13 昔は期間限定だった
メンタルの従兄弟であり悪友であり共であるコック・リマインドは、メンタルから事の流れを説明されて、大きく首を傾げた。
後ろに纏めた夕日色の髪が溢れて肩に掛かる。青い目を眇めて、低く唸ってから首を振った。
「説明されても全然わかんない。わかんないけど、自称悪徳妖精と魔法少女の組み合わせってなんとなく寒気を覚えるけど俺だけ?」
「悪徳妖精にグリンレインが引っかかっている事実に寒気がする」
クラッシャ家の書斎に籠もって妖精の記述を追っているメンタルは、そんなコックに見向きもせず唸った。手当たり次第に妖精について書かれている本を持ってこいと言われたコックは、拳三つ分の本を四つ抱えてメンタルの前に並べた。既に確認済みの本が山となっていたので、それを戻そうと手に取る。
どれもこれも、大昔に書かれた古文書並みに古い本だ。クラッシャ家で書き記した物もあれば、他所の研究結果を取り寄せた物もある。
妖精の加護が根強いクラッシャ家だが、妖精に詳しいわけではない。何代もかけて、妖精について研究は続いている。
クラッシャ家は戦う事が最重要課題なので、どうしても進まないが。他所では研究が続いている。
「いやぁ、それはそうだけど。流石のお嬢さんも自称悪徳妖精をすぐに信じたりはしなかったと思うけど~?」
「すぐに信じなくても結果が全てだ。すっかり騙されてしまっているじゃないか」
「まあ代償を知らないからなんとも言えないけど……騙されているのかなコレ」
古すぎて扱いが難しい本を雑に持って、背伸びをして高い位置に戻す。隣の本とぶつかって角が曲がった気がするが、コックは全く気にしなかった。本好きに怒られると思うが、この場にいるのはメンタルだけなので叱られなかった。メンタルは真面目だが、調べ物に夢中だったので。
「そういえばお前、グリンレインに戦友と呼ばれているのは何故だ。いつの間に交流を深めた」
「え、あのお嬢さんがそう言っていたの……? んーと、メンタルの背中を守りたい同盟の戦友?」
「何の話をしているんだ」
「いや俺もよくわかってないけど……だってお前、いっつも我先に魔物に突っ込んでいくから。次期当主様を守るのは本当に大変だって話をして、戦友ですねって言われたの。てっきり俺とメンタルの事かと思ったのにそっちだったのか……」
「……」
メンタルは思わずページをめくる手を止めて黙った。
メンタルは、魔物と戦う時は誰よりも早く魔物に突っ込んでいく。
妖精の加護が一番強いので早々に跳ね飛ばされる事はないが、どっからどう見ても危険行為だ。
「早く終わらせて婚約者を安心させたいからって、魔物絶対殺すマンになるのは行きすぎだと思うわけよ、俺は」
「理に適っているだろう」
「敵に突っ込みまくって怪我だらけになるのは違うと思うわけよ」
「……」
メンタルの無理な戦法は、グリンレインの居るところに絶対魔物を通したくないが為の物だった。
実に若いが、メンタルは次期当主。それではいけない。
「そういうの、最初からちゃんと話し合っていればこんな事にならなかったんじゃない? あんなに可愛く好き好き訴えてくる婚約者が可愛いのはわかるけどさぁ。お人形じゃないんだからちゃんと意見を交換しないと。ほら手紙では意見交換できていたんだから、もう一回手紙書く? 同じ館にいるけど」
「煩い」
容赦なく物申すコックに苦い顔をしながら、メンタルは昔の記述を追った。追いかけて、目を止める。
やっと、魔法少女について書かれた部分を見付けた。
(……妖精がいた頃は、本当に当たり前のようにいたのか。魔法少女)
本当に沢山いたらしい。
魔法少女とは、大きな魔物が生まれる頃に現れる、妖精達から特別信頼された少女が契約した姿らしい。ほとんどが強大な魔物を倒すまでの期間限定の契約で、期間限定だからこそ通常の魔法より威力を出せる。
そして一度魔法少女の契約を終えた者は二度と魔法少女に変身できない。
魔法少女の任期を終えた者は、魔力を失う。
つまり、今後一切妖精と契約ができない。魔法が使えないという事だ。
(妖精達が溢れていた時代で、周りが当たり前のようにできる事ができなくなるのはかなり痛手だろう)
ある意味、それが彼女たちにとっての代償だったのかもしれない。
そんな魔法少女も、妖精達が妖精界に引きこもる事で潰える。
潰えたはずだったが……人間に悪意を持つ妖精が、悪戯に契約し始めた。
そう、魔法少女詐欺が横行しはじめた。
今まで妖精と人間の信頼や信用で成り立っていた魔法少女の契約は、悪意が介入した事で詐欺もびっくりな悪辣になった。
そもそも契約までの過程が悪質で、少女達の弱みに付け込み、願いを叶える代わりに魔物と戦うよう誘導していた。その癖に願いの強さによって魔法少女の力量に差が付き、中には魔物と戦えない程に脆弱な魔法少女もいたらしい。戦えない魔法少女は、魔物に引き裂かれて死亡した。
更に期間も限定されず、中には魂を削って戦い続けた者もいたらしい。終わりがないから、少女達は傷だらけになりながら魔物と戦い続けねばならなかった。
妖精が飽きるまで。妖精達の娯楽として、少女達は醜悪な魔物達と戦わせられた。
まるで、戦闘奴隷のように。
(……グリンレインは期間に触れなかった)
本人の言い分からして、期間限定ではないだろう。メンタルと共に戦いたいと願った彼女が、短い期間だけの契約を結ぶわけがない。
魔力の代わりに、何を消費しているのだろう。
悪徳妖精は、グリンレインの戦う姿を娯楽としているのだろうか。
――魔物との戦いは、見世物ではない。
メンタルは契約の終わらせ方を調べたかったが、どこにも載っていない。全て妖精達の気分次第だった。
いつだってそうだ。昔から、共存していると言いながら力関係は妖精の方が上。
このままでは、次の戦闘にグリンレインが参加する。
メンタルは鋼色の髪をかき混ぜた。
こちらに対して、好意を全く隠さない女の子の笑顔がちらつく。
「あなたを、失いたくないんだ……」
手に入るとわかった瞬間から、失う瞬間ばかり考えてしまう。
精神的に弱い自分が悪いとわかっていたが、まさかその所為で本格的にグリンレインが戦場に舞い降りるなんて考えてもみなかった。
「悪徳妖精を葬れば、契約はなかった事になるだろうか……」
「なくならなかったときの方が怖いからやめような?」
頭を抱えて迷走する友に、コックは困ったように待ったをかけた。
好き合うって良い事だと思っていたのに、まさかこんなに悩む原因になるなんて。
好きなだけじゃダメなんだなと嘆息し、扉の開く音に視線を向けたコックは……。
「キャーッ!?」
悲鳴を上げてひっくり返った。
男の甲高い悲鳴に驚いて顔を上げたメンタルは、その方向を見て固まった。
「ご覧くださいお兄様!」
書斎の扉を開いたのは、セラミックだった。
「コレが私の正解です!」
灰色の髪を宝石の付いたリボンでポニーテールにして、白と青のふわふわ衣装……と見せかけたビキニアーマー。
薄い胸を張って宣言するセラミックに、メンタルは腹の底から声を出した。
「大間違いだ!!」
しんみりシリアスしたいのに、周りがさせてくれないメンタル。




