できることを探して
「――封印牢には、絶対について来させない」
翌朝、みっちょが真っ先に切り出した「一緒に行きたい」という願いは、母リエラに、はっきりと拒まれた。
「あそこはSランク相当の場所よ。今のあなたが足を踏み入れたら、助けるどころか、足手まといになる。それだけじゃない、命の保証もない」
「わかってる……わかってるけど」
「わかってるなら、聞き分けて。あなたにまで何かあったら、わたしは――」
リエラの声が、そこで一瞬、詰まった。みっちょは、それ以上、無理を言えなかった。母の言葉には、拒絶ではなく、切実な恐れが滲んでいた。
◆ ◆ ◆
「行けないのは、わかってる。でも、何もしないでいるのも、耐えられない」
放課後、いつもの物置で、みっちょはノアとフィンに、正直な胸の内を打ち明けた。二人には、事の全容までは話せなかったが、「母が、危険な任務に関わることになった」ということだけは伝えていた。
「何もしないでいるのが辛いなら、何かできることを探せばいいだろ」
フィンが、いつになく優しい声で言った。
「探すって言っても……」
「ギルドに聞いてみようぜ。封印術とかの依頼なら、材料とか、道具とか、絶対人手が必要になるはずだろ」
ノアの提案に、みっちょははっとした。確かに、封印術には特殊な素材が必要だと、以前、資源の授業で習った覚えがあった。
◆ ◆ ◆
三人でギルドを訪ねると、ブロムが、渋い顔をしながらも、事情をある程度察している様子だった。
「――お前の母さんの件、知ってるんだな」
「はい。何か、わたしたちにできることはありませんか」
ブロムは、しばらく黙り込んでから、机の上に一枚の依頼書を置いた。
「実を言うとな、術式の補強には『封印札』が必要なんだが、その材料になる『魂の欠片』の在庫が、ギルドに十分にない。魔法・秘術系の素材だ、市場にもほとんど出回らない」
「その素材、どこで手に入るんですか」
「二十二番か、二十五番の周辺でしか採れない。だが、お前らをそんな場所には行かせられない」
ブロムは、少し考えるように顎を撫でた。
「――ただ、八番『虚空の図書館』の深部にも、似た性質の素材が、稀に見つかるという記録がある。フィオナの調査とも繋がる場所だ」
◆ ◆ ◆
「それなら、わたしたちにも手伝えます」
みっちょが即座に言うと、フィンとノアも、迷いなく頷いた。
「危険がないとは言わないが……お前らの実力なら、正式な依頼として組めなくもない。フィオナにも話を通しておく」
ブロムの言葉に、みっちょは、胸の奥に小さな光が灯るのを感じた。直接、封印牢に立つことはできない。それでも、母が向かう場所を、少しでも支える形で関われるということが、これほど心を軽くしてくれるとは、思っていなかった。
「ありがとうございます」
「礼はいい。それより――お前の母さんは、俺たちが思っている以上に、覚悟を決めてる。お前らも、半端な気持ちでこの依頼を受けるなよ」
ブロムの言葉に、三人は、それぞれの表情で、力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
その夜、みっちょは、母に今日のことを報告した。
「――虚空の図書館で、魂の欠片を?」
「うん。危ない場所には行けないけど、これなら、わたしたちにも手伝える」
リエラは、しばらく黙って娘を見つめていた。心配と、それを上回る何かが、その表情には混じっていた。
「――ありがとう。正直、少し怖いけど」
「怖くて当然だよ。わたしも怖い。でも、母様が何もしないでって言うなら、それは違うと思う。だって、これはわたしの家族の話でもあるから」
その言葉に、リエラは、目元を緩め、静かに娘を抱き寄せた。
「――大きくなったのね、本当に」
窯の火が、いつもより温かく、二人を照らしていた。直接、封印牢に立つことはできなくても、確かに、自分にできることがある――みっちょは、その事実を、確かな支えとして、胸に刻んだ。




