第21話:映画2
井上さんと映画に行く約束をしている週末になった。約束の時間よりも少し前に隣の家に行くことにする。
「おはようございます、井上さん」
「あら夏樹君、今日は美桜を映画に誘ってくれてありがとうね。美桜はまだ支度中だから、ちょっと待ってあげてね」
井上さんの母親が応対してくれた。
「そういえば、美桜の勉強みてくれてありがとうね。期末テストの成績がすごい上がっていてびっくりしたわ」
「いえいえ。井上さんががんばった成果がでただけですよ」
「ここまでしてもらってお礼なしというわけにはいかないし、家庭教師代として少しばかりのバイト代を払うというのはどうかしら?」
「幼馴染として協力しているだけだけなので、お金は無しでお願いします」
「そうはいってもねぇ。そうだ、美桜を夏樹君にあげるっていうのはどう?」
「はい?」
前回の泊まっていく発言も凄かったけど、いきなりとんでもない言葉が母親からでてきて面食らってしまった俺は間抜けな声を出すことしかできなかった。なんて返答すればいいんだろうか?了承も拒否もできないじゃないか。
「ちょっとお母さん、なんてことを言っているのよ」
返答に困っていると、準備ができた井上さんが玄関に出てきてくれた。
「夏樹、行くよ」
「あぁ」
にっこりと微笑む母親に会釈をしておく。井上さんは玄関を出たところで振り返った。
「お母さんの言うことは忘れていいからね」
「わかった」
なんかすごい圧を感じたので、素直に頷いておいた。
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恋愛映画と聞いていたのだが、実際に見てみると確かに恋愛に関係している映画ではあったが、最後はハッピーエンドではなく別れて終わってしまうストーリーだった。お互いに好きだったのに、社会人になって仕事が忙しくなり、いろいろとすれ違っていって最後には別々の人生を歩むという結末で、とても見終わった後に感想をお互いに話して盛り上がれるような映画じゃないな。どうせなら、もう会えなくなるかもしれないという障害を乗り越えて、無事に結ばれるという大恋愛映画の招待券だったら良かったのに。
「もう少しでランチの時間だし、どこかで食べていくか?」
「そうね。どこかいいところある?」
「オムレツの美味しいところがあるんだけど、どうかな?」
「いいわね。そこにしようよ」
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「すっごいフワフワね。このオムレツ」
「だろ。どうやったらこんなフワフワに作れるんだろうな?」
俺は日頃から料理をしているので、それなりに料理が上手い方だとは思うが、どうやったらこんなにフワフワなオムレツが作れるのかはさっぱりわからない。プロというのはやっぱりレベルが違うんだなと思う。
「ねぇ、夏樹」
「なに、井上さん」
「その井上さんというのやめない?」
「えっ?井上さんは井上さんでは?」
「だから井上さんじゃなくて、美桜って呼んでよ。小学生ぐらいのときは美桜って呼んでいたでしょ」
「子供の頃はそうだったけど、でも女の子を下の名前で呼ぶのって、特別な相手しか許されないんじゃないの?」
「そんなこと考えていたの?そんなわけないでしょ」
「じゃぁ美桜さんで」
「はい却下」
「わかった、美桜。これでいいかな?でも学校では井上さんにしておくよ」
「えー。学校でも美桜って呼んでよ」
「おまえなー。自分が学校でどれだけ注目を浴びているのかわかっている?」
「別に注目なんか」
「可愛い女の子は、いつだって学校で注目を浴びているの。そこに俺が美桜って呼んだらどうなるのか、想像がつくだろ?」
「えっと、可愛い?」
「そこじゃなくて!とにかく家では美桜、学校では井上さんでお願い」
「仕方ない。今回はそれで我慢してあげる」
なんとか学校での名前呼び捨ては回避できた。これをやったら絶対に学校中の注目を浴びるはず。美桜はバスケットに夢中すぎて、恋愛の意識が低いのが困ったものだ。
「ねぇ、夏樹」
「どうした美桜」
「私たちは大丈夫だよね?」
「大丈夫って?」
「映画ではすれ違いから別れちゃったでしょ。せっかく夏樹とは二年生からまた仲良くなったのに、将来別れちゃったら悲しいなと思って」
別に付き合ってもないのだが、幼馴染としてずっと仲良く一緒にいたいということなのだろう。
「大丈夫だろ。あの映画ではヒロインが好きなことをやろうとして理解されなかったのが別れる直接的な原因だったじゃないか。俺は美桜が何を目指したとしても、幼馴染として必ずずっと応援するよ」
「そっか。ありがとう。なんか安心した」
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