表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/31

弓と、ナイフと

ギルド訓練場は、パン屋の裏路地から歩いて半刻ほどの場所にあった。中央区の外れ、居住区との境目に建つ石造りの建物で、見習い証を見せると、受付の獣人の女性が気だるげに顎で奥を示した。


「初級装備適性検査は右の扉。もう始まってるよ」


扉を開けると、思ったより広い訓練場が目に飛び込んできた。板張りの床、壁際に並んだ木製の的、そしてずらりと並んだ武器棚。弓、短剣、細身の剣、槍――どれも刃を落とした訓練用のものだが、それでも見ているだけで、みっちょの手のひらにじんわりと汗が滲んだ。


「お、みっちょも来たのか」


声のした方を見ると、ノアが弓を手に、ぎこちない構えをしていた。見習い実習は希望制だが、ノアも参加を決めたらしい。


「ノアも来てたんだ。よかった」


「よかった、じゃないよ。おれ、昨日の今日でびびってるのに……でも、みっちょが行くなら、おれも行くしかないだろ」


照れくさそうに言うノアに、みっちょは思わず笑ってしまった。


◆ ◆ ◆

検査官は、白髪交じりのドワーフの男だった。名をブロムと名乗り、太い腕を組みながら、居並ぶ見習いたちを見渡した。


「適性検査っつっても、難しいことはしねえ。弓、短剣、剣、槍――一通り触ってみて、自分の手に馴染むものを探せ。得意不得意は、教える側が見りゃわかる」


フィンは真っ先に剣を手に取り、危なげない構えを見せた。さすが探索者の家系というべきか、素振り一つとっても様になっている。ブロムが小さく頷くのが見えた。


みっちょの番が来た。まずは弓を渡される。的までの距離はそう遠くない。矢をつがえ、狙いを定める――が、放った矢は的の端をかすめて、あさっての方向へ飛んでいった。


「あ……」


「力むな。肩の力を抜け」


ブロムの指導通りにやり直しても、結果は大差なかった。次に短剣を渡される。素振りをしてみるが、重心の置き方がわからず、二度ほどよろけてしまった。


剣も、槍も、似たようなものだった。器用でも不器用でもない、ただ、何の武器も自分の一部になってくれない――そんな感覚だけが、じわじわとみっちょの胸を締め付けていく。


周りの見習いたちが、少しずつ何かしらの武器で様になっていく中、みっちょだけが、どれもぎこちないままだった。


◆ ◆ ◆

「向いてない、のかな……」


休憩の合間、隅で膝を抱えるみっちょに、ノアが隣に座った。


「そんなことないだろ。おれだって、弓は全然当たんないし」


「ノアは索敵の才能があるじゃない。獣人だし」


「才能なんて、おれにはよくわかんないよ。それに――みっちょは、密林でおれを見つけてくれた。あれは、剣や弓じゃできないことだろ」


その言葉に、みっちょは顔を上げた。


「戦う才能がなくたって、いいんじゃないの。みっちょには、みっちょのやり方があるんだから」


不器用な励まし方だったが、みっちょの胸には、ちゃんと届いた。


そこへ、ブロムが歩み寄ってきた。手には、これまでとは違う、小ぶりのナイフを持っている。刃渡りは短く、装飾もない、実用一辺倒の道具だった。


「一つ、試してみるか」


「これは……?」


「投擲用のナイフだ。振り回す武器じゃねえ。狙って、投げる。力よりも、目と、間合いの読みがものを言う」


言われるままに構え、狙いを定める。これまでの武器と違い、力を込めて振るう必要がない。ただ、的までの距離、風の流れ、腕の角度――窯の火加減を見るのと、どこか似ている気がした。


投げたナイフは、的の外側に刺さった。命中とは言えない。けれど、これまでの武器とは、明らかに違う手応えがあった。


「――もう一回、いいですか」


気づけば、みっちょはそう口にしていた。


◆ ◆ ◆

何度も、何度も投げた。周りの見習いたちが休憩を終えて次の課題に移っても、みっちょは一人、的の前に立ち続けた。汗が滲み、腕が重くなっても、不思議と嫌にはならなかった。


ブロムは、そんなみっちょをしばらく黙って眺めていたが、やがてぼそりと呟いた。


「筋はよくねえ。だが――しつこいな、お前」


「褒めてます……?」


「褒めてる。この仕事は、才能より先に、しつこさが物を言う。何百回でも同じ動きを繰り返せる奴が、最後には伸びる」


陽が傾き始めた頃、みっちょの手には、いくつもの小さな豆ができていた。それでも、最後の一投は、初めて的の中心近くに刺さった。


「――やった」


小さな声だったが、確かな達成感があった。派手な才能でも、生まれ持った力でもない。ただ、繰り返した回数だけが、そこにあった。


投擲ナイフ。それが、みっちょが選んだ、最初の武器になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ