第32話:相談
海の家のバイトで一緒だった伊原さんから連絡があり、また相談に乗ってほしいということで会うことになった。せっかくなので伊原さんにファッションについて教えてもらって、俺からは美味しいお店を紹介するということになった。
佐伯さんと待ち合わせしたときには10分前に行ったのに、すでにナンパされていたので、30分ほど前に行って待つことにした。さすがにそこまで早くは来ていなかったようだ。待ち合わせ5分ぐらい前に伊原さんがやってきた。
「おはよう、伊原さん」
「おはよう、最上」
伊原さんは紺のキャミソールに白のレースのカーディガン、チェックのスカートという服装だった。レースのデザインが細かくて凄く手の入った服のように見える。
「レースがきれいで、なんか凄い凝った服だね。すごく似合っているけど」
「ありがとう。これは自分で作った服なんだ」
「それは凄いね。服を自分で作れるというのが信じられないけど」
「それじゃ、店を周りながらどうやって作っているのか説明するよ」
伊原さんは街にある手芸材料の専門店を案内してくれた。布や糸から始まって、ボタン、刺繍などいったいどれだけあるんだ?というぐらいにいろいろな物が置いてある。
「こんなにたくさんの中から、一番合うものを選ぶのも大変そうだなぁ」
「そうだね、目移りしちゃってなかなか時間がかかるんだよ」
それぞれの材料をどのように使うのかなどを教えてくれた。通販でも買えるみたいだけど、実際に質感とかは見てみないとわからないだろうし、一着の服を作るのにもいろいろな材料が必要みたいで買うのも大変そうだ。一通り見て回ったところで、ランチタイムは俺のオススメの店に行くことにした。
「ランチはベーカリーでいいかな?」
「いいよ」
「デニッシュが美味しい店があるんだ。隣のコーヒーショップで食べられるんだよ」
少し歩いたところにあるできたてのベーカリーを売っている店に行く。ここは隣にコーヒーショップがあって、買ったベーカリーを持ち込み可能なのがポイントだ。
「へー。いろいろなデニッシュがあるんだね」
「焼き立てでサクサクなのがいいんだよ」
いくつかのデニッシュとチーズパンを買って、隣のコーヒーショップに行くことにする。
「ほんとにパイ生地がサクサクしているね」
「焼き立てのパンってやっぱり違うよね。これが家に持って帰ってから食べるとサクサク感が減ってしまうんだよね」
ランチでベーカリーを食べたあとは、残っているコーヒーを持って近くの公園に移動した。空いているテーブルに座ってコーヒーを飲みながらいろいろと雑談をする。あの南高のテニス部といっていたバイトは、実際にはテニス部ではなかったとか。
「海の家のバイトのときに、ファッションデザイナーになりたいって話をしたと思うんだけど、なかなか決心がつかなくて。やっぱり不安なんだよね。なんか不安を払拭できる方法とかあるのかなぁ?」
異世界での魔族国との交渉では不安しかなかったことを思い出す。神に最強の交渉力のある交渉人の職業を与えてもらって、王国と魔族国のこともすべて頭に入れた。でもうまくいくかは全くわからない。もしこの交渉がうまくいかなかったら?と思うと不安に押しつぶされそうだった。なんとか不安を払拭できないかと、精神統一みたいなこともやってみたし、交渉がうまく行くように何度もパターンを検討したりもした。でもやっぱりうまく行くかなんてわからないから不安を拭い去ることはできなかった。
「たぶん、どれだけ勉強して、腕を磨いたとしても、不安がなくなる日はこないんじゃないかな」
「でも腕に自信があれば不安もなくなりそうだけど」
「もちろん精一杯の努力はしたという自信はあると思うけど、それでもうまくいくかどうかはやってみないとわからないしね」
「そっかぁ」
「不安はあるものだと思って、その上で信じて進めるかどうかじゃないかな」
「ありがとう。なんとなく言っていることはわかった気がする。というか、最上ってすでにそういう経験をしたことがあるような話し方だよね」
「えっ?まさか。まだ高校二年生でしかない俺が言っているだけだから、参考程度でお願いね」
「うん、また何かあったら相談に乗ってね。そういえば最上って県立西高だよね。クラスは何組なんだ?」
「クラス?あぁ2-2組だよ」
「2-2組ね。覚えた」
うん?クラスがどこかが何か関係するのかな?その後もいろいろと伊原さんと話しをしてこの日は終わりとなった。
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