表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/26

三人の見習い証

実習から数日後、みっちょはギルドの掲示板の前で、見慣れない紙を見つめていた。


『見習いパーティ登録制度のご案内――正式な探索者を目指す者は、三名以上のパーティを組み、担当職員のもとで定期的な迷宮実習を行うこと』


常炎の火口での一件以来、ガレン先生の口添えもあって、ギルドは正式に三人――みっちょ、ノア、フィン――を「見習いパーティ候補」として推薦していた。あとは本人たちの意志だけが必要だった。


「――で、どうする?」


放課後、教室に残った三人は、それぞれの表情で顔を見合わせていた。ノアは尻尾をそわそわと揺らし、フィンは腕を組んで窓の外を見ている。


「おれは……組みたい、けど。おれなんかがフィンと同じパーティで、足引っ張らないかな」


「引っ張るかどうかは、組んでみなきゃわからないだろ」


フィンはぶっきらぼうに言うと、みっちょの方を見た。


「お前は? あの水溜まりの件、まぐれじゃないんだろ」


「え、えっと……まぐれじゃない、と思う、けど……」


「なら、いい。俺は別に、誰とでも組めればいいわけじゃない。使えるかどうかだ」


素っ気ない言い方だったが、みっちょにはそれが、フィンなりの誘い文句だとわかった。


◆ ◆ ◆

ギルドの受付で、三人分の見習い証に登録印を押してもらう。獣人の受付嬢は、書類を眺めながら片眉を上げた。


「エルフ、獣人、人族……珍しい組み合わせだね。まあ、種族はどうでもいいけど」


「パーティ名は、決めてあるの?」


問われて、三人は顔を見合わせた。決めていなかった。


「……『三日月亭』とか、どう? うちの店の裏にある、あのパン屋の看板の名前」


みっちょが思いつきで口にすると、ノアが目を輝かせた。


「いいじゃん、それ! みっちょの店の名前だし」


「安直すぎないか」


フィンは呆れたように言ったが、それ以上反対する様子はなかった。結局、正式な見習いパーティの名は『三日月亭』に決まった。受付嬢は苦笑しながら、書類に丁寧にその名を書き記した。


◆ ◆ ◆

「パーティを組んだ以上、次の実習からは、俺たちの判断で動くことになる」


担当職員として付いたのは、意外にもブロムだった。ドワーフの検査官は、腕を組みながら三人を見下ろした。


「これまでは先生や俺が指示を出してきたが、これからは違う。誰が前に出て、誰が後ろで支えるか――その配置一つで、生きるか死ぬかが決まる」


「配置、ですか」


「フィン、お前は前衛。剣の腕はある。ノア、お前は索敵。獣人の鼻と耳を、もっと信じろ。そして――」


ブロムの視線が、みっちょに向いた。


「お前は、後衛にして司令塔だ。武器の腕は正直まだまだだが、状況を読む目は本物だ。前の二人が突っ込む前に、お前が『待て』と言えるかどうか。それが、このパーティの生死を分ける」


その言葉の重さに、みっちょは思わず息を呑んだ。戦う力ではなく、判断する役目。それは、これまで抱いていた「探索者」のイメージとは、少し違うものだった。


「――やれるか」


ブロムの問いに、みっちょはしばらく黙り、それから、まっすぐに頷いた。


「やります」


◆ ◆ ◆

その日の帰り道、三人は連れ立って、いつもとは違う道を歩いていた。夕陽が居住区の屋根を橙色に染めている。


「司令塔、か。柄じゃないけど」


みっちょが呟くと、フィンが横目でちらりと見た。


「柄じゃなくても、やるしかないだろ。俺は前で突っ込む。ノアは気配を探る。お前が止めなきゃ、俺たちは多分、そのうち死ぬ」


「そんな脅すみたいに言わなくても……」


「事実だからな」


フィンの物言いは相変わらず素っ気なかったが、その横顔には、確かな信頼の色があった。ノアが、二人の間に割り込むように笑った。


「おれたち、これで本当に見習いパーティだな。『三日月亭』、頑張ろうぜ」


三人の影が、夕陽に長く伸びていた。まだ何者でもない、けれど確かに、何かの始まりに立っている――みっちょは、そんな予感を胸に抱きながら、家路を急いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ