第9話:一ヶ月後
二度目の高校二年生が始まって一ヶ月ぐらいが経過した。隣の幼馴染とは毎日一緒に通学している。前回のときにはほとんど話すこともできなかったのに、タイムリープしたおかげでこうやってやり直すことができた。神が帰還先の時間を間違ったおかげなのだが、あんな地獄のような日々を味わうことになったことを考えると、良かったのかどうか微妙だ。それでも一応、神には感謝しておこう。
「おまたせ、夏樹」
「おはよう、井上さん」
「そういえば夏樹は、運動部には入らないの?せっかく春休みに特訓したんでしょ?」
「まぁそうだけど、料理も面白いからね」
「そうなの?いつか食べてみたいなぁ。」
「機会があったら、何か作ってみるよ」
「ありがとう。楽しみ!」
井上さんがすごく嬉しそうにしている。なにを作るか考えないとな。なんとなく立場が逆のような気もするけど。
「ところで、あと数週間で中間テストだけど勉強進んでる?」
「それは聞かないでほしいな。あー勉強がない世界に行きたい」
「そんな世界ないと思うよ」
「えー。小説投稿サイトによくある異世界なら勉強しなくてもいいんじゃない?」
そう思うよね。でも俺の場合は違ったんだよ。異世界での2年間の特訓の期間、勉強も同じぐらいに大変だった。交渉力があるからといって王国と魔族国の双方のことをなにもしらずに交渉なんてできるわけがない。王国と魔族国の両方の政治、社会、文化、ありとあらゆることを頭に叩き込む必要があったのだ。
「美桜、おはよう」
「藍花、おはよう」
「それじゃ、先に行くね」
そして井上さんが友達と合流したらあいかわらず先に行くようにしていた。最後まで一緒に登校してしまうと、いろいろと憶測を呼ぶかもしれないしね。
「Good morning、森岡さん」
「もー。日本語でいいよ。おはよう、最上君」
「せっかくの英会話部なんだし、これから英語で話すようにしない?」
「そしたら、もう話をしません」
「ごめん、冗談。I'm very sorry」
「もー」
前回ではあまり自分からは話しかけていなかったが、二回目は隣の森岡さんにも朝の挨拶を欠かさないようにしていた。
「最上おはよう」
「おはよう村瀬。テニスの方はどうだ?」
前の席の村瀬も登校してきたので挨拶する。
「今はストローク主体の練習だな。なかなかラリーが続かなくて苦労しているよ」
「そっか、まぁ全力で打ってラリーを続けるというのは難しいんだろうな」
「軽くじゃ練習にならないからな」
俺は大学時代はテニスサークルに入っていたので、一応テニスはやったことはある。なのでラリーを続けるのが大変というのは理解できた。といっても大学のテニスサークルなんて飲み会が主体でテニスはおまけみたいなものだったけど。
クラスを見渡してみると、すでにいくつかのグループができているようだった。前回と同じで、目立つのは5人組のグループだ。男子はサッカー部の池上、バスケット部の袴田、野球部の近藤の3人で、池上は背は普通ぐらいだが、クラスの中でも一番のイケメン。袴田もイケメンだが、さらに背が高いということで女子にもかなり人気がある。近藤はイケメンという感じではないが、野球にかなり打ち込んでいる真面目なスポーツ系男子で、こちらも人気があったと思う。女子は水野さんと池谷さんの2人で、どちらもかなりかわいく、特に水野さんは少し派手めな感じで明るくて誰とでも話ができるような、まさに陽キャの女の子だ。
そしてそれとは別に目立っているのが宮沢さんだ。名前は宮沢志保。学年の中でもトップクラスのかわいさで背も高く、かつバレー部所属で運動も得意、勉強の方も学年で一桁台の成績と、才色兼備は彼女のためにある言葉と言いたくなるぐらいだ。しかも委員長的なキリッとした雰囲気も持っている。もし校内で「彼女にしたい女の子の投票」があったら、おそらくNo.1になるに違いない。まぁあまりにも優秀すぎて、俺も含めて自分じゃ釣り合わないと思ってしまう男がほとんどかもしれないが。
まぁどちらもモブの俺が関与することはないだろう。確か前回もほとんど話をすることはなかったはず。袴田と水野さんは二学期では席が近くなるはずだが、それでも話をした覚えはないし。
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放課後は調理室で料理部の活動だ。といっても俺の場合には毎日夕食を作っているだけなのだが。そして、一年生の佐伯さんもかなりの頻度で料理部の活動に参加していた。
「最上先輩、今日は何を作るんですか?」
「定番のハンバーグでも作ろうかと思っているよ」
「いいですね。一緒に作りましょう」
なぜか佐伯さんは俺と一緒に料理することがほとんどだった。
「それで、先輩聞いてくださいよ。今日クラスでひどいことがあったんですよ」
そして料理をしながら佐伯さんは今日あったことなど、いろいろと話かけてきた。これだけ話をしていて、ちゃんと料理ができているというのが凄いなと感心してしまうぐらいだ。俺は佐伯さんの話をすべてちゃんと聞くようにしているので、俺と一緒に料理をするようになったのかもしれないな。
「最上君、ちょっといいかな?」
「はい、ちょうど具を練り終わったところなので大丈夫ですよ」
すると三年生の佐藤先輩から呼び出しがかかった。とりあえず調理室から出て別の教室に入って話を聞くことにする。
「どうしましたか佐藤先輩」
「佐伯のことなんだが、すっかり最上君に相手をしてもらっていて申し訳ない」
「いえいえ、相手をしているだなんて。僕が一緒に料理をしてもらっているだけですよ」
「本来なら三年生が相手をすべきところなんだが」
「部として活動しているんだから、三年生がとかそういうのはないですよ」
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
「佐藤先輩は、責任感が強すぎですよ。料理部は料理を楽しむところですから」
「そうだな。ありがとう」
話というのは佐伯さんのことだったらしい。前回は三年生が義務感から対応しようとしてギクシャクしてしまったからな。今回は俺がサポートしているから、佐伯さんも料理部にはうまく打ち解けることができていた。
「最上先輩、話ってなんだったんですか?」
調理室に戻ったところで佐伯さんから何の話をしたのかを聞かれた。佐伯さんのことだったとは言えないので、誤魔化しておこう。
「佐伯さんと一緒に料理して、鼻の下を伸ばすのは止めるように言われたよ」
「えっ本当ですか?」
「冗談。佐藤先輩がそんなこと言うわけ無いでしょ。それよりもハンバーグを焼こうよ。裏返すのよろしくね」
「そっちの話ではないんだけどな。でも裏返しはまかせてください、先輩」
こうして今日も佐伯さんと料理を楽しむのであった。
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