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戦国残響  作者: 仄か
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第一章:第四十三話 友の危機

 長政に呼ばれた高虎は、吉継と共に主のもとへ向かっていた。その途中、高虎はある者に呼び止められた。


「そこの青い人。ちょっといいかな?」

「……あんたは、確か織田家臣の軍師……」

「竹中半兵衛だよ」

「今急いでいるんだが」

「時間は取らせないからさ。藤堂高虎さん……だっけ。この前聞きそびれたけど、織田の姫、小春とはどういう関係なの?」

「……友だが……」


 答えると、半兵衛はうんうんと頷いた。


「だから文を送ってきたわけね。本人は覚えてなかったみたいだけど。……ねぇ、高虎さん。友達が困ってたら、助けるよね?」

「は?」

「実は信長、本隊を率いて美濃に帰るみたいなんだよ。将軍の警護には僅かな手勢しか残さず、京を無防備にする……ヤバいと思わない?」

「……守備が緩い気はするが」

「つまり敵に攻められると?」

「当たりー!」


 吉継がそう言うと、半兵衛は笑った。


「反織田軍の残党はまだいるし、隙を狙って将軍を襲う可能性はある」

「なるほど……それをわざわざ高虎に話しに来たということは、小春と関係がある流れか。察するに本圀寺に残す僅かな手勢に、小春も含まれていると」

「え……うそ、当たり。君すごいね。若いのに先見の目を持ってるんだね」


 感心した表情で吉継を見た後、口の端を上げて半兵衛は高虎を向いた。


「友達は助けるべきだよね、高虎さん?小春は長政さんとお市さんの姪だし」

「あんた、何がいいたい?」

「長政さんに進言してくれると嬉しいんだけどな」


 それを聞いて高虎の眉間に深い皺が刻まれる。


「友達の危機を察してて無視するなんてことないよね?……まあ、長政さんなら盟友が危機に陥るのを絶対見捨てはしないだろうけど」


 口の辺りに意地の悪い笑みを浮かべて、半兵衛は去って行った。


「高虎……どうする」

「……とりあえず長政様のもとへ行くぞ」


 下級武士が呼び出されるとは何事かと身構えたが、二人を出迎えた長政の表情は優しかった。


「皆の活躍のおかげで、義兄上は上洛を果たすことができた。私からも礼を言う」

「長政様!私のような者にそのようなお言葉……!」

「二人とも無事でいてくれたことを嬉しく思う。小春を守るだけでなく、久秀殿を捕縛した功は大きい。義兄上もそなたらの働きを評価していた」


 信長ではなく長政のために頑張ったのだが、主に褒められて高虎の表情が微かに緩む。


「敵対していた久秀殿も、今では大事な仲間だ。久秀殿の力は大きい。きっと義兄上の力になる。そんな者を捕縛した活躍は本当に素晴らしい」

「我らだけでは敵いませんでした。姫様もいたからこそ、成せたことです」


 正直、未来から持ってきたという珍妙な道具を使った小春の機転がなければ、倒せなかっただろう。


「協力し合うのはいいことだ。ところでそなたたちは、小春のことをどう思っているのだ?」

「……どう、とは……」


 寝耳に水と言うべき長政の問いに、二人は固まる。最初に口を開いたのは高虎だった。


「……姫様は、私の友です」

「はい。危機をくぐり抜けたゆえに、姫様と我らには友情が生まれているかと」

「そうか。これは困った。どちらを義兄上に推そうか悩むな」

「推さないでください」

「推さないで頂きたい」


 高虎と吉継の声が重なった。


「二人は小春を好いているのではないのか?」

「違います」

「そ、そうか。私の勘違いだったのか」


 高虎の妙な気迫に押され、長政は頷いた。


「とにかく、私はそなたらに礼を伝えたかったのだ。義兄上は苛烈なところもあるが、生半可な覚悟で乱世は超えられない。義兄上の目指すその先に、皆が幸せに暮らせる世がもうすぐ訪れる。これからも私を支えてほしい」

「……はっ」


 長政に向かって、二人は深々と礼をした。


 やがて支度を整え、浅井軍は本圀寺を出発した。


「長政様は、このまま信長の走狗となって生きるのだろうか……」


 近江への帰路につくなか、高虎はぽつりと呟いた。

 出発前、長政が話した言葉を思い出す。

 信長は苛烈だが、生半可な覚悟では乱世は超えられない、と。

 だが、それにしたって苛烈が過ぎる。なにより尊敬する主を駒のように扱う信長に、高虎は好感を持てずにいた。

 そんな男の天下で、本当に長政が言う皆が幸せに暮らせる世は訪れるのか。小春の目指す泰平の世は――


 神妙な面持ちの高虎に、隣を歩く吉継が声をかける。


「仕方ないことだ。そういえば、あの軍師から聞いた話をどう思う?」

「……あれか。確かに言われてみれば襲撃の可能性もなくはないが、将軍が危機に陥ろうが関係ない。むしろそれで信長が失脚すれば……」

「だがそうなれば、小春も危ないぞ。友ではないのか?」


 その言葉に思わずぴたりと足を止める。そして盛大に溜め息を吐いた。


「……仕方ない」


 浅井軍は休息を取ることになり、その頃合いを見計らって、高虎と吉継は長政の天幕を訪れた。

 躊躇う高虎に代わって吉継が長政に事情を話す。長政はただ静かにそれを聞いていた。


「そなたたちの言うとおりだ」


 話を聞き終えた後、長政は言った。


「その可能性は十分にある。このままでは、義昭様が危ない」

「我らのような下級武士の言葉をお聞きくださるとは……」

「そなたたちは危機を察して私に教えてくれた。久秀殿を捕縛した功もある。聡明な家臣を持てて私は嬉しい。これからは遠慮せず思ったことを話してくれ」

「長政様……!」


 長政は周囲の者たちに号令した。


「皆!小谷に帰るのは少し待ってくれ。――本圀寺に引き返す!」

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