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第9話:余剰リソースは、だいたい厄介

現場のホワイト化――つまり効率化(オプティマイズ)が、

またしても致命的なミスを引き起こした。


屋敷の運営がスムーズになりすぎた結果、

カシアンに

自由時間(フリー・タイム)

という名の、最も危険な余剰資源(リソース)

発生してしまったのだ。


「リゼット、今日は午後から時間が空いた。

 君の話し相手になろう。……最近、興味深い

 魔物変異種ミュータント・モンスターについての

 論文を読んだのだが……」


「…………」


(今、まさに夢の国(スリープ・モード)への

 ログイン準備をしてたのに)


カシアンは私の枕元に腰掛け、

大真面目な顔で終わりのない「技術共有」を始めた。


重い。

上司の語りという名の、

残業代も出ない奉仕残業サービス・オーバータイムが重すぎる。


【現在の状況】

トップダウンによる長時間拘束(ロング・ミーティング)


【リゼットの疲労度】

急上昇。

このままでは強制終了(=寝落ち)の恐れあり。


【推奨解決策】

他部署での緊急事態(トラブル)を装い、

社長を現場へ強制送還。


私は布団の中で、こっそりと

世界の設計図ワールド・ブループリントを展開した。


(ごめんね、カシアン。

 でも、あなたがここに居座ると

 私の安眠環境が構築できないの。

 ……よし)


北側の森に配置された

防衛術式ディフェンス・スクリプトに、

「存在しないはずの雑音(ノイズ)」を

ほんの少しだけ混ぜ込む。


私が指先を小さく動かし、

遠隔で結界を書き換えた――その時。


「……?

 何だ、この魔力の揺らぎは」


カシアンが、即座に反応した。

さすがは現場叩き上げ。

異常検知能力だけは、一流だ。


そこへ、慌てた様子の騎士が飛び込んでくる。


「旦那様!

 北側の結界に異状発生です!

 術式の構成に、原因不明の乱れが混入しています!」


(※私が十秒で仕込んだ、

 見た目だけ派手なダミー不具合(フェイク・エラー)


「何だと……。

 あそこの術式は強固なはずだ。

 ……リゼット、すまない。急用ができた。

 すぐに戻る」


「……ええ。

 どうか、お気をつけて」


カシアンは風のように部屋を出ていった。


よし。

強制ログアウト(フォース・ログオフ)成功。


私は心の中で勝利のガッツポーズを決め、

布団を頭まで被り直す。


……だが。


背後に、逃げ遅れた「影」が残っていた。


「……奥様。

 北側の結界は、つい先日

 定期点検(メンテナンス)を終えたばかりのはずですが」


ジャネット。


彼女はサイドテーブルを

完璧な手つきで整えながら、

独り言のように続ける。


「あのタイミングで、

 あれほど不自然なエラーが出るとは……。

 まるで、奥様が旦那様を

 『戦力外通告……失礼、

 現場復帰(フィールド・リターン)させたがっている』

 かのような、

 あまりに鮮やかな手際でございますね」


(……このメイド、

 私の魔力ログ、完全に解析してるわね!?)


「……あら。

 偶然って、恐ろしいわね。ジャネット」


「左様でございますね」


彼女は一礼し、

小声で付け加えた。


「……では、旦那様が原因を探して

 森を彷徨っている間に、

 奥様には特製軽食(ステーキ)

 お持ちいたしましょうか」


そう言って差し出されたトレイには、

私の大好物――

最高級の脂がのったステーキが、

完璧に隠されていた。


「旦那様の『お暇』を埋めるためのお仕事、

 お疲れ様でございました。奥様」


(……ジャネット!

 あなた、

 トラブル自作自演まで把握したうえで

 共犯者になってくれるのね!)


【ミッション完了】

社長の強制外出(エクスパルス)に成功。


【報酬】

静寂な三時間。

および、高カロリーな背徳飯(ギルティ・ミール)


私はお肉を頬張りながら、

深い安堵感に包まれた。


――しかし、私はまだ知らない。


北の森でカシアンが、

「あまりに精緻で、

 かつ悪戯っぽく書き換えられた

 術式の痕跡」を発見し、


「これほど高度な干渉が可能なのは……

 もしや、

 リゼットを精神的に追い詰めようとする

 超一級魔導暗殺者(グランド・アサシン)では!?」


と、

恐怖と怒りの歯車(ギア)

フル回転させていることを。



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