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04. 灯

本日2話目の投稿となります。

明日は19時頃の投稿を予定しています。

毎日投稿を続けていけるよう、頑張ります。

 指定された時刻にエンバーグロウを訪れると、店はすでに賑やかだった。


 エンバーグロウは、その外壁沿いにひっそりと佇む酒場だった。軒先に吊るされたランタンの灯りは今にも消えそうなくらい弱々しいのに、中に入ると意外なほど温かい。


「よう。お前らが、あの募集出した奴らか」


 最初に声をかけてきたのは、カウンター近くの席に足を投げ出して座っていた青年だった。緩く着崩した装備の上に、大きな戦斧を無造作に立てかけている。座っていてもなお分かるほど、体格が良い。立ち上がれば190セイルはありそうな上背に、寝癖交じりに跳ねた赤茶の短い髪、琥珀色の瞳。日に焼けた肌が、いかにも野外で鍛えてきたことを物語っていた。歳は18だと、後で知ることになる。


「カイルだ。よろしくな」


 軽く片手を上げる。人懐っこそうな笑い方だった。


 肩肘を張らない態度に、少しだけ緊張が緩む。


「ルミナだよ。よろしく」


「リオンです。よろしくお願いします。輝度は……8等星なんですが」


「俺も同じだよ。輝度は8等星、お前と変わらねえ」


「そう、なんですか」


「同じ底辺同士、仲良くやろうぜ」


 カイルはそう言って、笑いながら戦斧の柄をとんとんと叩いた。武骨な武器の割に、扱う本人はどこか気安い雰囲気を纏っている。


 短いやり取りだったが、それだけで、この人がどういう人間なのかが少し分かった気がした。




 他にも誰か来ているだろうかと店内を見渡すと、店の隅、一番目立たない席に、俯きがちに座っている少女がいた。膝の上でスカートの裾をきゅっと握りしめながら、こちらを窺うように何度もちらちらと視線を送ってくる。淡い亜麻色の髪は一本に編み込まれ、肩越しに前へと垂らされていた。小柄な体を余計に縮めるように、背を丸めている。155セイルあるかないかで、僕と同じくらいの年齢だろうか。


「もしかして、募集見て来た人?」


 ルミナが声をかけると、少女はびくりと肩を震わせてから、おずおずと近づいてきた。大きな眼鏡の奥で、灰色の瞳がせわしなく僕らの間を行き来している。


「あ、あの……はじめまして、シエルです……その、よろしくお願いします……」


 声は消え入りそうなほど小さい。


 人見知りなのだろう、というのは、遠目にも分かった。それでも、震える声で名乗ろうとする姿に、僕は少しだけ親近感を覚えた。誰かに歩み寄るのが得意ではないという点では、僕もあまり変わらない。


「魔法、使えるんですか」


 僕が尋ねると、シエルは小さく頷いた。


「は、はい……その、まだ全然、大した腕前じゃ、ないんですけど……」


 カイルが横から口を挟む。


「そんな謙遜しなくても。そう言う奴に限って、いざって時頼りになったりするもんだぞ」


「そ、そんな……買いかぶり、すぎです……」


 シエルは顔を赤くして俯いてしまった。


「が、頑張ります……」


 俯いたままのシエルが、抱え込むように持っていた杖に、僕はふと目を留めた。装飾の少ない、木目の美しいワンドだった。


「その杖、ずっと使ってるんですか?」


 僕がそう尋ねると、シエルは杖をそっと持ち直した。


「は、はい……これ、父から、譲り受けたもので……」


「そうなんですね」


「そんなに、大した物じゃ、ないんですけど……大事に、使ってます」


 シエルは俯いたまま、それでも耳の先を赤くしていた。


 そのやり取りを眺めながら、僕は少しだけ、肩の力が抜けていくのを感じた。


「よし、一通り自己紹介も済んだし」ルミナが手を叩く。「せっかくだから、今度みんなで簡単な依頼、一緒にこなしてみない? いきなり本決まりにするより、その方が安心でしょ」


「賛成だ」カイルが頷く。「相性とか、実際動いてみないと分からねえしな」


「わ、私も……それでいいと、思います」


 僕にも、異論はなかった。まだ会ったばかりの相手だ。焦って決める必要はない。


 母さんが死んでから、ずっと一人だった。誰かとまた一緒にいられるかもしれない。そう思うと、少しだけ胸の奥が温かくなった。


「そういえば、カイルさんはどうして冒険者に?」


 僕が尋ねると、カイルは戦斧の柄を撫でながら、少し照れくさそうに笑った。


「大した理由じゃねえよ。田舎の村じゃ、力自慢が唯一の取り柄でな。それで身を立てようと思っただけだ」


 ルミナがにやりと笑う。


「勘だけど、そういう顔する人って、大体誰か守りたい相手がいるんだよね」


「――適当なこと言うな」


「当たった?」


 カイルは気まずそうに視線を逸らし、それ以上は何も言わなかった。ただ、耳の先が少し赤くなっているのが見えた。


「シエルは? 魔法、いつから使えるんだ?」


 カイルが話を逸らすように尋ねると、シエルはぱっと顔を上げた。


「わ、私は、小さい頃から本を読むのが好きで……その、魔導書とか、古い文献とか。実技はまだまだなんですけど、理論なら、結構」


 目を輝かせながら話す様子は、これまでの弱々しさとは少し違って見えた。


「理論だけなら、街の学者にも負けない自信があります」


「へえ」ルミナが感心したように相槌を打つ。「じゃあ、今度の依頼でも頼りにしてるね」


「が、頑張ります」




 その後もしばらく、四人でとりとめのない話をした。ギルドの誰それが失敗した武勇伝――カイルの軽口に、ルミナが笑い、シエルが小さく相槌を打つ。


「そういや、8等星のまま一番長くいる奴の記録って知ってるか?」カイルが身を乗り出す。「三年だってよ、三年」


「うわ、それは、ちょっと聞きたくない話ですね……」


「他人事じゃねえぞ、俺たちも」


 軽口の応酬に、シエルがくすりと小さく笑った。それを見たルミナが、嬉しそうに目を細める。


 ただそれだけの、何でもない時間だった。


 でも、こんな時間を過ごすのは、随分と久しぶりだった。


「それで、三日後なんだけど」ルミナが切り出す。「みんなでギルドに行って、実際に依頼を受けてみようか。地道な依頼の方が、こういうのはかえって相性が出るんだよね」


「地道な依頼、ですか」


「うん。命がかかってない依頼で、お互いの動き方を見ておきたいから」


 命がかかっていない、という言葉に、少しだけ安心した。あの日のようなことは、もう起きてほしくない。


 パーティになれるかどうかは、まだ分からない。それでも、三日後にギルドへ向かうことが、少しだけ楽しみに思えた。こんな気持ちを抱くのは、随分と久しぶりのことだった。

読んでいただき、ありがとうございます!

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