第10話:ナンパされている女の子
異世界から帰還してから、週末はいろいろな料理店の食べ歩きをしていた。異世界あるあるで、料理についてはどれも美味しくなかったのだ。特にこっちの世界で料理部でそれなりに料理をしていた俺にとっては異世界の料理事情は非常にきつかった。異世界に行ったことで、この世界の数多くの料理店のありがたみがわかったのだ。戻ってきてから、食べ歩きが趣味になるのも当然といえよう。それとは別に、食べ歩きをしてみると店によっていろいろな工夫がされていることに気づくようになった。それもなかなか面白かったというのもある。
ある週末の日曜日、俺は食べ歩きはやめて料理に使うフライパンを買い替えるためにショッピングモールにでかけた。テフロン加工のフライパンは焦げ付かなくて便利なんだが、頻繁につかっているとすぐに効果が薄くなってしまう。このため数年で買い替える必要があるのだ。なんとも勿体ない話である。
どのメーカーのフライパンにするか考えながらショッピングモールを歩いていると、一人の女の子が三人の男からナンパされているのが見えた。ナンパされているのは同じクラスの宮沢さんだ。なるほど私服の宮沢さんもすごく可愛いな。あれだけかわいいとナンパされることも多いのだろうと思う。ただナンパしている方もなかなかしつこく話かけているようで、あまり雰囲気がよくない。前回のときも同じような場面があったのだが、そのときには三人相手では...と躊躇しているうちにナンパしている方が過激になり、結局は警備の人に取り押さえられていたが、宮沢さんも相当に怖い思いをして、その後しばらくは元気がなかった覚えがある。
「すいません、女の子はすっかり怖がっているみたいですよ」
「なんだお前、邪魔するなよ」
「もうナンパは失敗しているんだから、さっさと諦めたらどうですか?」
「ふざけんなてめえ」
交渉したつもりだったが全く効果がなかったみたいで、いきなり殴りかかってきた。異世界では交渉人の職業のおかげでこのぐらいの対処はお手の物だったのに。
といっても異世界で対魔族戦闘の特訓を受けてきた俺だ、この程度のパンチなんて軽いものだ。
「なに!グワッ」
拳を手で受け止め、そのまま腕を後ろ側に回しながら相手を引き倒し、腕をひねってホールドする。
「なにすんだ、このやろう」
他の二人も殴りかかってくるが、この程度なら複数人でも全く問題ない。すばやく二人の背後に回り込み、一人は腕で、もう一人は手で喉元を締め上げた。
「このぐらいで引いてくれないかな。警備員がきたら面倒なことになるよ」
「わかった。わかったから、離してくれ」
三人は俺を睨もうとしたが、目があうと怯えた表情をした後、そのまま去っていった。
「大丈夫ですか?」
「すいません助けていただいてありがとうございます。それで、そのお名前を教えてもらえますか?」
「やっぱり覚えていないか、同じクラスの最上だよ」
「えっ?ごめんなさい。全然気が付かなくて」
「まぁ席も遠いしね。大丈夫?家まで送ろうか?」
「まだ買い物を済ませていなくて...」
「じゃぁ買い物が終わったら送っていくよ」
「でも、そこまで甘えるわけには」
「何を気にしているのさ。同じクラスの仲間でしょ。そしたら宮沢さんも俺の買い物に付き合ってよ」
「わかりました。まだちょっと怖いので、よろしくお願いします」
「まぁ、まずはちょっと飲み物でも飲んでからにしようか?まだ落ち着かないでしょ」
「はい、すいません」
とりあえずフードコートに行ってコーヒーを二杯注文した。異世界での交渉でも、自分を含め相手を落ち着かせることは重要だった。感情が高ぶった状態で交渉なんてできやしないのだ。
「はい、コーヒー。奢るからお金はいいよ」
「そこまでしてもらうわけには」
「これから俺の買い物に付き合ってもらうわけだし、その駄賃ね」
「それを言ったら私の方も」
「宮沢さんみたいに可愛い女の子と買い物できるんだから、それだけで十分だよ」
「あの~可愛くは...」
「とりあえずゆっくり飲んで落ち着こうか」
「はい」
なんか俺がナンパしているみたいになっている気もするが、でもちょっと怖い思いもしているだろうし、少し落ち着く間は必要だろう。しばらくして宮沢さんも落ち着いてきたみたいで、会話をする余裕も生まれてきたみたいだ。
「さっきは助けてくれてありがとうございます。お陰様で落ち着いてきました」
「それは良かった。その前に敬語禁止ね」
「そういうわけには」
「初対面じゃないでしょ。クラスメイトなんだから」
「そうですね、いやそうね。わかったわ」
「そうそう、それじゃまずは俺の買い物から行こうか」
フードコートから出てキッチン用品店に向かうことにする。
「それで最上君の買い物って何なの?」
「フライパン」
「はい?」
「だから料理に使うフライパン」
「フライパンを振り回して筋トレとかに使うの?」
「ひょっとして宮沢さんってボケ担当?」
「えっ?違うわよ。そんなこと言われたの初めてだよ」
「フライパンって料理に使うに決まってるでしょ。なにしろ俺は料理部だし」
「そうなの?なんか運動すごくできそうだけど」
「料理も奥が深くて面白いんだよ。いつか何か作ってあげるよ」
「それは楽しみね」
その後、お互いの買い物をした後に、宮沢さんを家まで送った。
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