↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

25. 合流

 村を出た僕らは、足早に街道を戻っていた。


「思ったより、長居しちまったな」


 カイルが申し訳なさそうに、頭を掻く。


「仕方ないよ。あんな再会、そうそうないんだから」


 ルミナがそう言って、軽く肩をすくめた。それでも、隊列に遅れているという事実に、僕らの足取りは自然と速くなっていた。


「わ、私たちだけ、置いていかれてたら、どうしましょう……」


 シエルが不安げに呟く。


「セドリックさんなら、置いていくような真似はしないと思うけど……」


 そんな話をしていた時だった。街道の先、木々の隙間から、大きな人影が一つ、こちらへ向かって歩いてくるのが見えた。


 年季の入った大剣を背負い、歴戦を思わせる佇まい。その姿に、僕は覚えがあった。


「よう。探したぞ」


 低く落ち着いた声が、そう言った。あの日、黒い狼から僕らを救ってくれた冒険者――ガイウスだった。




「――もしかして、あの時の……ガイウスさん?」


 僕が思わずそう尋ねると、ガイウスは口の端をわずかに緩めた。


「覚えててくれたか。あの時は、名乗る余裕もなかったからな」


「あの、その節は、本当にお世話になりました。ちゃんとお礼も言えないまま、で……」


「気にするな。無事だったなら、それでいい」


 ガイウスはそう言って、軽く手を振った。素っ気ない態度の中に、確かな温かさが滲んでいる。


「今回、ガイウスさんも遠征に?」


「ああ。俺のパーティも招集された口だ」


 その言葉に、僕は驚いて聞き返した。


「じゃあ、ずっとこの隊列に……? 全然、気付きませんでした」


「そりゃそうだろう。俺たちは、ずっと最後方だったからな」


 ガイウスは、隊列の来た方角を親指で示した。


「5等星以上のパーティは、後方警戒に回されることが多い。奇襲は、大抵背後から来るもんだ。お前らみたいな前の方の連中と、顔を合わせる機会がなかったのも無理はない」


「後方って、危なくないんですか?」


「危なくない、とは言わねえ。だが、経験のある奴が最後尾を締めてないと、隊列全体が崩れる。誰かがやらなきゃならねえ仕事だ」


 ガイウスは、それを当然のことのように言った。誇るでも、恩着せがましくするでもなく、ただ淡々と。その口ぶりに、僕は妙に胸を打たれた。


「そうだったんですね……」


 道中、一度も姿を見かけなかった理由に、僕はようやく合点がいった。ずっと、僕らの見えないところで、隊列全体を守ってくれていたのだ。


「それで、わざわざ迎えに来てくれたんですか?」


 僕が尋ねると、ガイウスは小さく頷いた。


「セドリックの奴が、心配性でな。『少し遅れているパーティがいるので、様子を見てきてもらえますか』とさ。お前らだと聞いて、ちょうどいいと思って引き受けた」


「わ、私たち、そんなに時間かかってましたか……?」


 シエルが青ざめてそう言うと、ガイウスは低く笑った。


「そう慌てるな。まだ隊列も、そう遠くへは行ってない」




 並んで歩きながら、ガイウスは僕らに何気なく話しかけてきた。


「あの後、輝度は上がったのか?」


「はい。今は7等星です」


「上出来だ。あの黒い狼を前にして生き残っただけでも、大したもんだったがな」


「あの狼、結局まだどこかにいるんですよね……」


 僕がそう漏らすと、ガイウスの表情が、わずかに険しくなった。


「ああ。深追いはしなかった。あの手の化け物は、退き際を見誤ると、こっちの命が幾つあっても足りない」


 その一言には、これまでの実戦で培われた重みがあった。数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、静かな凄みだった。


「今回の遠征も、気を抜くなよ。特にお前ら、まだ若い」


「はい」


「肝に銘じます」


 カイルとルミナが、それぞれそう答える。ガイウスは満足そうに頷くと、ふとシエルへ視線を向けた。


「そっちの嬢ちゃんは、魔法使いか。パーティにゃ、一人はいないと困る役どころだな」


「は、はい……その、まだまだ、修行中ですけど」


「そうか。地道にやってるなら、それでいい」


 ガイウスの短い一言に、シエルは驚いたように目を丸くしてから、照れくさそうに俯いた。それ以上は何も言わなかったが、ガイウスは満足そうに頷くと、それきり口を閉ざした。


 その背中は、あの日、黒い狼を一撃で吹き飛ばした時と変わらず、大きく頼もしかった。


 しばらく歩くと、隊列の最後尾が見えてくる。


「――っと、着いたな」


 ガイウスがそう言って、足を止めた。


「ここから先は、俺は後方に戻る。何かあったら、遠慮なく声を上げろ。そう遠くない場所にいる」


「ありがとうございます」


 僕がそう言うと、ガイウスは軽く手を上げて応え、隊列の後方へと引き返していった。その大きな背中を見送りながら、僕はもう一度、あの日の記憶を思い返していた。


 一撃で黒い狼を吹き飛ばした、あの圧倒的な力。


 あの人がいる限り、僕らは大丈夫。


 そう思わせてくれる背中が、遠ざかっていく。




 隊列の中ほどに戻ると、セドリックが僕らに気付いて歩み寄ってきた。


「ああ、戻られましたね。ガイウスさんに、無事見つけていただけたようで」


「すみません、ご迷惑をおかけしました」


 僕が頭を下げると、セドリックは眼鏡の位置を直しながら、穏やかに笑った。


「事情は、カイルさんから軽く伺っています。大切な用事だったのでしょう。次からは、少し早めに合図をいただければ、それで十分ですよ」


「以後、気をつけます」


 カイルが決まり悪そうにそう答えると、セドリックは軽く笑って踵を返した。


 日が沈み切る前に、どこかで野営を張ることになるのだろう。夕暮れの街道を、隊列はゆっくりと進んでいく。山はまだ遠いが、確かに一歩ずつ、その姿を近づけていた。

読んでいただき、ありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の☆を押して評価をお願いいたします!もっと頑張ります!

感想、レビューもお待ちしております。

よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。