第5話‐③
「これなんだろ?」
優芽が泊まった翌朝、ふと見つけた洗面台に置いてるネックレス。
その先についてんのって……
「あ、これ凪が持ってたやつだ」
努力してゲットしたって言ってた、サメの歯。
あ、あれって、こうなったのか。
「え、いやそこじゃねーだろ!」
俺はそのネックレスを持って優芽に聞いた。
「優芽、これ洗面台に忘れてたよ」
「あ、ありがとう」
優芽は受け取ると、そのままバッグの中にしまい込む。
「それ、どうしたの? 買ったの?」
「ううん、凪くんがさ、サメの歯くれたから、ネックレスに加工してみたんだ」
「あ、そうなんだ」
あっさりと教えてくれた。
「なんで、サメの歯なんか凪がくれるんだろうな?」
「うーん、よくわからないんだけど、わたしってサメの歯が好きってことになってるみたい」
「なんでサメの歯?」
さっきから「なんで」ばっかだな、俺。
「凪くんが言うには、わたしと湊くんの思い出が深海魚とかサメの歯らしいよ」
湊っていうのは、凪の兄貴で、10年前に事故で亡くなったんだ。
そして湊は、優芽と中学校のときつきあっていた相手。
「凪くんがね、昔、なくしただろって。だから、またやるって」
って優芽は言うけど、いったいそれ、いつの話?
そんな話、俺は知らない。
なんで凪は、そんなこと知ってる?
そういえば、凪が湊なのか、湊が凪の中に生きてるのか、そんなことを考えてた頃があったな。
最近、湊が出てこない……ていうか、湊っぽいところが凪に見えなくなった。
だから忘れかけてたんだけど、優芽は湊との思い出を、まだ大事そうに身につけてるってことだけは確か。
優芽が隠さず、はっきり言ってくれるのは、そこに特に深い意味はないということだと思う。
凪と湊か……。
いや、あんまり深く考えるな。
優芽とつきあってるのは俺なんだし、今こうして一緒に過ごしてるのも俺。
もっと、大きく構えていないと。
「ねえ、はるくん」
「え、あ、なに?」
急に呼ばれてハッと我に返る俺。
「別にさ、サメの歯が好きっていうか、つけていたいわけじゃなくて、なんかないかなーってたまたまつけてきてただけだよ?」
「あ、そうなんだ」
「はるくん、新しくネックレス買ってよ」
それ、つけるからって優芽が言う。
「あ、そうだな、買いにいこうか」
「はるくんが選んでね」
そう言われても、どう選べばいいのかさっぱりわからないんだけど、
「うん、見に行こう」
「わたしね、行きたいお店があるんだ」
聞くとネックレスは、誕生石で作りたいと優芽が言った。
それで、天然石を扱うお店があることをカフェのお客さんから、以前聞いていたことを思い出したらしく、そこに行くことになった。
優芽の誕生日は2月。誕生石は、アメジストだそうだ。
紫色の石。
カフェの仕事に邪魔にならない程度の、小さめのものに決めた。
「もっと高いのを想像してたよ」
思ってたよりすごく安かった。
ネックレスの値段の相場は知らないけど、もっと高価なものを想像していたから、いい意味で予想を裏切られた。
「はるくん、つけて?」
買ったばかりのネックレスを、優芽は俺に差し出してきた。
「え、ああ、うん」
えーと、どうやって……あれ?
こんなの、慣れてないからかなり手こずる。
仕事柄、手先は器用なはずなのに、こんなのは不器用っていうか……。
「できた!」
ああ、めちゃくちゃ汗かいた。
「ありがとう、大事にするね」
昼は、ラーメンがいいと優芽が言うから、ラーメン屋で餃子も一緒に食べてきたんだけど、こんなオシャレでもなんでもないデート?
いいんだろうかと少しの不安はあった。




