【番外編】永遠の秘密~初恋の湊くんとの初デートの思い出ほか
優芽はいつも、塾の休憩時間に本を読んでいる。
ひとり静かに読みたいのに、彼、湊がいつも声をかけてくる。
優芽がいま読んでいるのは
「ゆるゆる海の生物図鑑」
「国宝級イケメン判定本」
という、少し変わった本だと思うのに、湊は楽しそうに見つめていた。
「優芽って、海の生物好きなのか?」
「まあ、深海魚とか好きだよ」
深海魚の何がときめくかと言うと、暗闇の中、あんなに深い場所で生き抜く強さかな。
「俺はね、サメが好きだ」
湊は優芽の机に手を置くと、顔を覗き込むように見てくる。
「サメの歯ってさ、抜けても後ろから新しい歯が次々と生えてくるんだぜ」
湊が知ってることを得意げに話してくるんだけど、少しだけ興味が持てた。
「それって永遠ってこと?」
優芽が尋ねると、湊は嬉しそうな顔をして、さらに教えてくれる。
「そそ、ベルトコンベアーみたいにさ、スライドして落ちて生え変わってくんだ、だから虫歯になんねーの」
「えーすごい、面白いね」
「だろ? あ、良かったら今度、深海水族館行こうよ!」
初めてのデートに行ったのが中1の終わり、春休みだった。
深海の神秘的な世界、薄暗い幻想的な空間。
「わあ、これなに?」
優芽がガラスに顔を近づけて見たのは、タコなのかな?
「タコ? いや、なんだろ? 何に見える?」
「深海生物なんだろうけど、かわいいね」
優芽が笑うと、湊も一緒になって笑ってくれる。
「見てみてすごい! 冷凍シーラカンスだって! 凍ってるのに生きる化石って意味わかんないけどすごいね!」
館内はそれほど広くなかったけれど、2人でゆっくり回ってじっくり楽しめた。
お昼は「深海魚バーガー」を食べて、グッズ販売コーナーでは、お揃いのサメの歯を買った。
あの日から、二人で出かけることも増えた。
本屋へ行ったり、水族館へ行ったり、たわいないLINEを送り合ったり。
気づけば、湊と過ごす時間は優芽にとって当たり前になっていた。
湊とは違う中学だったし、学年は優芽のほうが一つ下。
それでも湊は、いろんなことに誘ってくれたし、その誘いが優芽にはとても嬉しかった。
「俺さ、今度テニス部の試合があるんだけど、優芽、応援来てくれよな!」
「うん、行くね」
そしてだんだん、湊と過ごす時間が、少しずつ、優芽の中で特別なものに変わっていくような気がしていた。
けれど、あの日。
湊に頼まれた応援のこと。
私なりに一生懸命考えた結果だった。
「ほかの子にも応援頼んだから、頑張って」
そう伝えた私の言葉に、彼は驚くほど強く怒った。
「余計なことすんなよ!」
彼の顔がみるみるうちに強張っていく。
湊の表情は怒りというより、何かを必死に隠そうとしているようにも見えた
どうしてそこまで怒るのか、優芽にはわからなかった。
……私は湊くんが喜ぶと思っていたのに、何が、彼を傷つけてしまったのだろうか。
それ以来、私たちはぎくしゃくしてしまった。
湊が親友である遥希くんに当たっている姿も見た。
優芽は、二人の関係まで壊してしまったのではないかと、胸が痛んだ。
そんなとき、間もなく、湊くん家族のキャンプが予定されていると聞いた。
遥希くんも誘われてたみたいだったけど、結局行かないらしい。
そんなに、気まずくなっちゃったの?
あのとき、私が余計なことをしなければ、状況は違ったのだろうか。
いまさら後悔しても、何も変えられないのに。
でも。
……まさか、それが最後になるなんて。
その10年後に出会った湊くんの弟、凪くんの右目に、湊くんを見つけた。
わたしを見つめていた『彼の目』だった。
また、会えたね。
そしてこれからもずっと……
それは心の中に閉じ込めた、わたしの言えない秘密、になった。
凪くんへの気持ちは『恋』ではない。
魂の救済措置のようなものかもしれなかった。




