弐拾壱 セキサイトの街
街に行く前日の夜、私とアトラは荷造りをしていた。
「ねーアトラー、お金ってどうすりぁ良いかな」
「一年前の魔石とか宝石とかを現地で売れば良いんじゃないのか?」
「お、ナイスアイデア!魔石、どれ持ってこうかね。うーん」
虚の中に貯めていた魔石をジャラジャラと出し、全てを自己査定して選定した。
魔石のリストを上げるならこんな感じになる。
ゴブリン 300LD×7260=2,178,000LD
マッドラット 350LD×10000=3,500,000LD
ワーウルフ 720LD×8500=6,120,000LD
オーク 1000LD×2700=2,700,000LD
コボルト 590LD×2500=1,475,000LD
ベノムバイパー 800LD×1200=960,000LD
ポイズンフロッグ 690LD×800=552,000LD
レッドベアー 1200LD×500=600,000LD
ホーンホース 2000LD×150=300,000LD
オーガ 2700LD×20=54,000LD
7,260+10,000+8,500+2,700+2,500+1,200+800+500+150+20=33,630
2,178,000+3,500,000+6,120,000+2,700,000+1,475,000+960,000+552,000+600,000+330,000+54,000=18,469,000LD
締めて金板18枚、金貨4枚、銀板6枚、銀貨9枚。基本的に金板は使われることは滅多に無いから、金貨は184枚といったところになる。
私は予想以上の額に戦慄を覚えた。
「せ、せん、はっぴゃ、く…よ、よんじゅう、ろ、ろくく…万、る、ルドー…だと!?」
「改めて見るとかなりの金額だな。人界でも滅多に見られない金額だぜ?」
「やっぱり、あの時分配した方が良かったんだよ……」
魔物の氾濫で手に入れたあの膨大な量の魔石は、あの時全て私が貰っていた。
イーラもシーもレクトも、「自分の所には腐る程あるからいらない」なんて言われて断られてしまっていたのだ。
確か、世界最高金額で取引された宝石で19,800,000LD。それでこの魔石の総額が18,469,000LD。……あと1,400,000LDあったら届くじゃん!!安価の魔石が多いとはいえ、この数はマジで異常。
あの時の魔物の氾濫はやっぱりイレギュラーだったんだね……。
イーラもあの時言っていた。
「集まる時大量の魔力が集まった」って。魔物は魔力溜まりから大量繁殖するから、それでこの数になったのか…。
「んー、ゴブリンだけを大量に持ってくのは何か怪しまれそうだし、かと言って少な過ぎるのは私が何か許せない。はて、どうしたもんかね」
「ランクごとに数を少なくして持ってけば良いんじゃないのか?」
「やっぱそうだね。ゴブリン十個、マッドラットは習性的に十五個、ベノムバイパーとコボルトは七個ずつで、ワーウルフとポイズンフロッグが八個と四個、レッドベアーが二個とオークが四個、ホーンホースも二個にして、オーガは色んな意味で一個にしよう!」
「オーガってBランクだろ?入れて良いのか?普通の人間達からすればかなり強敵の部類に入るやつだが…」
「舐められるよりかは良いよ。それに、何かあったらとある伝手から貰ったとでも言っとけばいい。そもそも、何かあったらの「何か」なんて、あるかどうかもわからないんだけどね、ふふふっ…」
「あったら本当に困るけどな」
「努力しなきゃね」
「困り事は努力してどうにかなるもんじゃないけどな」
「そこはまあ力尽くで何とかしようか」
「早速不安になってきたぞ」
街へ行くことが憂鬱になってきているアトラは、心ここにあらずの状態で空を仰いだ。
その間に、私はせっせと魔石を袋の中に詰め込み、残った魔石の一割を〈道具箱〉の中に入れ、残りの魔石は元の虚の中にしまった。
◯
次の日――
雲ひとつない晴天の空の下に、私を含む原竜種が全員集まった。
今の格好は私達がいつも着ている常服ではなく、街に降りても遜色のないラフな格好をしている。
シーは長い髪を垂らすのではなく編み込んで小さくまとめ、相変わらずスリット入りのロングスカートを着ている。普段着ているものはマーメイドドレスのようなものだからか、また違った魅力がある。いや、あまり変わらないか、と私は思った。
イーラは普段どおり下の方で髪をまとめ、無地のシャツに赤いベストを着た村人Aみたいな格好で、なかなか好印象な格好になった。
レクトは髪には何も手を加えず、杖と茶色い羽織を着ている。一言でいうと、巨大なおじいちゃんのような格好になった。
私は髪がサラサラしすぎて強く結べないため、緩めにして高い位置で括っている。袖が広がった緑色の七分丈のシャツにゆったりとした黒のバギーという格好。前世では考えられなかった姿だ。
筆頭従者達は人化したときの姿のままだ。シェロン達大地之人形は、一応は人化できるもののあまりしたくはないという事で土の中から同行するらしい。
「…こうしてみると、なかなかカオスな集団になったね」
「それは突っ込んだらいけないところだ」
「とりあえず、レクトは私達のおじいちゃんで、長女シー、長男イーラで、私が末っ子の妹ね。…間違っても「王」だなんて言ったら駄目だからね、レクト」
「わかりました」
「お互いの呼び方は私がヴェニー、シーギオはシー、イラプションはイーラ、マザーレクトはレクトで、そのままの愛称でいいよね」
「そっちの方が慣れているからな。いきなりヴェニーの事を別の名前で呼べなんて言われても今更できねえし」
「ヴェニーちゃんの事をそのまま呼んでていいなんて……幸せ!!」
「こんなので幸せを感じられても困るんだけど…」
喋りながら少しずつ歩いて転移装置のところまで移動する。その際、侵入者迎撃用結界も忘れない。転移装置の故障でこちらに飛んできてもらっても誰もいないし、何よりそれがもし盗賊の類だとしたらお宝を持ってかれかねない。貰い物は大事にしなければ。
「さ、行こっか。フレミューの座標はしっかり設定してるから、乗ればすぐに行けるよ」
「なあなあ、どうせだったら四人で一緒にせーので入らねえか?ジャンプしてさ」
「あら、イーラにしては良いこと言うじゃない。もちろん隣はワタクシよね?」
「は?提案した俺だろ」
「では、間を取って我が…」
「横入りするなよ」
「レクト…??」
「……すまぬ」
「じゃあ、右側にシーで左側にイーラが繋げば良いんじゃない?腕は一本じゃないんだからさ」
「よっしゃあ!!」
「くうっ!!」
「王…」
「…………へ?」
私のした提案にイーラがガッツポーズをして喜び、シーが膝を折って悔しがった。
レクトは少しシーを憐れむように見ている。
…………意味がわからない。
「まあとにかく行こう?時間無くなっちゃうし」
「おう!」
「まあ、ヴェニーちゃんがそれでいいなら…」
「うん、じゃあ手ー繋いで…行こう!!」
私は両脇にいる二人の手を引っ張って転移装置に飛び込んだ。
◯
「ここがフレミューかぁ」
転移装置で飛んだその場所は草原だった。風の透き通る、緑の草原。あの懐かしい最初の場所にそっくり。
そっくり…って、前にも何かそっくりだ的なこと言ってなかったっけ?
「ら、嵐風龍様」
「ん?」
続けて飛んできたアトラ達の後ろから小さな声でレズフォンスは私を呼んだ。何か問題でもあったのかと聞くと、レズフォンスは苦笑いをしながら言う。
「嵐風龍様」
「ヴェニーと呼ぶ」
「うっ……ヴ、ヴェニー、さん」
「…ま、いっか。で、どうかした?」
「それが、その、あの方の……イーラの性格は、多分もうわかってると思いますけど、気を付けてください。イーラは、人種に……特に人間族に対してだけは、異常な程に反応します。物凄く短気になります。特にあなたに関する事であれば最大に。だから…」
「止めてほしいってことでしょ。勿論、イーラが怒りそうになったら私が止めるよ。きっと私にしか止められないだろうから」
「すみません、頼みます」
「頼まれた、任しときな!」
「おーい、何話してんだぁ?」
「何でもないよ。さ、行こ?レズフォンス」
「はいっ」
私はレズフォンスと一緒に皆の所に帰ると、近くの街に向かって出発した。極力人と会うことが無いよう、細心の注意を払って。
いやまあイーラがどれほど酷くなるのかは気になるけど、だからといって無駄な諍いとか起こすの面倒だし変な火種作るの後が大変だから嫌なんだよね。
…あれ、何か街に行くのが面倒臭くなってきたぞ?帰らんけど。
「ヴェニーちゃん、見えたわよ」
「お?おおおぉっ!」
見えてきたのは周囲を城壁で囲い四つの大門が入口となっている大きな街だった。城塞都市、城郭都市とも呼ばれるような街だった。
「セキサイトっていうんだね」
街を見ながら私は言った。
「ええ、フレミューでは七番目に入る大都市よ。街なんだけどね」
「それだけ栄えているってことでしょ?良いところじゃん」
「人いっぱいいそう…」
「レズフォンス、私駄目かもしれん」
「あ、諦めないでくださいよっ」
「ん?何の話?」
「「イーラ「あんた」には関係無い」」
「二人して酷くね!?」
遠目から見ても溢れるんじゃないかと思うくらいにはいる人間族の姿。お先真っ暗、一寸先は闇、悪い言葉しか思い浮かばないのは、きっと私の運が悪いのと後ろ向きな思考のせいだと自分自身に言い聞かせる。
おっかしいな…私の幸運値カンストしている筈なんだけど。
いやそれはまあいいや、そんなのはもうどうでもいい。いやこれもう揉め事の予感しかしないわ!
寄り道一つもできそうにないね!!
「さっさと行ってさっさと帰ろうか」
「主?楽しまなくて良いのか?」
「それよりも私は平和に行きたい」
「お、おう?」
「さ、じゃあ行こっか。レズフォンス、腹くくっていこ?」
「マジで諦めねえでくださいよ!」
「だから二人は何の話してるんだって!」
「「だからイーラ「あんた」には関係無いんだよ!!」」
◯
見渡す限り、人、人、人。人がゴミのようだって言ったあのキャラクターの心が少しだけわかる気がする。
少し高い建物に入り窓を開けさせてもらって改めて街を見下ろした私がそう思ったのは、決して人間族を見下したかったからとかそういうものではない。ただの現実逃避からくるものだった。
「風が気持ちがいいな。…主、顔が死んでる、目が死んでるぞ」
「もう少しくらい現実逃避させて…?」
私がそうなってしまったのには、少々時間を遡る必要がある。
一時間前
街に入った私達は、まずは街の中央まで行こうということになりアトラと私を先頭にして前に進んでいた。
それがいけなかった。
最初は空いていて広かった道も、中央に近づくにつれて道幅が広くなっているはずなのにだんだん人混みが激しくなり、そこで私は皆と逸れてしまった。
流石にまずいと思った私も感知してどこにいるかはわかっているのに、目視では全くわからなかった事で焦り逆走してしまった。自業自得ではあるがそれで押し返されて壁に体を打ちつけて擦り剥くという、実に馬鹿な事をしてしまった。
現在私の体は腕輪により弱体化されており、限りなく人間族に近くなっている。よって、擦り剥いたところも治りは遅いし痛みはないものの傷が薄荷のようにスースーするという状況が続いている。
「やっばいな…」
押し押され押し返され、私はとうとう中央まで来てしまっていた。そこまで来るともう人は混んでおらず、かなり疎らになっている。
弱体化のもあるけどオーラを纏えていないのがやっぱりキツイね。私達オーラで傷治しているようなもんだからなぁ。
中央の噴水に腰掛け空を仰ぎながら私は溜息をついた。
その時、前方から如何にもチンピラといえるような輩が三人近づいて来るのが見えた。敵意は一切無く、どうせ何も話はしないだろうし来はしないだろうと思っていたが、その男達は真っ直ぐと私に向かって歩いてきていた。
「ねえそこの緑のお姉さん、俺達と一緒にお茶しない?」
「……はい?」
「一人でいるの寂しいでしょ?俺達と一緒に行こうよ〜」
いやいやいやいや、意味わからん。これナンパだよね?私に来てんの?嘘でしょ?????だとしても断るけどさ。
「ごめんだけど、私今連れと逸れている状態だからここを動けないんだ。そのお誘いは断らせてもらうよ」
「そんなこと言わずにさあ、いいじゃん少しくらい。たった数分ちょっとお茶する時間はあるでしょ」
「離れた瞬間にすれ違ったりしたら怖いから、動くつもりは無いよ」
「だから、ちょっとの時間だって言ってんじゃん」
しっつこいなぁ!動かないっつってんだからさっさとどっか行けよ、もう!
私は青筋が立つのを感じるが表情には出さないように必死に表情を取り繕った。しかし、男達は一向に離れようとはしない。
「ねえほら、早く行こって」
「わ、ちょっ」
ぐいっと腕を掴まれ引き寄せられ、私は少しよろける。そこから今度は肩を更に強い力で抱き寄せられ、今度は誰だと若干面倒臭いとでも言うような表情で顔を上げると、私の方を掴んでいたのは眼付だけで相手を殺してしまいそうなイーラだった。
まずいまずい非常にまずい。レズフォンスどうしよう来て早々やっちまった!
「あ…い、イーラ?」
「ヴェニーちょっと黙って」
「え、あ、はい」
有無を言わさぬその言葉で私は黙る。
いやまあ黙るのもおかしんだけどね!?私のほうが上なのにね!?あらやだちょっと傲慢の力が出てる。いやいやそんな事今どうでもいいわ!
「あのね、イーラさん?ちょ、ちょっと落ち着こう?」
「あ?んだよてめえ。俺らが今その子誘ってたんだから邪魔すんなよ」
「それともなんだ?お前がその子の言ってた連れ?ウケる」
「あ"あ"?」
「オイコラ刺激すんな…!!」
イーラに対してつっかかってくる男達を静止しようにもガッチリと肩を掴まれているため思うように動けない。
イーラ自身もなんとか耐えようとしてくれているのは私でもわかった。だが、それが男達に伝わることはない。
「なあおい無視すんなよ」
「聞こえてんなら返事くらいしろよ」
「なあ、マジでその子の何?ほんとに連れ?なんか喋れよ」
それどころか煽ってくる一方で、この場を離れたいがしつこい上にネチネチとうるさい。
颯爽と去りたかったがそれも許してくれない。
そこに、男達は前に近づくと遂にとどめを刺した。
「あのさぁ、その子の彼氏でもないんだったらマジでさっさとどいてくんない?」
ブチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。
その言葉と音に頭を抱えた私は、早くこの場を抜け出したかった。しかしもう遅い。
「俺のヴェ二ーに近づくんじゃねぇ!!」
次の瞬間、男達は上に吹き飛んだ。言わずもがなイーラの仕業である。私が見たのは、拳を振り上げた後だった。
こ、こいつ、風圧だけで吹っ飛ばしやがった……。
下に落ちてきた男達は、ドサドサっと重なって倒れて気を失った。
そして、時間が経たないうちに街の警備員が来たことは言うまでもない。
それに事情説明やらなんやらで疲れたのが、さっきまでの私だった。
今現在、何故かすぐにその場を離されてしまい、紅茶の茶葉を見に建物に入ったところだった。
イラプションが歓喜し、シーギオが悔しがった理由
左側には心臓があり、命の結晶とも言える魔石が存在する。
故に、左側に立つ者は最も信頼する者である。
他にも、結婚、結魂した場合、左薬指に指輪をはめる。
命を懸けた誓約を左半身に刻む。
心臓を捧げ、忠誠を誓う。
罰を左半身に刻む。
などなど、左側って結構重要。
だからイラプションは喜んだし、シーギオは悔しがって膝を折ったんです。
まぁ、ヴェニウェルの反応を見たらわかると思いますが、ヴェニウェルにとって三人は信頼出来る仲間という認識であるため、そこまで他意はありません。
「皆大事だよ?」
知ってるよー。




