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ドラゴンライフ!!~異世界で龍になりました~  作者: 花旅烏兎
二章 一年後の龍
28/42

弐拾漆 準備

まだです。

まだちょっとあるんです。

もうチョット待っててください。

 

「………………」


 影って子も、奴隷。ってことは、人攫いも命令かな。


 事の一部始終を見ていた私は、一人思案する。

 そして出た結論は


 ─レクト、撤退。これ命令。今すぐ戻って。


 ─……助け出さないので?


 ─どうやらここだけのようじゃあないからね。奴らは()()って言ってたから、ここなんて数あるうちの一つだろ。ここだけ叩いても他の所が厳重になるだけで、いつか人間族(ヒューマン)達が解決する時に困るだろ?私は優しいからね。そんな面倒になりそうなことはしないさ。


 ─では、購入するおつもりですかな。


 ─それのが一番平和的解決方法でしょ。無闇に力を振るわずに済むし、何よりお孫ちゃんが怪我をしなくて済む。商品でいる間は傷をつけられる事は無いし、見た感じ酷過ぎる扱いは受けてないようだったしね。


 ─しかし王よ、今金銭に持ち合わせは無いのでは。


 ─レークト。私が、今、どれだけの、魔石を、持っていると、思っている。


 ─……失礼致しました。


 ─ん、わかればよろしい。取り敢えず、もう一度中を見直して客とか他の商品リストでも探してくるから、ちゃんとイーラ引っ張って戻ってきてねー。


 ─わかりました。


 そう言って私はレクトとの通信を切った。

 そして、もう一度風に意識を移して地下内を漁る。

 地下の広さは風を通してとんでもない広さである事が伝わった。奴隷を入れるだけの檻だけでも七十以上も連なっていた。およそ畳四畳分の広さの檻がそれ程あるのだ。地上の地区の半分以上を占めている。

 その下には男達のアジトだった。そこには常連客や今回のオークションの商品の情報が書き記された書類の束や、前回、前々回のものも揃っていた。


 ……人が来ないからって雑に扱い過ぎだろ。

 しかもわかりやすく「今日の!(笑)」って書かれた商品リストとか、ふざけ過ぎててびっくりだよ。


 取り敢えず中身を確認する。


 今回の客は七十人、商品は盗品、奴隷合わせて六十七、その内の四十三が奴隷でさらにその内の二十五が違法奴隷ね。

 よくもまあこれだけ集められたもんだ。

 途中で見つかっておじゃんになってれば良かったのに。


 小さくため息をつきながら風でページを捲っていく。

 粗方記憶すると、私はまたお孫さんのいる檻へと向かう。

 場所は既に覚えているため、スルスルっと上階に向かって風は移動した。


 にしても、本当にジメジメしたとこだなー。

 早く確認しよ。


 シュルンと音をがした瞬間に、風はまた同じ場所へと戻ってくる。

 お孫さんであるアリエーンちゃんのいる檻に向かって進むにつれ、私は奇妙な感覚に襲われた。先程は感じることの無かったそれは、独特の雰囲気と気配、魔力を感じ取った。


 おかしい、さっきは気が付かなかった。

 私が見落としたのか?この私が?有り得ない。そんな事があって良いはずがない。

 ……まあいい。確認すれば良いことだ。


 そして風が檻に到着したその時、血が、魔力がざわめいた。


 っッ!!?!?



「はっ…ハハッ、ハハハッ…ハハッ……アッハハハハハハハ!!」



「あ、主!?」


 私は狂ったように笑い始めた。

 その声は店内に広く響き渡り、高い声がそこに木霊する。

 シシエナとロコが、何があったんだと急いで駆けてきた。

 しかし私はそれに対して何も反応することなく、アトラの静止も聞かずに笑い続ける。


 なんて滑稽!なんて阿呆らしい!こんなものに気が付かなかったなんて、なんて間抜けなんだ!

 大きく強い縁を持つもの。初めて見る縁の者。

 これはまさに運命だろ!


「アハハハハハハハ!!」


「主少し落ち着けって!」


 未だ笑い続ける私に遂にアトラが無理矢理止めに入った。

 そこで私は「くっくっく」と小さく笑いを止めながら落ち着き始める。


 ああ、興奮してしまった。でもしょうがない。不可抗力だよね。


「主、一体どうしたっていうんだ」

「いーや?ただね……」


 今の私はきっと悪い顔をしているに違いない、とそう思いながら私は言った。


「少し……欲しい物ができたのさ」


 そう言うと、アトラは何を言っているのかわからないといった顔で私を見た。

 まあそのとおりだろうと一人納得しながら視点を戻す。

 風を通してみるそれは、酷く醜く、そして内に溢れるものは美しかった。


 やはり、欲しい…いや、こんなところに置いておくのは勿体無さ過ぎる。これは、世界の損失だ。


「ヴェニーちゃん戻ったわよ」

「おっ、おかえりー」

「ただいま」


 変わらずそれについて考え続けているところに、シー達が帰ってきた。シーは何やら楽しそうだ。

 後ろについていたイーラは不服そうだったが、私のこれから立てる計画には邪魔になるから無視をする。レクトはやれやれと参ったような顔をしていたが、私のやる事には最終的に納得してくれているし何より一番話がわかるやつだから先に話したのだから、これ以上反対されることはないと言っていいだろう。

 つくづく私は良い仲間に恵まれていると思う。


「じゃあアトラ、今すぐ天空島に戻るよ」

「は?これから?何で」

「そんで魔石を全部持ってくるから。宝石も売れそうなもの持ってこよう。そんで、全部売って換金する」

「え、何なんだよ。ちょっと説明してくれっての」

「お金が必要になったからね。売れるもの売ってお金作ろうってことよ。宝石なんて持ってても仕方ないし、魔石なんていくらでも手に入れられるからさ。これを機に売っちゃって虚の中整理しちゃおう!」

「本当は?」

「奴隷を買うのに資金が足りないから調達する」

「煌土龍様達が戻ってきたのはそういう事だったんだな」

「売却についてはアトラに任せるね」

「…俺だけでやるのかよ」

「だってそういうの上手いでしょ?」

「……否定はしない」

「じゃあアトラに決定ね。足がつかないように頼むよ」

「当たり前だ。主に何かあるような事を俺がするわけ無いだろ」

「ちゃーんと、信用してるよ」

「……おう」

「じゃ、行こっか」

「おう」


 私はアトラと一緒に天空島に向かって飛ぶ。

 虚から宝石を選別し、〈道具箱(アイテムボックス)〉内の魔石を全て魔法袋という人界で使われている魔道具の中に移動させた。シシエナから借りた、最上級の品質と容量を持った高級品である。

 戻ると既にレクト達は椅子に座っており、目で早く話せと急いていた。

 そこには、シシエナとロコの姿があった。

 苦笑いしながら私はその空いた席に座り、皆に詳しく説明する。

 手に入れた情報一つ一つを順序よくまとめて、少しずつ紐解きながら計画を話した。


「やはり、奴隷として捕まってしまっておったか…」

「でも店長、アリエーンちゃんの居場所がわかっただけでも良いじゃないですか!私達だけじゃそこまでわからなかったじゃないですか!」

「ううむ、まあそうだな」

「ヴェニーさん、もっと詳しくお願いします!」

「うん、元よりそのつもりさ」


「犯罪奴隷もいたんだけど大半は違法奴隷。なんか珍しそうな魔物やその素材もあったよ。奴隷の扱いはまあ悪い方ではないだろうけど環境は劣悪だったね」


 そして話を聞き続け、それが長くなるにつれてシシエナ達は怒りに顔を歪ませた。

 それもそうだろう。

 自分たちの知らないところで、何の罪もない子供達が奴隷として扱われているなど、信じられないことだったし何よりその中に大事な孫がいるとなれば怒りが湧かないわけがない。


「いつ……いつなんですか。その、オークションというのは」

「二日後の夜だよ。ここから居なくなるのは三日後らしいけど」

「では、二日間でどれだけの資金を集められるかが重要だの」

「身バレしないように仮面も買わなくちゃ!ヴェニーちゃんに似合うの選ばないと!」

「そうだね。アトラ、もう早速行ってきてもらっていい?」

「任せろ!」

「アトラ、俺も手伝おう。構いませんよね、ヴェニーさん」

「うん、レズフォンスもお願い。特に牽制方面で。アトラ、見た目以上に声に青年感があるからやり手には舐められかねん」

「任せてください」


 アトラの肩に手を置きながら、レズフォンスはウィンクしながら親指を立てて笑った。


 サムズアップにウィンクとは……。イケメンがやると破壊力あるなあ。


 そんな事を私は思いながら、平常心を保って二人を送り出した。

 ちなみに既にアトラはどこで換金するかは決めているらしく、迷いなく飛んで行った。


「じゃあワタクシ、ヴェニーちゃんの仮面買ってくるわね!楽しみだわぁ〜」

「ん?ヴェニーのだけなのか?」

「当たり前であろう。我らは留守番なのだ。必要は無い」

「ヴェニーだけで行くのか!?」

「勿論アトラもいるわよ?でも、あの子はフードを深く被っておけば何とかなるもの。だから必要無いだけ」

「いや、何で一人」

「あのねぇ、ゾロゾロと行っても不自然過ぎるでしょうが。それにね、イーラ。イーラが一番あの場所に向いてない」

「む、向いてないって…」

「人の気色悪い悪意の中で、耐えてられる?無理でしょ?」

「うっ、うう」


 否定できない、と、小さな声でイーラは言った。

 大罪能力(スキル)が云々の前に、感情が直情型であるイーラは、誰かの静止が無いと思うままに行動してしまう。イーラ自身もそれを自覚しているが、あまり……と言うか、それに関する能力(スキル)も持ち合わせているはずなのに全く効果が無い。心の抑制ができないのだ。


「確かに、ヴェニーちゃんの言う通り、あなたには向いてないわね」

「我のように忍耐力をつければよいだろう」

「イーラはレクトじゃないんだから無理よ。無理無理」

「私もそれは無理だと思う」

「うわっ、ひっでえ」


 しかし、レズフォンスがいればさらに追加で貶す言葉がやって来る事がわかっているイーラは、彼がいない事に少しだけ安堵して思考を戻す。

 そんな安堵をしているから、イーラの考えていることは周囲には筒抜けなのだからさっさとわかれ、と、私を含めた全員が思った。


「とにかく、イーラは留守番。レクトやシーとここにいてね」

「……ちぇっ」

「イーラのことは任せときなさい」

「頭を抑えておきますゆえ」

「頼んだよー」


 まあ、ワンチャン強硬手段に出るかもしれないから……いやでもその時ももしかしたら無いかもだけど、イーラには頑張って我慢してもらおうかな。


 と、ゆる〜く方針が決まったところで、私達は解散した。

 お金があるに越したことはないという事で、追加で魔物を狩りそれをシシエナの店で売ったりアトラに送って売ってもらったりと、着々と所持金を増やしていく。

 現代のオークションを思い出せば、有名な絵画でも五百億を超えていたという。

 そこまで必要になるかどうかは定かではないが、宝石の最高落札額が二千万LD近くなのだ。足りない足りない全然足りないもっといるだろ必要だろ馬鹿、と私は頭の中で悪態をつく。この世界で、奴隷というものは高値がつく。宝石と同等かそれ以上の価値が当たり前のようにあるのだ。

 女ならば遊廓の妓楼で売春婦として、男ならば鉱山にでも放り込んで延々と掘り続けさせることも、この世界の者達は躊躇いもなくやる。愛玩用だと言って家で囲うことも無い話ではない。実験用として「モルモット」と呼び捨てるのも珍しくはない。

 それが、違法奴隷ならばどうなるだろうか。

 国の法に反するその闇オークションに参加する者達は、裏社会の猛毒を携えた者、感化された者、もしくはそのものだ。

 ろくな扱いは受けないだろう。

 だからこそ、絶対に競り落とさなければならない。


「ノット思考停止」


 そこで、私はあの時見た資料内容……特に参加者名簿を思い出す。

 そして、ピコンと良い事を考える。


「んふ、んふふふ」


 たっのしみだっなー。

 猶予は残り少ない。

 早く当日になんないかなぁ?

 早くこの目で直接見たい!

 あ、あれ作ろう!世界に飛び立つプレゼントに!


「ランラランララーン♪」


 鼻歌交じりに私はスキップしてシシエナに借りた部屋に戻っていく。

 それを見たシーは仮面を片手に持っていたが、機嫌のいい時はそのままの方がいいだろうと、それを追わずに自身の神殿の方に向かった。



 その理由は一つ。シーギオ自身が持つ宝石の類の一部を売るためである。シーギオはヴェニウェルの為ならば、何よりも大事にしている宝の山の宝物殿の宝石を売っても良いというくらいにはヴェニウェルの事を王として認めていた。


「我が愛しき幽か」

「邪魔よ」

「ギョブォッ!!」


 手で叩き落とし、シーギオは神殿内に歩みを進める。入口にいたストーカー気質の番人など目もくれずに、広い神殿を人の歩みでは遅いと〈人化〉を解き龍の姿ですぐに宝物殿の中に入り込んだ。

 人間族(ヒューマン)の価値観など知らない。しかし、ヴェニウェルの持ち出した物の価値から、シーギオは何を持ち出しても良いのかを瞬時に理解した。

 美しいものに目がないシーギオだ。宝石ならば見ただけで種類や名前からカラットやその価値まで見定める事ができる。


「んー、これもいいわねぇ、こっちも捨て難いわぁ」


 恍惚として宝石を選ぶシーギオの頭の中は、どうすればヴェニウェルの役に立てるかの一つしかない。

 自身の王はもうヴェニウェルだ。アウィニーとは違う、可愛らしく、可哀想な、傲慢の王。

 子供のような無邪気さと、我儘する事に対して謙虚であり、それが受託されたその奥底に秘める傲慢な心は、二つの力を使いこなしている証拠である。敬わない理由がない。

 シーギオですら、〈嫉妬〉と〈感謝〉の力を均等にして使うことはできない。必ずどちらかに偏りが出る。

 マザーレクトも〈憤怒〉の力を使いこなせず、普段は〈忍耐〉の力を行使している。

 イラプションに至っては〈怠惰〉の力が強すぎて精神に大きく影響を及ぼすレベルだ。

 だからこそ、どちらの力も同じくらい出るヴェニウェルのことを何よりも信頼する。


「これくらいあればヴェニーちゃんも喜ぶかしら」


 小さな麻袋いっぱいに詰めた宝石は、それだけならば小さな村が二つ買える程の価値がある。

 それを両手に抱え、浮かれた頭の中で想像する。


「ヴェニーちゃんの喜んだ顔、早く見たいわぁ」


 持っていった宝石を換金するアトラの仕事量が増えることなど気にせず、シーギオはヴェニウェルの元へ戻っていく。




 帰ってきてすぐにシーギオに会ったアトラがその手に抱えられているものを見てふらつき、それをレズフォンスが慌てて支え、そのレズフォンスもそれを見てげんなりしたのは言うまでもない。





今回少しストックが足りないので一話のみの投稿になります。

恐らくですが、来月も同じ形になってしまうかもしれません。

見ていてくださる方々、申し訳ありません。


読んでくださりありがとうございました。

感想、ブクマ、お待ちしております。


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