試験前の作戦会議
D帯昇格試験まで、あと一週間。三日月亭の三人は、放課後、パン屋の裏の物置を「作戦会議室」と称して占拠していた。
「――で、試験の内容って、結局何をやるんだ?」
フィンが、床に広げた紙を睨みながら言った。ギルドから渡された案内には、あまり詳しいことが書かれていない。
「ブロムさんに聞いたら、『実技と、状況判断の二本立て』としか教えてくれなかった」
みっちょが答えると、ノアが不安そうに耳を伏せた。
「状況判断って、具体的に何すればいいんだよ……」
「多分、これまでの依頼と同じような感じだと思う。ただ、試験官がついて、判断の過程を見られるんじゃないかな」
◆ ◆ ◆
「じゃあ、まずは体力面の確認からいくか」
フィンの提案で、三人は近くの空き地に移動し、実技の練習を始めた。フィンの剣技はますます鋭さを増し、ノアの索敵も、以前より確実に周囲の変化を捉えられるようになっていた。
「みっちょ、ナイフ、見せてくれ」
促されるまま、みっちょは的に向かってナイフを構えた。呼吸を整え、狙いを定める。放たれた刃は、迷いなく的の中心近くに突き刺さった。
「――お、大分安定してきたな」
「毎日、寝る前に十回投げるようにしてるから」
「地味だな」
「地味だけど、効くよ」
みっちょが胸を張ると、フィンは苦笑した。それから、真面目な顔になって言う。
「実技は、多分大丈夫だ。問題は、状況判断の方だと思う」
◆ ◆ ◆
物置に戻り、三人はこれまでの依頼を、一つずつ振り返ることにした。密林での誘導、火口での属性弱点、流砂での重み分布、尖塔での体力管理――紙に書き出していくと、意外なほどの経験が積み重なっていることに気づく。
「こうして見ると、俺たち、結構いろんな迷宮潜ってきたんだな」
「うん。最初は何もできなかったのに」
みっちょが、これまでの依頼書を並べながらしみじみと言うと、ノアが照れくさそうに笑った。
「あの密林の時、おれ、本当にみっちょに助けられてばっかりだったな」
「助けられてばっかりじゃないよ。流砂の時、最初に魔物の気配に気づいたのはノアだったし」
「まあ、確かに」
フィンが横から口を挟んだ。
「三人揃って、ようやく一人前ってところだな。誰か一人でも欠けたら、多分、今日までこれなかった」
その言葉に、みっちょとノアは顔を見合わせ、どちらからともなく笑った。
◆ ◆ ◆
作戦会議の終わり、みっちょは焼きたてのパンを三人分、物置に運んできた。
「差し入れ。母様が、勉強のお供にって」
「おっ、これ、この間の発光胞子パンか」
「うん。試験前だから、精がつくようにって」
三人でパンを頬張りながら、窓の外の夕焼けを眺める。物置の隙間から差し込む橙色の光が、散らばった依頼書や訓練用の的を、柔らかく照らしていた。
「なあ」
フィンが、ぽつりと呟いた。
「昇格試験、受かったらさ。もう少し難しい依頼、狙えるようになるんだよな」
「うん、そうだと思う」
「なら、受かった後の話も、少しは考えといた方がいいかもな」
「気が早いよ、フィン」
みっちょが笑うと、フィンも珍しく口元を緩めた。
「気が早いくらいで、ちょうどいいだろ。俺たちは、まだまだこれからなんだから」
物置の外では、夏の終わりを告げる涼しい風が、静かに吹き始めていた。三人の前には、次の一歩――D帯昇格試験という、確かな目標が、はっきりとした輪郭を持って立っていた。




