第26話:海の家2
翌日は再び快晴になった。忙しくランチタイムのオーダーに対応していたところで、4人組の男が店内に入ってきた。この男4人組は前回ではバイトの女の子のお尻に触ったりとセクハラをしまくった客だった。そのときには何もできなかった俺だが、今回は同じことをさせるわけにはいかない。4人組の男が席に座ったタイミングで伊原さんを呼ぶ。
「伊原さん、しばらく俺がオーダーを取るから、二人とも少し裏で休んでいてくれない?」
「えっ?最上はキッチンだろ?大丈夫なのか?」
「ちょっと手が空いたから、少しの間だけ配膳係やるから休んでいて」
強引に伊原さんともう一人の女の子のバイトを裏に回して、俺は4人組にオーダーを取りに行った。
「いらっしゃいませ。注文はいかがしますか?」
「この店には可愛い子がいるって聞いたんだけど」
「ちょうど休憩の時間になったので、私の方で対応します」
「ちょっと女の子を呼んでよ」
「ここはそういう店ではないので」
「なんだと」
俺がすっと天井を指さすと、そこには監視カメラが付いていた。もちろん、事前にオーナーにお願いしてあったものだ。こうなるとわかっているのだから対策をしてあるに決まっている。
「けっ、俺はカレーライスだ」
4人の注文を受けた後に、他の客の注文を受けて一気に料理をして出していく。精算もやらなければならないのでかなり慌ただしかったが、4人組はほどなく店から出ていった。
「伊原さん、そろそろ配膳係に戻ってもらえるかな?」
「ありがとう最上。でもよかったのか?」
「あぁ、ちょっと配膳係もやってみたかったからさ」
この後は特に問題となるような客はいなく、海の家の営業も無事に終了した。
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その後も前回の記憶から問題を起こしたような客が来たときには俺が配膳係をやるようにしたため、女の子のバイトが客に絡まれるということはほとんどなく日々が過ぎていった。バイト期間もあと少しとなった、ある朝、いつもどおり朝のトレーニングを終えて宿に戻る途中で、再び伊原さんを見かけたので声をかけることにする。
「伊原さん、おはよう」
「最上、おはよう。今日もトレーニングか?よくやるね」
「あぁ、続けないと意味ないからね」
「そうなんだ。最上はなんでバイトしているんだ?このバイト、お金はかなりもらえるけど、凄く大変じゃないか?」
「確かに。えーとね。俺は料理が好きなんだけど、いろいろな店に行って、いろいろな料理を食べたいんだよね。それにはお金がかかるからさ」
「そうなのか?親に言って連れていってもらえばいいんじゃないのか?」
「言えば連れて行ってくれるかもしれないけど、それはそれで自分の行きたい所にすべて行けるわけじゃないからさ」
「ふ~ん。なんか変わった趣味だね」
「美味しい料理を食べるって、凄く楽しいことだからね」
「なるほどね」
といっても前回の俺は料理部には入っていたが、もちろんこんなことはやっていなかった。あの異世界の料理事情を経験すればこそだ。あれも別の意味で地獄だったし。
「伊原さんはなんでバイトを?」
「ファッションデザイナーのコンペに参加したいんだよ。そのためには服を買って勉強したいし、素材もいろいろ買いたいんだ」
「なるほど、それはお金がかかりそうだな」
「なかなか決心がつかないんだよな。ファッションデザイナーになれるのか?やっていけるのか?とか。どうなんだろう?やっていけるのかなぁ」
異世界で魔族国の交渉がうまくいくかどうかなんて確証は全くなかった。確かに神からは交渉人という職業はもらったが、それで成功が約束されるわけではない。でも成功させなければ、この世界には帰ってこれなかった。信じて前に進むしかなかったのだ。
「たぶんやっていけるかどうかは誰にもわからないんじゃないかな。ただ信じてその道に進んだ人だけが、なれる可能性を残しているというだけで」
「そっか、そうだよな。ありがとうな、話を聞いてくれて」
「バイトもあと少しだからがんばろう」
「おう」
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