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第5話 何気ない日常の一幕

「買い物に行こう」

「うぉっ!」

 朝一番の掛け声で花咲は飛び起きた。見れば、つくしが花咲のベッドをまたいでカーテンを開けていた。

 おはよう、と目をこすりながら花咲は時計を見る。時刻は九時過ぎ。

 案の定、寝つきが悪くて、寝る前最後に確認した時刻は四時だった。正直なところ、寝足りない。

「ほら、ご飯食べて。急いで準備して」

「つくしは俺のおかんかよ」

 軽口をたたきながら、洗面所へ向かう。顔を洗って寝ぐせで立った髪の毛をとかすと、眠い頭も少しは冴えてきた。そのまま自室に戻って着替えを終わらせる。

「おぉ、美味そうじゃん」

 身支度を整えて自室を出ると、既にローテーブルの食卓には朝食が準備されていた。綺麗なオムレツを見て、思わず声を漏らした。

「ありがと。実際に食べてから言ってくれると、なお嬉しいです」

 つくしはとっくに朝飯を済ませていたのだろう。花咲一人分の食事だけ既に取り分けられていた。

 ここまでされると何も言えない。料理も美味しいときた。お金を払うレベルにもてなされている。

「いただきます」

 マイ箸でオムレツを割る。中にチーズが入っていた。

 頬張ると、甘味に加えてチーズらしい仄かな苦味と温もりが口いっぱいに広がった。

「絶品だな」

「そうでしょうとも」

「青椒肉絲も美味かったしな」

 自慢げに「それほどでも」と笑うつくしの尻尾が左右に揺れている。

「料理得意なんだな」

「程々にだよ」

 つくしは誇らしげな顔のまま、「家事全般も学びました」と付言する。

「なるほど。居候する条件って訳ね」

「どうでしょうか?主様」

 ふざけて言ってるのだろうが、格好が格好だけに何だか本当に従えてる様に思えてドキリとした。


挿絵(By みてみん)


「い、良いんじゃないでしょうか」

「何照れてんの?」

 これは照れても仕方ないと思う。

「オムレツとご飯って合うんだな」

「あ、話逸らした」

「いいから、そっちも準備したら?買い物行くんだろ?」

「もう終わってるよ」

「……さいでっか」

 話せば話すほど立つ瀬がなくなってくる花咲。

 ひとまず食事を済ませようと、黙々と箸を進めることにした。

 そんな花咲の様子を微笑ましそうにつくしが見つめる。意識すると緊張するので、花咲は気付かなかったことにした。

 食べ終わってから片付けをし始めると、今度は珍獣でも見るかのような視線をつくしが向けてきた。

「なんだよ?」

「花咲君が食べ終わった茶碗をすぐ洗うなんて、珍しいこともあるもんだと思って」

「ま、作ってもらった側だからさ。つくしに洗わせる訳にもいかないし」

「ふーん」

 全然納得した様子はない。聞きたい答えじゃないという反応だ。

「めんどくさがりのくせに」

 突然、毒を吐かれた。会話の流れの中に、どこにもつくしを傷つけるような発言はなかったはずだが。

「倹約家と言え」

「そんな大層な物でもないと思うけど」

 つくしの辛辣なコメントが続く。何か地雷を踏んでしまったのかと今までの会話を振り返る花咲だが、やはり思い当たる節はない。

「コレは面倒じゃないの?」

 つくしは食器を指差していた。

「洗うのも拭くのも面倒だけど、今は面倒じゃないな」

「なんで?」

「つくしが隣にいるからかな」

「あ、茶化した」

「そんなつもりないんだけど」

 話が長引いて、皿洗いが終わってしまった。隣で洗い終わった皿をつくしが拭いてくれている。

 やることがなくなって手隙になった花咲は、食器を片付けることにした。その意図を汲んだのか、つくしも拭き終わった食器を手渡してきた。

「俺が一人で生活していたら、シンクに置いたまま洗いもしないと思う」

 食器棚へ戻しながら、花咲が続きを口にした。

「別に気を遣わなくたって良いんだよ?居候させてもらう条件な訳だし」

 自堕落な沼へ引きずり込むような甘美な囁きが聞こえてきたが、

「嫌だよ」

 と花咲は即答する。

「へー、なんで?」

「俺はつくしと生活してるからさ。一人で居る訳じゃない。そんなことで気まずくなったりしたら、これから一緒に居づらくなるだろ」

「ふ〜ん、そっかそっか」

 待っていた返事が得られたのか、今度は満足そうな顔をするつくし。

 上機嫌なつくしが、尻尾を振りながらこんなことを言ってくる。

「つまり、これからも私とこうして一緒に過ごしていくために頑張ってくれてるんだ?」

「あ、いや、そういう訳じゃ——」

 時すでに遅し。完全につくしに手玉に取られていた。はぁ、と大きなため息が出る。

「もういいよ、そっちの勝ちで」

 つくしにすべて誘導されているように思えてきて、花咲はぼやいた。

「勝負なんてしてないでしょ」

 とつくしは言うが、勝負事をしたら彼女には何も勝てないような気がする。

「それはそうと、花咲君は倹約家じゃないと思うよ」

 先ほどの会話を掘り起こされて、次は何を言わされるのか、と少し身構えてしまった。その様子を見て面白がるつくしに、卑屈に返してみる。

「ただのものぐさだって言いたいのか?」

「そういうことになるのかもしれないけど、それが言いたい訳じゃないよ」

 なら、何が言いたいというのか。

「要するにさ、花咲君は人のためなら頑張れる人なんだよ。そういうところ、かっこいいし、私は好きだよ」

「……………………んだよ、もう」

 調子狂うな。

*** うらまるより ***

挿絵一覧URL:https://50497.mitemin.net/

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