第9話【凪side】不動産屋の担当と内覧する結菜
仕事から帰ってくると結菜に聞かれた。
「このあと少し相談したいことある」
なんだ? 妙に改まってんなって思って、少し嫌な予感はしていたんだ。
「いいよ、いまでも」
夕食を食べつつ、テーブルの向こうに座る結菜をチラッと見る。
「いいよ、話せよ、食いながらでも聞ける」
「うん、あのね……」
結菜は一呼吸置くと、静かに言った。
「早めに、部屋を借りたい」
「早めって、まだ貯金たりねーって結菜言ったじゃん」
「そうじゃなくて、わたしひとりで住む部屋をね、借りたいの」
え……、それってそういうこと? 出てくってこと?
びっくりしたけど、俺ってば平静を装っちゃったさ。
「そうなんだ、結菜、一緒にいたいのかって思ってたから、なんか意外…」
でも…と続けて
「そうしたいなら、すれば?」
言ってしまった。
「引越し先、決まったら教えて」
「うん、わかった」
先にベッドルームで寝てしまった結菜。
俺はひとり、リビングで考えていた。
拓海と終われたから、一緒住む理由なくなったってことだよな?
ここに結菜が住んでるのって、拓海がストーカーして危険って思ったから、避難の意味あったわけで。それがなくなったんだし、やっぱそうなるよな。
そう。きっかけはそうだった。
ストーカーとか危機管理とか言われても確かにそれは薄かった。
これは結果的にだけど、拓海ってそんなヤバいやつでもなかった。
みんな、あのとき警戒し過ぎたのかも。
「貯金始めたばっかだし、いつ貯まるかわかんねーし、いったんリセットすんのもいいかも」
俺は勝手にそう結論づけた。
そして次の休み。
「不動産屋さん、行ってくるね」
そう言って結菜はひとりで出かけていった。
結菜がひとりで出かけると、なにもすることがなく、暇だった。
結菜とつきあう前って、何してたっけ?
そうだ、遥希と遊んでたんだと思い出したけど、遥希には優芽がいる。
昼間ならカフェ行けば優芽と話せるけど、なんとなくそうゆうことやったら、ためだよなって気がしてやめた。
結局、一日中寝てた。
何時だろ?
と思ってふと見ると、横に結菜が寝てた。
あれ、そんな時間? と時計見たら、夜の9時!
めちゃ寝たーー!
「腹減ったな」
なんか食うかなって思ったんだけど、結菜見てたら結菜が先かなって気分になって、ちょっと触ってたら、結菜が気づいて起きた。
寝てていいのに、起きたから手を引っ込めた。
「腹減ったなーと思って。結菜ごはん食った?」
「うん、さっき冷凍パスタ、適当に食べた」
「なんかあったかな、簡単なもの」
「冷凍パスタならまだあるよ」
それでいっかと思って、キッチン行ったら結菜も起きてきた。
食べながら結菜に聞いた。
「いい部屋見つかった?」
「うーん、まだ。4件くらいで迷ってんの」
「そか、ちゃんとオートロックにした?」
「うん、オートロック、二階以上、都市ガス!」
俺が言った絶対条件じゃん。
「でね、ここから徒歩圏内の物件にするの」
「あー、それいいね」
遥希んちも近くだし、みんな近くに集まってたらなんか、楽しいし。
あー、優芽だけ遠い?
「明日も行くの?」
「うん、まだ内覧したいとこあるし」
俺ってついてかなくていいのか?
と言おうかと思ったけど誘われないしな、おとなしくしておこうと思った。
明日、なにしよ?
あ、拓海ひましてねーかな? LINEしてみたら、やっぱ暇そうだった。
「明日、拓海と遊んでくる」
結菜にも、ちゃんと行き先を言う約束だから言ってみた。
「そうなんだ、なにすんの?」
「んー、まだ決めてない」
そして日曜日、結局カラオケフリータイムにはいって、時間つぶしてた。
ポテトとか唐揚げとか、適当に頼んだ。フリードリンクなのはいいよな。
あんま歌わなくて、いろいろ話をしてたんだけど、拓海と結菜との出会いのこととか聞かされた。
「学校で一番かわいかったんだ」
だって。
まあ、中学生ってそんなもんだよな? 顔で相手選ぶ。
見るからにお互い、顔だろって思ってた。
「凪は? 中学生のときどんなだった?」
「あー、俺、中学生の頃から病院いたから、なんもなかったよ」
拓海に事故の話をするハメになっちゃった。
「それでさ! 5年くらい意識不明で寝てたからさ、時間取り戻す勢いで女の子と遊びまくって」
「そういう経緯あったんだな、」
同情っぽくされるか? て思ってたけどそうでもなかったな。
「でさ、俺の右目、ほらほら、見える?」
拓海に近づいて右目見せた。
「悪魔飼ってんだ」
「えー、なんだそれ、見えないよ」
「いまカラコンつけてるからな、見えにくいか」
間近で拓海の目を見つめてしまった。
いい男だなやっぱり。
「キスしそうな距離感、ヤバ」
俺が言ったら拓海が離れた。
「密室だしな」
なんだ拓海、ノリいいな。
最近、拓海が変化してきたような気がする。
話が面白いかって言うと微妙だけど、俺の言ったことに普通に答えてくれるし、慣れてきたのか会話は楽しかった。
そのあと、せっかくカラオケ来てるんだし、男二人だしってことで、優芽が聞いたら喜びそうなやつ、歌ってやろうか。
「優芽ってなにが好きかな」
聞くと拓海はちょっと考えて
「優芽ちゃんのことは、正直良く知らない、わからないな」
だって。
優芽からは20日で振られたって言ってたもんな。
拓海よりも、たぶん俺のほうが優芽に詳しい。
とにかくそれからいろいろ歌って、かなり楽しめた。
「また遊ぼうな〜」
いい1日だった。
帰ると結菜から、チャラい不動産屋の話を聞かされ、俺はなんということか
焦ってしまった。




