第14話【遥希side】重かった優芽の過去を背負う覚悟と不安
【遥希視点】
「ごめん優芽、俺なんも知らなくて、そんなに悩んでたことも何も」
まったく知らなかったわけじゃないけど、ちゃんと聞かずにいたのも良くなかったんじゃないかって反省している。
「あー凪くん、話しちゃったんだ?」
先に全部、凪が知ってたっていうのもそうだろ、俺には話しづらかったんだなって思う。
優芽とつきあってるの、俺なのに。俺が守らないといけないのに、なにやってんだって。
「引いちゃうでしょ、わたし妹虐待したよ?」
聞いたときは一瞬戸惑ったのも事実だけど、それはそのときのまわりの環境のせいもあったんだろって、凪も言うから、そうかもなって。
「優芽だけに押し付けない、一緒に育てよう」
「うん、はるくんならそういうかって思ったけど、でもね」
まだ言ってないことあって、ついでだから言うね、と優芽は続けた。
「わたし、樹の子、……した」
「……え」
先に口を開いたのは凪。
「ええ、それ聞いてねーし、初耳だし、ええ!」
「あ、でもね、ちゃんと…んーちゃんとっていうのも変だけどね、病院で処置? だから捕まるとかないよ」
やっぱ、やることやったら、できちゃう!
あははって優芽が笑ってるんだけど、大丈夫か?
え、俺か? 大丈夫か?
「そっか……」
凪が少し黙った。
「それはひとりじゃ抱えきれなかったよな」
そして
「まあ、もう過去のことじゃん、いつまでも引きずってんなよ優芽」
凪が言ってくれる。
「前向きに考えようぜ、遥希、結婚祝いと出産祝い、なにがいいか考えといて、俺いま貯金してるし買えるからな」
それもそうだなって言いそうになったんだけど、優芽は笑ってなかった。
「わたしが、長年抱えてきた、隠してたのってさ、こんな一瞬で、こんな簡単になかったことにされちゃうわけ?」
「あ、ごめん俺、軽かった?」
凪がしまったって顔してる。
「ううん、逆かな。わたしが重く考えすぎてたのかも」
「いや、実際かなり重めの悩みかって思う」
凪は首を振って続けた。
「たださ、重いから常に持ち続けてると動けなくなる。過去を悩んでて深刻になってて今が良くなるなら、悩めば? って思う」
でもさ、って言って凪
「ふだん、忘れて…ていうか、過去に置きに行くとか、そういうイメージっていうか、緩む時間は必要じゃね?」
置き去りにして忘れ去れればいいけどな! と凪は笑う。
俺、口をはさむ余裕なかった。ただ、ふたりの会話を聞いてるだけ。
なんていうのか、凪があんな事故からの暗黒期を乗り越えてきた強さって、あるのかも。
病んだままでいても、おかしくないくらいのこの数年間。
まあいいか、めんどくさい、って言う言葉って、それを言うことによって心が切り替わるとか、そういうことなのだろう。
ふと、この先、優芽とふたりだけでやってゆけるんだろうか? という不安がわきあがった。
凪みたいに、うまい言葉を俺は持ってなかった。
当たり前のありきたりな、大人の言葉。やっぱり常識って、通じない場合があるってことだ。
「あのさ、凪」
「ん? どした遥希、びっくりしてフリーズしてたけど、溶けた?」
「優芽の相談乗ってくれて、俺からもお礼言わなきゃって思って」
「わ、俺が遥希に感謝されるなんて! それヤバいな」
「わたしからは、はるくんにありがとういうよ」
「え、なんで?」
「だって、凪くんと連絡すんな! って怒らなかった」
必要があって、そうしてたんだよって優芽が言うから、そうだったんだなって思ったけど、本当は嫌だったのは事実で。
なんで俺に言わず、凪に先に言うんだよって、悔しかったけどな。
優芽の表情を見ると、あの日から抱えていた重荷が、凪の言葉でほんの少しだけ軽くなったように見えた。




