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『魔力炉の最適化? いいえ、二度寝の環境整備です。~怠惰な生活を送りたいだけなのに、なぜか国中のエリートが私を「聖女」と崇め始めました~』  作者: こもり詩


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第44話:白亜の牢獄と、共鳴する二つの魂

 ふかふかのベッドで、泥のように深い眠りに落ちてから、どれほどの時間が経っただろうか。  

 再びアリアが目を覚ました時、体に張り付いていた重いなまりのような疲労は、うそのように消え去っていた。


「……体が、痛くない」


 ゆっくりと起き上がる。

 枯渇こかつしていた魔力は満ち、視界は驚くほどクリアだった。  しかし、ここは見知らぬ館の客室だ。

 自分がどれくらい眠っていたのかもわからない。

 アリアは跳ねるようにベッドから降り、部屋の扉へと駆け寄った。


「あの、誰か……!」


 扉を開けようとした瞬間、カチャリと外から鍵が開く音がした。  

 ビクッと肩を揺らして後ずさるアリアの前に現れたのは、完璧な姿勢でぼんを持った侍女じじょ――ジャネットだった。

 その後ろには、油断なくこちらを見張る屈強な騎士の姿が見える。


(やっぱり……監視されているんだわ)


 アリアの顔がサッと青ざめる。  

 当然だ。

 どこの誰とも知れない自分を、タダで助けてくれるはずがない。


「目が覚めましたか。ちょうど丸三日、眠り続けておられましたよ」


「みっ、三日も!? ご、ごめんなさい! 私、すぐに働きます! 結界でも、魔力供給でもなんでもしますから、どうか捨てないで……っ」


 すがりつくように叫ぶアリアに、ジャネットは静かに首を横に振った。


「その必要はありません。この領地では、限界を超えた労働や、他者からの魔力の搾取さくしゅは一切禁じられておりますので」


「え……? で、でも……」


「奥様は、疲労の匂いや、過酷かこくな労働の気配をひどく嫌悪けんおされます。『私の視界に入る場所で、ボロボロの労働者を作らないで。安眠の妨げになるから』と。ですので、あなたの顔からくまが消えるまで、この部屋から出ることは許可できません」


 ジャネットは淡々と告げ、温かい食事をテーブルに並べた。  

 そして、「しっかり召し上がって、またお休みください」とだけ言い残し、再び扉の向こうへと去っていく。

 外からガチャリと施錠せじょうされる音が響いた。


 残されたアリアは、呆然ぼうぜんと立ち尽くした。  

 三日も眠っていたのに、怒られなかった。

 それどころか、「隈が消えるまで休め」と命令された。


(どうして……? 私には、魔力を捧げることしか価値がないのに)


 アリアの脳裏に、三日前に会ったこの館の女主人――リゼットの顔がよみがえる。  

 ボロボロだったアリアを見た瞬間、彼女はひどく顔を引きつらせていた。


『嫌な記憶がよみがえって、私の今後の安眠に重大な支障ししょうが出るのよ。』


「……っ」


 その言葉の意味を反芻はんすうした瞬間、アリアの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。  

 教会の司祭たちは、アリアの隈や傷だらけの手を見ても、鼻で笑うだけだった。

「もっと祈れ」とむちを打つだけだった。


 だが、あの人は違った。  

 アリアの酷使こくしされた姿を見て、まるで『自分自身の痛み』のように顔をゆがめたのだ。


(……あの人も、私と同じなんだわ)


 アリアは胸の前で両手をギュッと握りしめた。  

 あの優しくて不器用な人は、きっと過去に、壊れるまで誰かに搾取され続けてきたのだ。

 だからこそ、自分の周囲から過酷な労働を一切排除はいじょし、他人が苦しむ姿を見ないで済むような『理想郷』を作った。  

 本当は優しさのかたまりなのに、それを「自分の安眠のため」だなんて嘘をついて隠しているのだ。


(――なんて、悲しくて、尊い人なの……!)


 実際には、リゼットはただ「本当に自分が働きたくないから周囲を徹底的にホワイト化しているだけの怠けニート」なのだが、アリアの盛大な勘違いは止まらない。


「私、決めたわ」


 エメラルドの瞳に、強い光が宿る。  

 もう、自分をすり減らして偽りの神に祈るなんてごめんだ。


「私にふかふかのベッドをくれた……あの人(お姉様)の『休息』を守るために、この命を使うわ!」


 軟禁部屋の真ん中で。  

 隣国に縛り付けられていた哀れな聖女が、リゼットの絶対的な平穏を死守する『最強の妹分(同担拒否)』へとジョブチェンジを果たした、歴史的な瞬間であった。

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