦闘力が強そうでも、晒すのははしたない越えてとんでもない。
コックがひっくり返ったのは、侯爵令嬢のあられもない姿を直視できなかったからだ。今もひっくり返ったまま、両手で目を押さえて震えている。とんだテロリストだ。
「令嬢がなんて格好をしている!?」
「令嬢である前に私は戦士なので!」
「戦士もそんな格好はしないが!?」
「していたじゃないですか先日! 魔法少女が!」
「だいぶ違うが!?」
確かにひらひらふわふわしていたが、こちらが心配になるくらい鎧は身につけていなかった。革の鎧すらなかった。ひたすらに愛らしい衣装で戦っていた。とにかくビキニアーマーではなかった。
「同じですよよく見てください。私が身につけている全てには妖精の加護があります!」
「何を言って……何をしているんだ……??」
妹の言い分に頭を抱えたメンタルは、改めて検分して目が点になった。
――ビキニアーマー以外の衣類から、魔法の気配がしたからだ。
宝石の付いたリボンは攻撃力を上げる魔法。雫型のピアスは疲労回復。胴体を覆う薄布には盾の魔法。黒いブーツには速度を上げる魔法がかけられ、白い靴下には耐久力を上げる魔法がかかっている。
なんだこの欲張りセット。
分家の騎士達が身につけている鎧より性能が高い。
「ま、まさかお前」
「ふふふ……その通りです。妖精の加護があって私が魔法少女になれないのなら、衣装に魔法をかければいい! そう気付いたのです」
つまり、魔法少女コスプレ。
セラミックは悪徳妖精を脅し……説得して、セラミック自身ではなく衣装に魔法をかけさせたのだ。
「ば、ばか。馬鹿者! 胴体を守る鎧を着ろ! 魔物の爪に裂かれて終わるぞ!」
魔法がかけられているとはいえ、魔物は甘くない。
布にかけられた盾の魔法なんて、数回当たれば効果もなくなる。
「元々私は軽いので、一撃食らえば吹き飛ぶか弱い命です。だからこそヒットアンドアウェイ。素早さを追求したのが鎧を軽減したこの姿です。そう、当たらなければよいのです!!」
確かに今までもそうやって戦ってきたけども。
メンタルは胃を押さえた。キリキリと悲鳴を上げていた。
「父上になんと言う気だ……」
「魂が抜けて言葉もない様子でした」
「父上――――っ!!」
流石の侯爵も、娘の奇抜な戦闘服には言葉もなかったようだ。
魂が抜けている間に、お披露目して回っているらしい。そんな部分で行動力を出すな。メンタルは目眩を覚えたがなんとか踏み止まった。
「言い分はわかったがそんな格好での戦闘を許可できるわけがないだろう。早く着替えてこい。幸い誰にも見られていないし、今ならまだ……」
カンカンカンと、見張り台から警報が鳴り響いた。
魔物が近付いてきた合図に、ひっくり返っていたコックが飛び起きる。メンタルも急いで窓の外を確認した。
城壁の向こう側。黒い鱗粉を纏った蛇と複数の蜂が歪に混ざり合った姿をした魔物が、巨大な身体をくねらせて近付いてくる。
「一匹か? でもでかいな」
「至急、当番の援護に――」
「変身!」
軽やかな少女の声が響き、星屑が散らばる。
鮮やかに姿を変えたグリンレイン……ラブシャワーが、メンタル達より上の窓から飛び出した。
「愛の為! ラブシャワー! 魔物退治に参戦、ですわー!」
「待てグリンレイン!」
メンタルの制止を聞かず、ラブシャワーはマサカリを担いで颯爽と城壁を飛び越えていった。
「待っって? なんなのあの身体能力。どんだけ飛んだ? あんな軽やかに人って飛べるの? そういえば初陣でも飛びまくってたね? 人間業じゃないんだけどコレが妖精技? 俺達付いていけないよ!?」
正気の状態で魔法少女の身体能力を見てしまったコックは現実を受け止めきれず目を回した。グリンレインが一番槍とばかりに飛び出すのを目撃したメンタルは、急いで階下へ向かおうとして……そこにセラミックの姿がないことに気付いた。
「ま さ か」
「刮目せよ魔物!!」
まさかだった。
ラブシャワーを除き、誰よりも早く現場に到着していたセラミックは、意気揚々と十字の短刀を両手に構えていた。
「魔法少女は夢のきらめきつまり星……そう、夜空で輝き魅せてみせます!」
叫びながら魔物の胴体を切りつけて離れるセラミック。彼女はくるりと回って距離をとり、堂々と叫んだ。
「今日から私は(自称)魔法少女アイラブミーです!!」
「なんて清々しい自己愛宣言!」
「普通に戦え!!」
コックの突っ込みとメンタルの絶叫に重なるように、魔物の牙が(自称)アイラブミーに迫る。
噛み砕かれる寸前、マサカリを構えて回転しながら突っ込んできたラブシャワーが、魔物の首を切り飛ばした。
放物線を描いて飛んでいく首。何故か返り血のかからない魔法少女。
華麗にアイラブミーの隣に着地したラブシャワーと、何かを察したアイラブミーが右と左で同時にポーズを決めた。
「わたくしの愛は流星群! 魔法少女ラブシャワー!」
「魔法少女アイラブミー!」
「「可憐に勝利、です」わ!」
「打ち合わせしたな!?」
そうとしか思えない程完璧な左右対称だった。
まるで舞台に立っているかのようにポーズを決める二人。
やっと追いついたメンタルは、その場に崩れ落ちた。
「俺が……俺が間違って居るのか……?」
あっさり決着の着いた戦闘に、キャッキャと戯れる妹と婚約者に、メンタルは何が正しいのかわからなくなり項垂れた。
そんな真面目で真面な彼の肩を、遠い目をしたコックが柔らかく叩いた。
勝利の勝鬨を上げる少女達と頽れる男達。
その背後で、魔物の亡骸から拳ほどの大きさの塊……蜂が飛び出して森の奥へと消えたのを、真面目に職務を全うしていた、見張り台の騎士だけが見ていた。
魔法少女が戦い出すと何故か血しぶきが最低限になる不思議。




