(2)
『怒髪天をついた親達がそっちに向かってる所よ。すぐに着くはず』
あぁぁぁ~~・・・。結局そういう展開になってしまったか・・・。
あんなに努力したのに、全部水の泡だ。はあぁぁ。
『そっちに到着するまで、一歩も動くな指一本動かすな。って至上命令よ。逆らったら停学だって』
う゛うぅ。権力の横暴だ。大人ってズルイ汚いっ。
「無力な学生は従うより他ないな」
スマホを仕舞ったあたしに、大地がそう言った。その通りだ。確かにそれしか方法がないんだけど。
とてもじゃないけど、これが良い事態だとは思えない。
親達はかなりキレてるっぽいし、また感情論になって結局は堂々巡りになりそうな気がする。
「どうしよう。きっとうまくいくって念仏みたいに唱えて信じ込もうとしてたのに」
最初っからいきなりつまづいちゃったよ。道行、暗過ぎ・・・。
「そう悲観すんなよ」
「でもさ・・・」
「これが最後じゃないだろ?」
「・・・・・」
「あくまで、これはきっかけだ。これでもう御仕舞いみたいに考えちゃだめだろ?」
「うん」
「今回うまくいかなくても次がある。次に繋げるんだ」
うん。
それが大事だよね。
次がある。まだまだ戦う余地がある。
あたし達がそう信じて、お姉ちゃん達にそれを伝えなきゃ。
へこたれちゃダメだ。あたしはお姉ちゃんの味方。
だから大丈夫だよお姉ちゃん。
決意も新たに、あたしはキュッと唇を結んで空を見上げる。
こっちの思惑なんて全然お構いなしの、気持ち良いくらい青い空。
見てると何だか、本当にこれで御仕舞いなんかじゃないって信じられる気がする。
・・・よーし!
お構いなし? 上等よ!
それならこっちも突っ切るだけだ!
あたしは心の中でファイティングポーズを構える。
そして・・・
間もなく素っ飛んで来たお母さんとおじさんに、文字通り怒髪天をつく勢いで怒鳴りつけられた。
ううぅぅ・・・負けるなあたし! ファイティング、ファイティング~!!
「こんな問題を起こして何を考えてるの!?」
「今がどんな時か分からないわけじゃないだろう!」
「お母さんの心臓を止めるつもり!?」
「こんな息子に育てたつもりはないぞ!」
「死んだお父さんに申し訳が・・・!」
「死んだ母さんに顔向けが・・・!」
息ピッタリのマシンガントーク。
なんか、このふたりって意外に相性良いんじゃないかな?って思ってしまう。
じっと地面を見つめて怒涛の責めに耐えてると、横から遠慮がちな声が聞こえてきた。
「あのお~~・・・」
「ちゃんと聞いてるの!? あんた達!」
「あのおぉ~~・・・」
「聞いてるなら返事くらいしなさい!」
「あのおぉ~~、ひょっとして拓海君と一海ちゃんの御家族かね?」
「・・・・・」
全員、声の聞こえた方向に視線を移す。
ホウキとチリトリを持ったおばあちゃんがニコニコとこっちを見て笑ってた。
シワだらけの顔。曲がった腰。
でも愛嬌のある可愛らしい笑顔。
えっちらおっちら歩いてきて、ペコリとあたし達に頭を下げる。
「この民宿やっとります、山神テルと申します」
「あ・・・・・」
そうだ。ここは民宿の正面玄関のド真ん前。思いっきり営業妨害してしまった。
「あ、あの、わたくし柿崎と申します。柿崎拓海の父です」
「桜井一海の母です」
おじさんとお母さんが深々と頭を下げて挨拶する。
「あぁやっぱり。息子さんと娘さんには、住み込みで働いてもらっとります」
「まあやっぱり! このたびは娘がとんだご迷惑を・・・」
「本当に何と申し上げればいいか・・・」
「いやいや、骨身を惜しまず働いてくれる、良いお子達ですわ」
しわの目立つ口元で、カカカと元気に笑う。
化粧気の無い素肌。でも血色が良くて艶々してる。
「やっぱり迎えに来なさったねえ」
「娘から手紙が届きまして」
「連絡するように言ったんですよ。しなきゃここから追い出すよ!って脅してねえ」
「ま、まあそうなんですか?」
「でも多分、ここの場所は教えないだろうと思ってね。こっそりあたしが封筒を取り替えたんですよ」
「・・・・・」
「うまくいって良かったですよお」
カカカ。大口を開けて豪快に笑うおばあちゃん。
なんだ、お姉ちゃんのポカじゃなかったのか。それにしても・・・
このおばあちゃん・・・できるっ!
「よう来なさった。まあ中へ入りんさい」
腰を曲げ、後ろに手を組み、えっちらおっちら。
おばあちゃんは先に玄関に向かって歩き出す。
あたし達は顔を見合わせ、おずおずとその後に続いて民宿に入った。




