第十一話 選ばれし未来
静寂。
すべてが、止まっていた。
いや――
“終わっていた”。
「……っ」
トシノリは、ゆっくりと目を開ける。
見えるのは、空。
青い空。
裂け目も、歪みもない。
ただ――
どこまでも、普通の世界。
「……戻ったのか」
声が、やけに軽い。
体を起こす。
重さがある。
地面がある。
自分が、ここに“いる”。
その当たり前が、少しだけ遠い。
「……終わった」
小さく、呟く。
だが、その言葉は――
どこか空虚だった。
「……ルル?」
振り返る。
いない。
風が、吹く。
それだけ。
「……おい」
もう一度、呼ぶ。
返事はない。
その時――
胸の奥が、きしむ。
分かってしまう。
「……そういうことかよ」
苦く、笑う。
観測は終わった。
世界は、自由になった。
だから――
“観測の外の存在”は、ここにいられない。
「……勝手だな」
空を見上げる。
涙は、出なかった。
ただ――
少しだけ、静かだった。
「……でも」
トシノリは、ゆっくりと立ち上がる。
「終わりじゃない」
一歩、踏み出す。
足元は、しっかりしている。
もう、揺らがない。
「選べるんだろ」
誰に言うでもなく、呟く。
「これからも」
ポケットに手を入れる。
そこには、何もない。
真珠も。
力も。
すべて、失った。
「……それでいい」
小さく、頷く。
「これは、俺の未来だ」
風が、吹く。
どこかで、子どもの笑い声。
車の音。
日常の音が、戻ってくる。
トシノリは、ゆっくり歩き出す。
その時だった。
「――ほんと、強くなったね」
不意に、声。
トシノリの足が、止まる。
「……ルル?」
振り返る。
誰もいない。
だが――
風が、優しく揺れる。
「……いるのか?」
静寂。
返事はない。
それでも。
トシノリは、少しだけ笑った。
「……見てるんだろ」
空を見上げる。
もう、観測はないはずなのに。
それでも――
「まあいい」
肩の力を抜く。
「勝手に見てろ」
小さく、そう言った。
そして――
前を向く。
「俺は、進むから」
その言葉は、誰にも縛られていない。
誰にも決められていない。
完全な“自分の言葉”だった。
トシノリは、歩き出す。
選び続ける未来へ。




