弐拾 そうだ、街に行こう
今月二話目の投稿になりまーす。
ヴェニウェル、ついに街へ行く!
一年の間に行ってなかったのか…?
……今、私何て言った?
……今の、誰も聞いてないよね?
「染まってるねぇ」
ここ1年でよくもまあこんなにも染まったものだ。
消すだとか消さないだとか、本当に上に立場として話している。
……主将やってた時、そんなこと思ってたっけ?
「……ま、どうでもいいか。過去は過去。今は今。生きている今が私自身だ」
そう、今生きていることだけが、私が生きている証であり私が生き続けるための糧でもある。
そう簡単に死んでたまるか。……………多分死なないだろうけど。
心の中の硬い意志をまるで肯定するかのように大樹から風が吹いた。
私の龍毛と呼ばれる毛が強風に吹かれてなびく。
その瞬間にも、風は何もかもを運び続けた。
そう、何もかもを。
「侯爵邸のバラの紅茶は本当に美味でございますね」
「喜んでいただいて何よりだわ。そうですわ、この後バラ園に行きません?最近新種のバラができましたの」
「まあ是非!」
「わたくしも行かせてくださいな」
「私もよろしいでしょうか?」
「ええ、皆さんで参りましょう」
風と共にやってくるのは、何も匂いだけではない。
私には会話も流れ込んでくる。
風にのって流れてきた会話はどこぞの国の貴族の令嬢たちの会話だった。
紅茶……優雅だねぇ。
紅茶を最後に飲んだのいつだ?ってか、そもそも飲んでたっけ?飲んだことあったっけ?
「いいなぁ、私も飲みたい」
そう言葉にしたのがきっかけで、私は同仕様もなく紅茶が飲みたくなった。
イーラやシー達がくれる物には、茶葉は愚か水すら存在しない。
一つ目の理由として、原竜種は食事をしないから。
二つ目、シーの周りには水(海水)が嫌という程あるから。
三つ目、レクトの近くに純度の高い地下水が湧き出ているから。
四つ目、イーラの所に水があってもすぐに蒸発してしまうから。
五つ目、自分の力で飲水が出せるから。
六つ目、そもそも誰も紅茶なんて飲まないし飲んだことがないから。
「そうだ、街に行こう!」
善は急げだ。早速アトラを呼び寄せよう!
◯
「主、戻ったぞ―」
「おー、おかえり…って、何故イーラもいる」
「よっす、久しぶりだな」
「お邪魔します」
戻ってきたアトラの後ろには人型になったイーラがいた。普段龍の姿で会っているせいで、一瞬誰?と思ってしまう。
「イーラ……何でここにいるんだ。仕事どうした、仕事」
「怠い!つまらん!それに、ヴェニーがアトラを呼ぶなんて、絶対面白いことをするに決まってるからな!」
「すみません嵐風龍様、この通り俺のご主人様は自由すぎて俺の手に負えない状態なんです。俺にはもう制御できないです」
その言葉に私はレズフォンスの肩を寄せて小さな声で問いただす。
「レズフォンス?一体何百何千何万年一緒にやってきたの?おかしくない?筆頭従者である君がそんなんでどうするんだ」
「…………俺には無理です」
「諦めないでくれよ!」
「前はあんなんじゃなかったんですけどね?仕事はまあ確かに遅いですし飽きっぽいし、すぐ投げ出しますけど、ここ最近からですよ。無駄にソワソワして集中力の欠片もなくて、口を開けたと思ったら「つまらん!」ですからね!?」
「…………」
これは…遠回しに私のせいだとでも言いたいのか?失敬な。私じゃなくてそれはイーラの心の問題だ。興味の対象が出てきてしまったことによって仕事の妨げになるんだったら排除したいものだけどね、それが私だったら私は一体どうすればいいのさ。
動くな、とでも言いたいわけ?そんなものお断りだね、絶対に。
まあでも、大変だって言うんだったら、少しくらいは力になってあげなくもないよ?
「イーラ、今回の事が終わったらちゃんと仕事をするって約束できるなら、連れてってあげなくもないんだけど」
「嵐風龍様………!!」
「マジでか!?やる!俺絶対しっかりやる!!」
「…本当に?」
「おう、本当だぜ!やる気を出せば俺にできないことはない!」
そう豪語するイーラを見てレズフォンスを見ると、彼は強くうなずいた。
信用してもいいのかな、これは。
けど、勤勉を持つ彼のことだ。大丈夫だと思………いたいな。
「じゃあ言うね。私ね、街に行きたいんだ」
「「「え!?」」」
私の言葉に全員が声を出して驚いた。
「え?そんな、どうした?」
「…す、すまん主、理由を聞いてもいいか?」
何か変な事でも言った?といった顔をしていると、アトラは苦笑いしながらゆっくりと聞いてきた。
そんな質問に、私は軽く答える。
「紅茶が飲みたくなったから?」
「………………それだけ??」
「そう、それだけ」
「他に理由は?」
「無いね。全く」
「重大な理由とかも?」
「紅茶が飲みたいってのじゃ駄目なの?」
「いや駄目じゃない、駄目じゃないんだ。けどな!理由が軽過ぎてだな!?他の原竜種達が許すかどうか」
「いや、いんじゃね?」
「いいのかよ!!」「え、いいの?やったー」
イーラの言葉に、私とアトラは同時に反応したが、それで言葉が重なったためか、イーラとレズフォンスにはいまいち伝わらなかった。
しかし、私にはそんなことはもうどうでも良かった。
よっしゃあ!夢にまで見た人界!やっと行けるぅ!!
「ひゃっほーい!!」
「ああ主!?ちょ、王としての威厳がまるで無くなってるぞ!?」
飛んで喜ぶ私を見ながら、イーラは何かを懐かしむように空を見上げた。
思い出すのは遥か昔、それでもイーラにとってはついこの間のような出来事。
「アウィニーも、人界に行くのだけは目を輝かせながら喜んでたもんなぁ…」
はしゃぎ方は全くだが、そこは本当によく似ていると、イーラは胸の内でそう呟く。
人界に行く時だけは、心の底から喜び、感情を表に出して笑っていた。
口では中立だとか人種側でも魔物側でもないだとか色々と言っていたが、それでも人間族の事が大好きだったのを、今でも鮮明に思い出すことができる。
「あ、シーやレクトにもこの話してみろよ!きっと泣いて喜ぶぜ!」
「そうだね、レクトには腕輪もらったし、その時に機会がありましたら是非って書いてあったし」
「なら、尚更誘わねえとな!」
「うん」
太陽のように笑うその顔に、イーラは少しドキッとした。
イーラ自身も今一瞬何故そんな事になったのかはわからずにいたが、「どうした?」と聞かれると顔をブンブンと横に振って「な、なんでもねえよ!?」と焦ったように誤魔化した。
「そう…変なの」
「主に言われるのはどうかと思うぞ」
「…酷くない?」
「酷くない」
「…………拗ねていいか?」
「「やめてくれ」」
ズバッと切り裂かれた。
ちぇっ、まぁいいや。
取り敢えず、シーとレクトに連絡するか。
私はちょちょいっと能力を使ってシーとレクトに連絡をとった。
内容は勿論一緒に人界に行かないかというもの。
そして返ってきたのは…
―一緒に行くわ!!
―是非ともお供させてほしい!
だった。
いやあ、嬉しいね。こんなすぐに決まっていいものかね。
「行く日程はまた後日。でも一週間以内には行くつもりでいるからそこんとこよろしく」
「適当過ぎやしないか?」
「アトラくんや。こういうのは行き当りばったり、計画性がない方が楽しめるというものなのだよ。日は決めるとしても、中身がまっさらの方が面白いし冒険感があっていいでしょ?」
「そうなのか?」
「なんかそれロマンがあるな!」
「あんたそれ本当にわかってんのか…?」
「おう!…………多分」
「頼りなっ!」
「頼りないって言うなよ!!」
だんだんヒートアップしていくイーラとレズフォンスの言い合いを無視して、私はアトラと向かい合い詳しい日程をそれぞれのスケジュールを考慮して組み込んだ。スケジュールに関しては誰に聞こうとせずともわかっているため、あまり時間はかからなかった。
「さあ!人界に行くのは三日後の早朝!場所はフレミューだよ!!イーラ、仕事が終わってからじゃないと行かせないからね!?」
「任せろ!」
「……レズフォンス、頼んだ」
「はあ…了解しました」
◯
何事もなく天空島を出て行ったイーラ。
しかし、イドルネス火山への帰り道、イーラは悶々としながら空を飛んでいた。
あの時の胸の感覚は何だったのか、と。
病気や魔法、毒などでは決してないあの感覚は一体何なのか、イーラ自身全く理解ができていない。
何が、どうして、一体何故そんなものが出てきたのか、頭の中で今日の事を何度も思い出そうとする。
わっかんねー…。アウィニーの事を思い出した時は何とも無かったし、第一今までこんな感覚初めて味わっている気がしてどうにも収集がつかねえ。………ん?そういえばいつそうなった?
ヴェニーの顔見た時………………………?
笑った時の笑顔が、胸がドキってして見ていていいなって可愛いなあって思っ………だ、あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
何かに気付き、心の中で絶叫を上げた。
いやいやいやいやいやいや、無いだろ、そりゃ無いだろうが!駄目だろこれは!!
前にも見た時は何とも無かったんだぞ!?今更何なんだ!?そりゃたしかに最初に見た時からかわ…っけど、いやそれよりもあそこまで嬉しそうに笑ったところは初めて見たけれども!
あ、駄目だ、もうわかんねえ。
「…なあ」
「ん?何だ、イー……!?」
「その、だな……って、何だよ」
少しだけ振り向き、レズフォンスに聞いてみようとしたイーラだが、逆に凝視されて少し戸惑う。
一方レズフォンスはじーっとイーラの顔を見つめ、少ししてから反応した。
「いや、あんたの顔って元から真っ赤だけど更に赤くなってんなぁって」
「〜〜〜っ!?!?」
「??どうしたんだよ」
「やっっぱなんでもねえ!!」
バレたと思い、顔を瞬時に前に戻す。
絶対言っちゃ駄目だこれは!!
言ったら確実に
ヴェニーと一緒に人界に行けなくなる!!
それだけは絶対に回避するぞ!
俺言わねえ!絶対何があっても絶対に言わねえ!
ヴェニーの事がす、す…す……s
「だあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
「はあっ!?ちょ、突然スピードを上げるなぁ!!」
イーラは恥ずかしくなって飛ぶスピードを思いきり上げた。
後日、イーラが上空を通り過ぎた場所で何かの断末魔を聞いた者が続出したという。
◯
「あの方は、自分が隠せていると思ってんのか?」
イドルネス火山に戻ったイーラは、レズフォンスを下ろすとすぐに書類整理を始めた。それを見ていると、一緒に行きたいということが丸わかりである。
そして、先程の赤面も。
「絶対落ちたよな…」
元々そんな予兆はあった。
嵐風龍様に言った通り、無駄にソワソワしてるし集中力の欠片もない。勿論仕事に飽きているんだろうが、まだ一つ言ってないことがある。
──ヴェニーに会いたい
そう無意識に口から溢れていた。本人全く気付いてなかったけどな。
会うたびに飛ぶように喜んでいるし、今日だって唐突に行動していた。本人は全然無意識だったけどな。
今回の落ちた理由も多分あれだろうなぁ。
あの嵐風龍様の笑顔は反則級だろ。
見た瞬間俺でさえも一瞬止まった。アトラなんか石像みたいに固まってたし、あの方も全くの無意識で胸ギュって押さまえてた。
ま、すぐに戻ったけどな。
「………恋に落ちてるよなぁ」
半ば諦めモードで大きく溜息をついた。
………同じ原竜種、自分の王様に恋するって、そこんところ大丈夫なのか??
「面倒事はなるたけ避けたいんだけどな…」
成就…するか????頑張ってくれとしか言いようがない。嵐風龍様、かなり鈍そうで強敵そうだからな。
そうは言いながらも、自分の主の恋路を応援するレズフォンスだった。
◯
薄暗い中、柱をすり抜け長く続く道を疾走する少年が一人いた。
薄汚くボロ雑巾同然の格好は、地下であり気温が低くなっているこの場では見ているだけで寒さを感じられる。
……………………暗い、やだ、痛い、嫌いだ、狭い、気味が悪い、吐き気がする、気持ち悪い、出たい、自由になりたい、離せ、生きたい、まだ
「おいてめえ!何してやがる!」
「ひっ」
突如通路の脇道から男が現れ、少年を鷲掴み怒鳴りつけた。
「何出てやがるんだよ!それとも何か!?口だけ言ってもわからないってのか!?ああん!?」
「ごめ、なさっ」
「黙って大人しくしてろってんだよ!」
数度蹴られ、男は「ちっ」と舌打ちをすると部下と思われる温和そうな男に命令してその場を立ち去った。
少年の首と手首に枷を付けて。
「勝手に出ちゃダメでしょ。あんましあの人の機嫌悪くするようなことしたらまたお仕置きするよ?」
優しそうな笑みを浮かべながら男は言った。
台詞が違えば少年はもう少し落ち着けたかもしれない。しかし、「お仕置き」の言葉の意味を身を持ってよく知っている少年からすれば、崖の上から大岩を落とされた気分だった。
それと同時に、少年は遂に悟ってしまった。
もう逃げる場所は無いのだと。
そうなってしまったら、もう体に力が入らなかった。瞳から光が消え、顔から表情が抜け落ちる。
男に足を掴まれ引き摺られようとも、もう痛みすらも感じない。
ここは、生きていても死んでいても同じ、地獄のような場所。
僕みたいな……僕と同じような人達に、自由に生きることなんて許されないから……。僕達みたいな──
牢獄に投げ入れられ、少年はそこで意識を失った。
苦痛に顔を歪めながら。
───奴隷には。
ここで恋愛要素登場!
しかしここは恋愛漫画ではないので、甘々のストーリーなんてありません!
あったとしてもうまく書ける自信は皆無!
ごめんよ、イラプション……。
「そう思うくらいだったらもうちっと優遇してくれね?」
できるだけ頑張ってみなくもなくもなくもなくもないかも?
「どっちだよ!」
わかりません!




