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第十話 観測の終わり

斬撃は、音を持たなかった。


ただ――


“概念”が裂けた。


「――っ!」


トシノリの腕に、確かな手応え。


だが、それは肉でも物質でもない。


“繋がり”そのものを断った感覚。


亀裂が、広がる。


空間でもない“何か”に、無数のひびが走る。


「観測系、異常発生」


声が、揺れる。


初めてだった。


あの存在の“乱れ”。


「……効いてる」


トシノリは、息を吐く。


ルルが、強く言う。


「今!」


「一気にいって!」


トシノリは、頷く。


剣を握る手に、力を込める。


草薙の剣。


だが――


それだけでは足りない。


「……見せろ」


トシノリは、静かに言う。


「全部」


その瞬間。


視界が、開く。


再び現れる、あの構造。


無数の線。

無数の点。


世界のすべて。


「これが……」


「観測」


ルルが、隣で呟く。


トシノリは、目を細める。


「……綺麗だな」


ぽつりと、そう言った。


ルルが、驚く。


「え?」


「だってそうだろ」


トシノリは、ゆっくり言う。


「全部、繋がってる」


「全部、意味がある」


一歩、前に出る。


「でも」


声が、強くなる。


「決められてるのは、違う」


その瞬間。


構造が、わずかに揺れる。


「俺は――」


トシノリは、剣を構える。


「選ぶ」


一歩。


また一歩。


観測の中心へ、近づく。


「与えられた未来じゃない」


「自分で決める未来を」


“それ”が、動く。


無数の線が、トシノリを縛ろうとする。


「修正、実行」


声が、冷たく響く。


「逸脱の排除」


線が、迫る。


だが――


トシノリは止まらない。


「遅い」


小さく、呟く。


剣が、閃く。


一閃。


二閃。


三閃。


触れた線が、次々と断ち切られていく。


「そんなもんで」


「止まれるかよ」


トシノリの目が、鋭く光る。


「――観測対象、危険度上昇」


声が、乱れる。


「最終修正、実行」


その瞬間。


すべての線が、一斉に光る。


世界の全観測が、トシノリに集中する。


「……っ!」


圧倒的な重圧。


存在が、固定される。


動けない。


選べない。


「トシノリ!」


ルルの声。


だが、遠い。


このままでは――


“決められる”。


その時だった。


トシノリの手の中で、何かが光る。


真珠。


最後の一つ。


「……そうか」


小さく、笑う。


「まだ、残ってたな」


ルルが、息を呑む。


「トシノリ、それは――!」


「分かってる」


トシノリは、静かに言う。


「これで、終わりにする」


真珠が、強く輝く。


その中に――


無数の選択。


無数の未来。


これまで越えてきた、すべての世界線。


「全部、ここにある」


トシノリの声が、響く。


「だったら」


一歩、踏み出す。


「選ぶのは――俺だ」


真珠を、握り潰す。


パキン


乾いた音。


その瞬間――


光ではない。


“選択”そのものが、爆発した。


観測の線が、弾ける。


繋がりが、崩れる。


「観測系――」


声が、途切れる。


「維持――不能――」


トシノリは、剣を振り上げる。


「これで……」


すべての視線。


すべての未来。


すべての“決められたもの”へ向けて――


「終わりだ!!」


振り下ろす。


その一撃が――


観測という概念を、断ち切った。

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