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第一章:第四十話 友の証は絡繰りの中に

 久秀も捕縛し、怪我人もなし。無事に終わった。


「そういえば、あの男と戦っている時、変な音がしなかったか?」


 安心しきっていた小春は、吉継からの不意打ちとも言える指摘に心臓がどくんと跳ねた。

 あれは防犯ブザーだ。

 けたたましい音を大音量で鳴らせば、久秀も驚き隙ができると思った。この時代に生きる人間はおそらく聴いたこともない音だと予想しての作戦だったが、見事に成功した。


 しかしあの時はとっさに思いついたことで、その後のことまで考えていなかった。高虎はいいとして、吉継にどう説明すれば……。


「そんな音してたかな?高虎、聴いた?」

「……さあな。あいつに集中しててわからなかったが」


 平静を装うことにした。高虎も聴いているはずなのだが、突然振った小春の話に合わせてくれた。


「確か小春が背中の包みから何かを取り出して、それをいじった後に音が鳴り響いたと思うのだが」


 さすが吉継。久秀と爆風に対処しながらも目ざといほどに冷静で正確な記憶だった。しかも小春が工作しているのをばっちり目撃している。これ以上ごまかしきれないが、一度知らぬふりをしたのだ。このまま気づいていないで通そうと思った。


「き、気のせいじゃないかな。爆風で耳がおかしくなってたのかも……」

「そうか」


 吉継が頷く。それを見てホッとした小春だが、険しい顔をした高虎と目が合う。顎をくいっと動かし、高虎は踵を返した。こっちへ来い、ということだろうか。黙って高虎の後をついて行く。


「なんだ、あれは」


 吉継から見えない物陰に移動し、高虎は口を開いた。小春はポケットから防犯ブザーを出した。


「えっと、未来から持ってきた防犯ブザーってものなんだけど」

「違う。そうじゃなくて、あの苦し紛れの言い訳はなんだ。気のせいだ、など適当なことを……あんなのでごまかせるわけないだろう。もっとましなことを言えないのか」

「で、でも吉継は納得……」

「するか。仮に吉継が納得していても、俺が納得できん」

「高虎にはあとで説明するからっ」


 ドキドキしながら吉継のもとへ戻るが、特に突っ込まれなかった。

 本隊と合流し、陣へ戻っても何も訊かれることはなかった。小春はほっと胸を撫で下ろす。


 そして陣の外。少し離れた場所で、小春と高虎は落ち合った。改めて未来の道具ーー防犯ブザーやスマホを高虎に見せる。


「この紐引っ張ったら鳴るから。絶対引っ張らないでよ?……あ、それはスマホじゃなくてストラップだよ」


 スマートフォン本体ではなくストラップの人形の方を掴んだ高虎に小春が突っ込む。


「それ気に入ってるの。かわいいクマでしょ?」

「くま……?くまとは、あの熊か?未来ではずいぶんかわいい生き物になってるのだな」

「これは人形だからね。未来でも危険な生き物だよ」


 それからいろんな機能について説明した後。


「これが私の家族だよ」


 フォルダを開いて写真を高虎に見せた。


「いい家族なんだな」

「え……?」

「あんたが笑っている」


 画面を覗き込む高虎がそう言う。それを聞いて思わずじわりと涙が滲んだ。

 この時代に慣れることが精一杯で、なにより小春に関わる人々はみんな優しく、大変ではあるがおかげで楽しく過ごせている。家族を思い出さないことはなかったが、みんなのおかげで寂しくはなかった。けれど。


「……うん。すごくいい家族なの」


 高虎の言葉に、家族のことが思い出された。

 元の時代では、小春の存在はどうなっているのだろう。

 小春がこちらにいる間、あちらでは時間が止まっているようにも思える。それでも、小春はこの時代で確かに時を重ねている。


 それだけの時間、家族に会っていないのだ。


「元気かな……会いたいな……」

「帰る方法はわかっているのか?」

「あ、それはね……」


 小春は現時点でわかっている夜の虹のことを話した。

 斜面から滑り落ちて未来に戻った話を聞いた高虎は、怪訝な表情を浮かべた。


「まったくもって謎だな」

「そうだよね」

「だが一度帰ったんだろう?それなら必ずまた帰れるはずだ」


 高虎のその言葉が、とても暖かく感じた。


「何をどうすればいいのかわからんが……あんたが未来に帰れるよう、その時まで無事でいられるよう、協力する」

「高虎……ありがとう!さすが手ぬぐいくんだよ!」

「……次そのあだ名で呼んでみろ。刈り取ってやるからな」

「あはは!怖い怖い!」


 笑いだす小春を見て、高虎の切れ長の目が柔らかく細められた。


「……強いな、あんたは」

「なにが?」

「知らない時代で、心細くなっても仕方ないだろうに」

「不安はあるけど……みんなのおかげで楽しくやってるよ。あ、そうだ。高虎」


 名前を呼び、高虎がこちらを向いたところでスマホを構えた小春が画面をタップする。カシャ、と音がして高虎はぽかんとした。


「な、なんだ……?」

「写真撮ったの」

「どうなってる!?俺が、絡繰りの中に……!?」

「撮りたいものに向けて、ここ押したら……ほら」


 解説しながら、実践して見せる。


「撮った写真はここで見れるんだ。それからこうやって、写真を拡大できるの。動画も撮れるよ。よく友達と写真撮ったり動画撮ったりしてるんだ」


 動画を起動して、高虎が写るように撮る。


「ならば、俺とあんたは友だな」


 そう言って笑った高虎の表情は、とても柔らかかった。


「うんっ。私と高虎は友達だね!」


 小春の手からスマホを奪うと、高虎は小春に向けて予告なしにカメラで撮影した。


「間抜け面だ」

「最悪っ。消してよ!」


 手を伸ばすが、高虎はかわして再び画面をタップする。


「……ッ、吉継……」


 何もないところで押したつもりが、突然そこに現れた吉継が写り込んだ。

 画面は見えていない。しかし吉継は、スマホをばっちり見てしまっていた。うまい言い訳が思いつかない。


「それはなんだ?」

「これは、その……」

「友の証だ」


 高虎が平然とそう言う。


「お前は俺の友だということだ、吉継」

「そういうことか。私は嬉しいぞ。高虎も私にとって大切な友だ」

「ご……ごまかせた……?」


 嬉しそうな吉継を見て、よかったとは思う。

 だが、こんな簡単にごまかされてしまう彼の将来が、少しだけ心配になった。

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