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機械仕掛けの廃都

D帯への昇格から、ひと月が経った。三日月亭が受ける依頼は、少しずつ内容の幅が広がってきていた。今日、ギルドの掲示板で見つけたのは、これまでとは毛色の違う依頼だった。


「七番迷宮『機械仕掛けの廃都』――古代言語の解読補助のため、見習い調査員を募集、か」


フィンが依頼書を読み上げると、ノアが首を傾げた。


「討伐じゃなくて、調査の依頼なんだな。珍しい」


「古代系の迷宮は初めてだね」


みっちょも興味深そうに依頼書を覗き込んだ。教科書で読んだ限り、七番迷宮は「パズル解読・古代言語知識」が問われる、これまでとはまったく違う種類の挑戦になるはずだった。


◆ ◆ ◆

依頼主は、ギルドに所属する古代研究部門の学者だった。名を、フィオナと名乗る、痩身の人族の女性。


「最近、廃都の深部で、これまで確認されていなかった扉が見つかりましてね。刻まれた文字の解読補助と、実際に扉の先まで案内してくれる人手が欲しいんです」


「新しい扉、ですか」


「ええ。廃都は長らく、既知の区画しか調査が進んでいませんでしたから。今回の発見は、ちょっとした話題になっているんですよ」


フィオナの口ぶりには、学者らしい高揚が滲んでいた。ブロムが横から補足する。


「危険度自体はC帯相当だが、今回は戦闘より調査が主目的だ。お前らには、いい経験になるだろう」


◆ ◆ ◆

『機械仕掛けの廃都』は、これまで潜ったどの迷宮とも違う、無機質な静けさに満ちていた。錆びついた歯車が、あちこちでゆっくりと回転している。誰も住んでいないはずなのに、まるで今も稼働し続けているかのような不気味さがあった。


「うわ……なんか、ずっと動いてる音がする」


ノアが耳を伏せながら言った。金属同士が擦れる、低い唸りのような音が、絶えず廃都全体に響いている。


「歯車の連動で、扉や足場が開閉する仕組みらしい。うかつに触ると、思わぬ場所に閉じ込められることもあるそうだ」


フィオナの説明に、三人は慎重に足を進めた。壁一面に刻まれた古代文字は、みっちょにはまったく読めなかったが、フィオナは時折立ち止まり、興味深そうにそれを書き写していく。


◆ ◆ ◆

新しく見つかったという扉は、廃都の最深部、これまでの調査記録にない一角にあった。分厚い金属の扉には、複雑な歯車の意匠と、古代文字が刻まれている。


「――解読には、まだ時間がかかりそうです。でも、この意匠……見たことのない組み合わせですね」


フィオナが眉根を寄せながら呟いた。みっちょは、扉の意匠をじっと見つめた。歯車が幾重にも重なり合う模様の中心に、小さな、見覚えのある紋様が刻まれている。


「……この印、ギルドの紋章に似てませんか?」


みっちょの指摘に、フィオナが目を見開いた。


「――言われてみれば。いえ、正確には、ギルドの紋章の、もっと古い原型に近いような」


「古代のギルドと、今のギルドが、繋がってるってことですか?」


フィンの問いに、フィオナはしばらく考え込んでから、慎重に答えた。


「まだ断定はできません。ですが……この都市の成り立ちには、私たちが思っている以上に、古い歴史が隠されているのかもしれませんね」


◆ ◆ ◆

その日の調査は、扉を開けるまでには至らず、記録と観察だけで終わった。それでも、廃都を出る頃には、三人ともどこか興奮した面持ちだった。


「なんか、思ったよりロマンのある依頼だったな」


ノアが言うと、フィンも珍しく同意するように頷いた。


「討伐依頼とは違う緊張感があった。悪くない」


「フィオナさん、また調査を続けるって言ってたし、次も呼んでもらえるといいね」


みっちょがそう言うと、フィオナが背後から声をかけてきた。


「ええ、ぜひまた協力をお願いします。特に――さっきの紋章の指摘、助かりました。あなた、観察眼がいいですね」


「あ、ありがとうございます」


照れくさそうに頭を下げるみっちょを見て、フィンが小さく笑った。


「相変わらず、変なところで目端が利くよな、お前」


「変なところで、は余計だよ」


三人の軽口を交わしながら、ギルドへの帰路につく。D帯になって、依頼の幅も、見える世界の広さも、少しずつ変わり始めていた。それは、これまでの積み重ねが、確かに次の段階へと続いていることを、静かに示していた。



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