第8話 【遥希side】常識がわからなくなってきた
【遥希視点】
凪のこと見てると、常識っていうのは本当に常識なんだろうかと、むしろそっちのほうが疑わしく思えてくる。
いつだったか悠真さんも言ってた。
正しさで人が変われるなら、とっくに凪は変わってる。
だったかな? そんなふうなこと。
今はそれもなんか違うかなって思ってて、そもそも変わる必要ある?
俺たちの「正しい」基準、常識に、無理に当てはめようとしてただけかもなって。
「ね、はるくん、さっきの質問の答え、保留になってるの」
「あ、そうだったな」
カフェで優芽から聞かれた「はるくんは、なんでわたしなの?」ってやつ。
答えようとしたとき、拓海が帰るってなって、話が中断したんだ。
その後なんだかんだで優芽が忙しくして、結局いまになった。
もう、俺んちに一緒に帰ってきて、シャワーも終わってのんびりしてた。
「それさ、めちゃシンプルで。優芽だからってことだろうなって思ってる」
「ふうん、そっか」
「優芽はなんで、俺なの?」
「同じ。はるくんだから」
「同じか。そうなんだ、どこがいいのかとか、どこが好きかとかそんなんじゃなくって、説明できねーって感じ」
「うん、はるくんじゃないなら、いらないって感じ」
あとは雑魚キャラかなって優芽が笑ってる。
「あれ、凪も雑魚?」
「雑魚すぎる、ついでにクズ。あ、だけど最近少しマシになってきたね、浮気してなさそうだし」
優芽はそして何か思い出すように目を泳がせる。
「結菜ちゃんの体で満足してんじゃん? あのボリューム!」
と、ややセクハラ発言してた。
優芽ってときどき男っぽいこと言うんだけど、もしかすると読んでる本の影響はあるのか?
「優芽、最近BL読んでんだろ?」
「イケメン同士のやつ…だけどね…」
精神的BLって優芽が言ってたけど、そういうのがあるんだな。
「はるくんと凪くん見てるのも、たまに妄想に萌えるよね」
「え、俺らそんなんじゃねーし」
いったいどんな目で見てんだよ。
「そう? だってさ、遥希ー見て見てー、なんだよ凪、しょうがねーなーみたいな会話、それっぽいんだもん」
俺と凪の会話のマネしてる優芽、楽しそうだな。
「でもね、はるくん、わたし凪くんちょっと好きだった」
優芽がさらりと告白した。
「え、あ、そうなんだ」
「でもね、それは凪くんの目が湊くんでさ、そこにいたからで、細かくいうなら凪くんの中の湊くんの目が好きだったってこと」
「それって、湊が好きってことじゃね?」
なんだやっぱり湊かよ。
「違うよもう、湊くんとはシーシャカフェでバイバイしたもん」
シーシャカフェでバイバイって、なんだ? どういうこと?
もっとよくわかるように説明してくれって優芽に言った。
まるでもう、俺が知ってること前提で言われたって正直わからないし、聞いてない話ばっかで困るって。
結局、そのシーシャカフェとやらで湊の幻を見たのかもしれないけど、いまはもう湊は出てこないそうだ。
「だってあのときバイバイしたもん成仏したかも」
だから別に、凪のことはなんとも思ってないってことを、優芽は言いたかったみたいだ。
事故後、凪の右半身の負傷は目にも及んでたってことなんだなって、なんで今まで知らなかったんだろう?
凪の母親からもそんな話は聞いてない。
なのに、凪本人は知ってた? 知ってたのかな? 本当にそうなのか?
そこは疑問が残る。
だけどそのことを、凪から聞いたんだと優芽は言っている。
けど、もう終わったことだと優芽がいうから、そうなんだなって思うしかないっていうか、それ以外なにができる?
「だけどわたし、あとひとつ、はるくんに言うことある」
かなりいま、いっぱいいっぱい。
受け止める許容量、俺に残ってる??
「いま、言う?」
遠回しに、今度でもいいよって伝えたかったんだけどな。
「うーん、そう言われたら、悩む……重い話かもしれないしな」
重いのか。
なにを優芽は抱えてるんだろう。
早く話して重荷から解放させてやりたいと思う反面、反応し間違えたら逆効果にならないだろうかと、不安もあった。
月曜の仕事の合間、少し手が空いたので凪に聞いてみた。
「優芽とDMってまだやってるんだよな?」
凪は一瞬止まったけど
「あ、ごめん、まだ続けてて」
悪いことやってるとでも思ってんのか、謝ってきた。
俺から視線をそらしつつ続ける。
「でもさ、そう頻繁じゃなくって」
「いや、やっててもいいんだけどさ、ちょっと聞きたいことあるんだ」
「え、俺なにも知らねーし」
「まだ何も聞いてない」
凪、それじゃあなにか知ってるって言ってるようなものじゃん?
俺も凪のこと言えないんだけどさ、凪もほんと隠し事下手だよな。
「優芽が凪といろいろ話してるみたいだし、重い内容のとか、もしあったら、もし知ってるなら…」
「教えねーよ、そうゆう約束だからな」
「やっぱ知ってんだな、でもな、そうじゃなくてそれって俺が受け止めきれるくらいのものなのかってことが気になってる」
「さあ、どうだろ? びっくりは、するんじゃね?」
俺もびっくりした、と凪が思い出すように言った。
「凪はさ、それ知ってどう思った? 優芽のこと」
「え、別になにも。優芽は優芽じゃんって思ったよ」
「そか」
少なくとも、距離置きたいとか、失望するとか、そんなことじゃないのかもしれないと思った。
大丈夫かな、受け止めきれる?
「あのさ遥希」
「なんだ?」
「もし聞いても、普通の大人みたいに、説教とかすんなよ」
中学生のときのことだし、未成年だし、しょうがなかったんだって凪が言った。
中学生のときのことって、優芽ってあれ以上になんかあるのか?
樹とのこと、湊を失ったことと、それからまだある?
ていうか、それ以上に言えないことってこと?
いったいどれだけのトラウマや過去を背負ってんだって思うと、当時なんもできなかったことが悔やまれる。
「あ……もしかして」
少し心当たりがあるとすれば、あのこと?
樹にも手伝ってもらってたけど…ってことも聞いていた。
まさかそこにも、樹が絡んでるのか?
「そういえば優芽がさ、ばあちゃんちの近くでお祭りあるから行こうっていってたよ」
凪が教えてくれた。
「あとさ、花火なら遥希んちから見えるんだよな」
それも楽しみだなって凪が嬉しそう。
夏祭りに花火大会。
そういうイベントは、ずっとやってない。
あの夏の事故以来、なんとなく夏は苦手だ。
記憶の上書きってやつ、そろそろ必要?
やってもいい時期になってきたのかもしれない。




