第5話 ボス挑戦推奨20人、それでも3人で戦う
最初のボス戦です。
校庭に降り立ち涎を垂らすホブゴブリンは体育館の方を見る。
「ウガグア゙ア゙ア゙!!!!」
魔物は空気が痺れる程の咆哮を出す。
震える手でまた解析眼を発動し、確認。
当然だが変わるはずもなく、
——
【種族】ホブゴブリン
【脅威】E
【推奨レベル】51〜200
【推奨討伐人数】20名以上
【危険度】高い
——
だ。
「やっぱり無理です! 学生がやる事じゃないです!」
涙目になりながら無理だと訴える、しかし零達は一歩も引くどころか歩き始めた。
「体育館を狙っている俺らが陽動して離させないとマズい」
木刀を構えた。
「死ぬのも嫌だが逃げるのはもっと嫌だね」
「奇遇ね、私もよ」
そうして2人はホブゴブリンの元に走り出した。
初音も2人を放置出来るはずも無く、自分でも役立てる場面はあるはずと一緒に走った。
「凛! 上に飛べっ」
木刀を下にしたところに彼女は乗ると思い切り打ち上げられ、奴の頭目掛けて回転し思い切り踵落としをした。
「フグググガ!!!」
それに痛がり棍棒を乱雑に振り回す、その度に地響きが起こり校庭は陥没した。
恐怖で初音は少し漏らしかけた。
「こいつ見かけの割に速いぞ!」
デブのくせになんで速いんだよっ。
零はギリギリで棍棒を回避し木刀を叩き込むが皮膚が硬く手応えが無い。
無理もない、今付与されているのは耐久度が上がるスキルだけなのだ。ホブゴブリンは普通の木の棒で倒せる相手ではない。
頼むッ、こいつに有効打を与えさせてくれ……
そう願うとスマホから通知音が鳴る。
——
条件を達成しました。
努力を確認。
適性を確認。
パッシブスキルを獲得します。
【装備強化(攻撃)Lv1】
——
「おっ!! また良いタイミングでスキルゲットしたぞ!」
真紅の木刀の輝きが増した。
「何!? おかしいわ、スキルポイントは無いはず。初音、分析して」
「わ、わかりました!」
彼を見たが文字化けのままだ。
「文字化けしたままでわからないです! それより前見てっ!」
「なっ!」
よそ見をしていた凛に目掛けて棍棒が振り下ろされた、がその攻撃は零が受け止めていた。
立っている場所から地面は割れ、足は埋まっていた。
「どうやら身体も頑丈らしい! 初音! 俺じゃなくて奴を分析してくれ! これがゲームなら弱点がある筈だ!」
人間並のサイズの棍棒をなんと人間の腕力で弾き返しホブゴブリンはよろけた。
「解析眼!」
眼の前の魔法陣は高速回転する。
しかし——
解析失敗とエラーの表記だけだ。それでもめげない。彼女も意外にもタフなのか気合いで継続すると見えた。
——
【弱点】
胸部内部 魔石反応
——
「見えたっ!! 胸です! 胸の中の魔石を砕いてください!」
「ありがとよ!」 「ナイスよ」
2人は胸部を攻撃に集中を始めた、だが相手もバカでは無い。勘づいた様で徹底的に防御に移ってしまった。
「クソっ! 攻撃力が上がっても所詮は棒なんだよっ」
「そんな事を言ったら私は拳よ」
「アナライズします!……後頭部に古傷があります! 狙ってください!」
「そんなの狙えって言ってもなぁ……」
ジャンプしては避けられるを繰り返していると風を切る音を立てて何かがホブゴブリンの頭部に何発もぶつかり、豚ヅラが歪み悲鳴をあげた。
ゴンっゴンっと魔物の後頭部に硬球が炸裂。
「誰だっ!?」
零は飛んできた先を見た、そこには北川が汗だくで立っていた。
野球部顧問の北川。
レベル53。
硬球はまるで砲弾だった。
「一回りも下の生徒が命張ってんだッ! 俺にだって少しくらい役に立てるっ……今だァァア!!! やってやれぇえ!!!」
最初の方はボソボソと言うが最後の方は声を張り上げて叫ぶ北川。3人はこの時、北川を見直した。
「北先ナイスだぜぇ!! いくぞ凛!」
「えぇ!」
後頭部に手を当てていた魔物は胴体をガラ空きにしてしまった。痛みによる反射行為は防げない。
「今だぁ!!!」
そう狙い胸を狙うももがき苦しむホブゴブリンの腕に当たり校舎の壁にめり込んだ。
「グハァッ!!……チキショー……負けてたまるかってんだ!」
——
条件を達成しました。
努力を確認。
適性を確認。
パッシブスキルを獲得します。
【身体強化Lv1】
【攻撃力up Lv1】
——
また何か通知が来たが、構っている暇はない。
崩れた校舎の壁を蹴った瞬間、地面が爆ぜた。
「えっ!?」
本人が驚くほどの速度でホブゴブリンへ迫る。
「うぉりゃあああ!」
それに続く凛。
「いやぁあぁああ!!!」
零が真紅の木刀を胸に突き刺すと、凛はそこを思い切り殴り深く刺した。何かが砕けた音がした。
ホブゴブリンは目を見開き、声にならない悲鳴を上げて静かにその場に崩れ落ちた。
ズドォォオンという音の後静寂。
誰も声が出せなかった。やがて体育館の扉は開かれ生徒が出てきた。
「……勝った?」
その一言をきっかけに歓声は上がり始めた。
「助かった!!」 「すげぇぞ!」 「本当に倒した!」
零はその場に大の字に倒れ込んだ。
「流石に疲れたぁ……」
凛も息を切らし肩で呼吸をしている。
「流石に私も無理……」
初音は涙目になりながらも笑顔になった。
「私達生きてるぅ……」
——
レベル66→69
新スキル獲得
——
初音。
——
レベル35→42
解析眼 熟練度上昇
——
そして零。
——
経験値取得
ERROR
レベル測定不能
——
「……また俺だけか」
肩を落とす零。
凛が小さく笑う。
「ある意味才能ね」
「褒められてないよな、それ」
そこへSATや警察車両と救急車が校庭へ次々と到着する。
完全防備の警察官やSATは倒れている4メートル近い化け物に驚愕。
「これ……君たちが倒したのか?」
そこに北川が寄ってきて言う。
「ええ、この3人が全校生徒……そして教員も守ってくれました」
警察官は敬意を示すかの様に3人に頭を深く下げた。そして北川は3人の方を向く。
「本来なら私たちが守るべきでした。本当にありがとうございます」
零は思う、一人称をわざわざ私にするなんて本気で感謝してんだな北先はと。
そして初音は慌てる。
「私は分析しただけの補助なので……」
「謙遜はよせ、MVPだ。着いてきてくれて本当にありがとう」
「そうよ、魔石に気づくにはあなたが不可欠だった」
2人は初音を賞賛する、それを見て北川は微笑ましく思い笑顔になった。
「星ヶ原区もそうですが、もしかしたら都や国もあなた方を表彰するでしょう。子供だけで化け物を倒すなんて……まさに偉業です」
警官の1人がそう言った。初音は目を輝かせる。
「す、すごい!」
零は苦笑した、今日で一体何度苦笑したか。
「賞状より経験値が欲しかったなぁ……」
それに対して2人は笑うのであった。張り詰めた空気はやっと和らいだ。
だが初音は零に違和感を感じ続けていた。何故彼は文字化けに伏字のステータス、見れば見るたびにエラーの文字だらけの画面。
あの人はもしかしたら……いや、そんな筈は……だとしたら一体本当は何レベルなの……?悪いけど勝手に見させて……
そう彼女はアナライズを始めた。だがやはり……
ERROR
ERROR
ERROR
【閲覧権限がありません】
……え?権限?
初音は息を呑んだ。やはりこの男には謎があると興味が更に湧いたと同時に、その瞬間初音は確信した。
梶原零は──この新しい世界のルールから外れた存在だ。
ここは23区ではなく24区の世界です。




