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────初めて会ったときから、惹かれていた。
だけど、彼女は自分が尊敬している人だから最初はただ、その人間性に惹かれていたんだと・・・そう思っていた。
「お疲れさま、昔宮くん」
仕事の話になれば饒舌なのに、プライベートは一切話さない。
仕事は出来るのに、どこか人と距離をとりたがる。
本当の彼女は・・・その素顔はどんなだろう。
ふとそんなことを、考えるようになった。
「九遠さん、このあと呑みに行きませんか?」
出先から直帰の許しが出たその日、俺は初めて彼女を誘った。
俺のその一言に、彼女は一瞬言葉を詰まらせた。
(嫌がられた?てか、・・・迷ってる?)
下心が全くない、と言えば嘘になる。だけど一応直属の部下としてはかわいがられている感はあった。───彼女は断らない、という自信があったのだ。
少し困ったような表情で、彼女は笑顔を作った。
「・・・・私はいいけど大丈夫?彼女とか」
「僕?彼女なんて居ませんよ、」
居たら誘ってないし。という補足は呑み込んで明るく笑う。
「そう」
ホッとしたような、残念のような・・・・久遠さんがいまどんな気持ちなのかその表情からは読み取れなかった。
近くにあった居酒屋にそれとなく入り、ひとまずビールを注文する。そして二人で乾杯をしてビールに口をつけた。
喉が乾いていたからかビールが進む。
「どう?仕事、慣れた?」
久遠さんが、俺の飲みっぷりを見ながらクスッと笑った。
「え、あ、はい。おかげさまで」
ジョッキを置いてそう答えると、久遠さんがまた笑顔を見せた。
「そっか。昔宮くんは覚えが早いから助かるよ。常に気配りしてくれてるしね。この間のプレゼンの資料も、整理してまとめてくれてたでしょう?」
思いがけない久遠さんの言葉に、柄にもなく照れて視線を泳がせた。
「・・・・ありがとう、ございます」
心臓がドクンドクンと音をたてる。
酒の席でなら聞けると思ったその一言を────俺は勇気を出して彼女にぶつけた。
「九遠さんは、あの───付き合ってる人とか居ないんですか」
その瞬間────激しく後悔した。
彼女の表情が曇ったのを、俺は見逃さなかった。
(聞かなきゃ良かった・・・・)
「私は・・・・そういうのはもう、いいかな」
少し視線を落として、久遠さんが笑った。
絶対無理してると一目で分かる笑顔で。
仕事で一緒にいる時間は誰よりも長くて、俺は彼女に一番近い存在だと自負していた。
それが今、ガラガラと音をたてて崩れ落ちたのだ。
「もう、誰とも付き合うつもりないから」
そう呟いた彼女は────俺が知っている久遠香子さんではなかった。




