第52話:向き合う
伊原さんに言われて、はっきりとさせる決心がついた。自分が好きなのは誰なのだろうか?妹のように可愛くて、いろいろと話をしてくれる後輩、可愛いだけじゃなくバレーも格好良かった宮沢さん、どちらも本来なら俺が告白してOKをもらえるような相手ではない。でも、頭に浮かぶのは幼馴染のことだった。異世界から戻れないかも?と思ったときに思い浮かべた女の子。体育館で応援したときに芽生えた好きという感情を再び思い出す。
ただ「ちゃんと気持ちに向き合う」というのがどうすればいいのかがわからなかった。自分なりにできることをやるしかないと考えて、まずは美桜に勉強会で話をすることにした。
「ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「どうしたの夏樹。珍しいわね。勉強会では勉強のことしか言わないのに」
「もうはっきりさせようと思って」
俺の真剣な表情を見たからなのか、何も言わずに次の言葉を待ってくれている。
「気持ちに向き合って、結論を出したいと思うんだ。だから美桜には最後まで待っていてほしい」
「うん」
「ちゃんと向き合うためにも、しばらくはこの勉強会は中止にさせてほしい」
「また再開するんだよね?」
「すべての結論をだしたら、今と同じように勉強会をして、一緒に登校しよう」
「うん、待ってる」
□▲□
クラスの放課後の勉強会で宮沢さんに一つの提案をすることにした。
「宮沢さん、期末テストで学年1位を目指してみないか?」
「えっ、私が?夏樹君じゃなくて?」
「俺はもうこれ以上は難しいと思う。でも宮沢さんなら、俺がサポートすればさらに順位を上げられると思うんだ」
俺は二回目というアドバンテージがあってやっと一桁台だが、宮沢さんは一回目でしかもバレー部の活動をしながら一桁台なのだ。伸びしろは宮沢さんの方が確実にある。それに俺は塾講師のバイト経験もある。俺がサポートすれば、一位になる可能性はかなり高いと思えた。
「わかった。頑張ってみるよ」
料理部は二学期は休部とさせてもらった。それからは、毎日のクラスでの放課後の勉強会ではその日の授業の復習を行い、週末はもちろん平日も部活が終わるのを待って一緒に帰った上で家にお邪魔して1時間ほどの勉強会をするなど徹底して期末テストへ向けての勉強を行った。
(いつも一緒に勉強しているね)
(付き合ったということなのかな?)
クラスではいろいろな噂が飛び交ったが、真剣に勉強に取り組んでいる姿をみたからなのか、しばらくして噂もなくなった。
□▲□
「夏樹君、これまで勉強会ありがとう。期末テストの順位は1位だったよ」
「おめでとう。もうこれで宮沢さんに教えることもなくなったかな」
「これからもサポートしてくれるよね?」
宮沢さんが訴えるような表情で聞いてきた。学年でもトップクラスの人気のある宮沢さんに、こんな表情でお願いされて断わるなんてことができるだろうか?
異世界での交渉はとてつもない困難なものだったが、相手はあくまでも敵でしかなかった。でも今は好意を寄せてきてくれている女の子のお願いを断らなければならない。
「俺が手伝えれるのはここまで。これからは宮沢さん自身でさらに先を目指していけるよ」
宮沢さんの表情はすごく悲しそうなものになった。
「夏樹君が選んだのは私じゃなかったんだね」
できれば一言だけでも「ごめんなさい」と謝れれば、きっと自分は楽になるように思えたが、それは言ってはならないと思った。
「うん」
これ以上のことは何も言えなかった。体育館で応援したときには「格好良かった」と言うことが出来たのに、もう今はそんな応援もできない。
宮沢さんはしばらく悲しそうにしていたが、しばらくして普段のキリッとした表情に戻った。
「でも、これからもクラスメイトとして仲良くしてくれるんだよね?」
「それはもちろん」
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