三人の見習い証
実習から数日後、みっちょはギルドの掲示板の前で、見慣れない紙を見つめていた。
『見習いパーティ登録制度のご案内――正式な探索者を目指す者は、三名以上のパーティを組み、担当職員のもとで定期的な迷宮実習を行うこと』
常炎の火口での一件以来、ガレン先生の口添えもあって、ギルドは正式に三人――みっちょ、ノア、フィン――を「見習いパーティ候補」として推薦していた。あとは本人たちの意志だけが必要だった。
「――で、どうする?」
放課後、教室に残った三人は、それぞれの表情で顔を見合わせていた。ノアは尻尾をそわそわと揺らし、フィンは腕を組んで窓の外を見ている。
「おれは……組みたい、けど。おれなんかがフィンと同じパーティで、足引っ張らないかな」
「引っ張るかどうかは、組んでみなきゃわからないだろ」
フィンはぶっきらぼうに言うと、みっちょの方を見た。
「お前は? あの水溜まりの件、まぐれじゃないんだろ」
「え、えっと……まぐれじゃない、と思う、けど……」
「なら、いい。俺は別に、誰とでも組めればいいわけじゃない。使えるかどうかだ」
素っ気ない言い方だったが、みっちょにはそれが、フィンなりの誘い文句だとわかった。
◆ ◆ ◆
ギルドの受付で、三人分の見習い証に登録印を押してもらう。獣人の受付嬢は、書類を眺めながら片眉を上げた。
「エルフ、獣人、人族……珍しい組み合わせだね。まあ、種族はどうでもいいけど」
「パーティ名は、決めてあるの?」
問われて、三人は顔を見合わせた。決めていなかった。
「……『三日月亭』とか、どう? うちの店の裏にある、あのパン屋の看板の名前」
みっちょが思いつきで口にすると、ノアが目を輝かせた。
「いいじゃん、それ! みっちょの店の名前だし」
「安直すぎないか」
フィンは呆れたように言ったが、それ以上反対する様子はなかった。結局、正式な見習いパーティの名は『三日月亭』に決まった。受付嬢は苦笑しながら、書類に丁寧にその名を書き記した。
◆ ◆ ◆
「パーティを組んだ以上、次の実習からは、俺たちの判断で動くことになる」
担当職員として付いたのは、意外にもブロムだった。ドワーフの検査官は、腕を組みながら三人を見下ろした。
「これまでは先生や俺が指示を出してきたが、これからは違う。誰が前に出て、誰が後ろで支えるか――その配置一つで、生きるか死ぬかが決まる」
「配置、ですか」
「フィン、お前は前衛。剣の腕はある。ノア、お前は索敵。獣人の鼻と耳を、もっと信じろ。そして――」
ブロムの視線が、みっちょに向いた。
「お前は、後衛にして司令塔だ。武器の腕は正直まだまだだが、状況を読む目は本物だ。前の二人が突っ込む前に、お前が『待て』と言えるかどうか。それが、このパーティの生死を分ける」
その言葉の重さに、みっちょは思わず息を呑んだ。戦う力ではなく、判断する役目。それは、これまで抱いていた「探索者」のイメージとは、少し違うものだった。
「――やれるか」
ブロムの問いに、みっちょはしばらく黙り、それから、まっすぐに頷いた。
「やります」
◆ ◆ ◆
その日の帰り道、三人は連れ立って、いつもとは違う道を歩いていた。夕陽が居住区の屋根を橙色に染めている。
「司令塔、か。柄じゃないけど」
みっちょが呟くと、フィンが横目でちらりと見た。
「柄じゃなくても、やるしかないだろ。俺は前で突っ込む。ノアは気配を探る。お前が止めなきゃ、俺たちは多分、そのうち死ぬ」
「そんな脅すみたいに言わなくても……」
「事実だからな」
フィンの物言いは相変わらず素っ気なかったが、その横顔には、確かな信頼の色があった。ノアが、二人の間に割り込むように笑った。
「おれたち、これで本当に見習いパーティだな。『三日月亭』、頑張ろうぜ」
三人の影が、夕陽に長く伸びていた。まだ何者でもない、けれど確かに、何かの始まりに立っている――みっちょは、そんな予感を胸に抱きながら、家路を急いだ。




