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『魔力炉の最適化? いいえ、二度寝の環境整備です。~怠惰な生活を送りたいだけなのに、なぜか国中のエリートが私を「聖女」と崇め始めました~』  作者: こもり詩


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第41話:崩壊する防護と、すれ違う魔物の群れ

 



 隣国の辺境砦へんきょうとりでは、絶望のふちにあった。


 ひび割れた防護の障壁しょうへきの向こう側から、無数の魔物たちが押し寄せてくる。その轟音ごうおんは大地を揺らし、砦の兵士たちは恐怖に顔をゆがませていた。


「ああ……もう、だめ……っ」


 最前線で杖を構えるアリアの視界が、ぐらりと揺れた。


 命を削って流し込み続けた魔力は、すでに底を突いている。

 指先は感覚を失い、呼吸をするたびに肺が焼けるように痛かった。


 それはまさに、限界まで酷使こくしされ、油が切れてきしむ歯車そのものだった。


「馬鹿者! 手を休めるな! 私の命が懸かっているのだぞ!」


 後方から響く司祭の罵声ばせいも、今の彼女には遠い耳鳴りのようにしか聞こえない。


(……ごめんなさい。もう、限界……)


 パリンッ――!!


 空気をつんざく甲高い音と共に、アリアが維持し続けていた防護の術が、ついに砕け散った。


 光の破片が舞い散る中、なだれ込んでくる巨大な魔物たち。


 アリアは静かに目を閉じ、迫り来る蹂躙じゅうりんと死を受け入れた。

 せめて、この痛みと疲労から解放されるのなら、それも悪くないとすら思っていた。


 ――しかし。


 数秒待っても、予想していた鋭い牙も、重い一撃も、アリアの小さな体には届かなかった。


「……え?」


 そっと薄目を開けたアリアは、信じられない光景を目にした。


 砦を破ったはずの魔物たちが、アリアや兵士たちには目もくれず、ただひたすらに脇をすり抜けて走り去っていくのだ。


「ヒィィッ! く、食われる……! ――あれ?」


 腰を抜かしていた司祭も、間抜けな声を漏らす。


 数十頭の魔物の群れは、人間を襲うどころか、まるで『後ろから迫り来る何か』から逃げることに必死で、パニック状態におちいっていた。

 口から泡を吹き、涙目になりながら、ただひたすらに遠くへ、遠くへと駆けていく。


(……やっぱり。この魔物たち、バウムガルト領から逃げてきただけなんだわ)


 アリアがその事実に気づいた瞬間だった。


 ゴウッ……!!!


 国境の森の奥から、目に見えない巨大な力の波が押し寄せてきた。


 それは、リゼットの安眠のために最適化された魔力炉が吐き出す『清浄せいじょうな魔力のうねり』と、二体の神獣が無意識に垂れ流す『圧倒的な威圧いあつ』が混ざり合った、理不尽極まりない余波よはだった。


 魔物たちにとっては、それは死を意味する恐怖の風。


 しかし、限界まで魔力を搾り取られ、空っぽになっていたアリアの体は、その強大な魔力の波を無意識のうちにスポンジのように吸収してしまった。


「きゃあっ……!?」


 突風のような力に巻き込まれ、アリアの小柄な体はふわりと宙に浮いた。


 枯渇していた魔力回路へ、熱い奔流が無理やり流し込まれる。

 悲鳴を上げる暇もなく、アリアの意識は白く弾けた。


 そのまま彼女の体は、魔物たちとは逆の方向――恐怖の震源地である『バウムガルト領』の国境を越え、深い森の中へと吸い込まれるように吹き飛ばされていった。


「せ、聖女が消えたぞぉぉっ!?」


 背後で司祭が叫ぶ声は、もうアリアの耳には届かなかった。


 こうして、隣国に縛り付けられていた過労の聖女は、不可視のことわりの渦に巻き込まれ、皮肉にも『絶対の休息』が約束された怠惰たいだの園へと向かうことになったのである。

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