(3)
玄関先には、たくさんのスリッパがずらりと並んでいる。
シンプルな木製のテーブルとイス。自動販売機。
浴衣姿のお客さんがマッサージチェアに腰掛けて、ダランとだらけてる。
「いらっしゃいませ。山神へようこそお越し下さいました」
着物姿のおばさんが、にこやかに挨拶してお辞儀してきた。
「女将、こちらは拓海君と一海ちゃんの御家族だよ」
「まあ大女将、それじゃあ・・・」
「そう。あたしが皆さんを「梅の間」にご案内するから」
「分かりました。拓海君達をそちらへ向かわせますから」
「頼んだよ」
スリッパを履き、おばあちゃんの後にぞろぞろと続く。
飾り物の少ない質素な内装。
でも、そのお陰か広々とした空間が開放感を与えてくれる。
日差しが良く入ってきて明るいなぁ。
建物自体は古そうだけど、お掃除もきちんとされてて気持ちいい。
あたし達は小さな部屋へ案内された。
「まずはこちらへ入りんさい」
休憩室みたいな畳敷きの小部屋。小さなテレビやガスコンロ。
簡易テーブルを挟んで、皆で座った。
・・・正座かぁ。正座なんて滅多にしないから苦手なんだよね。
さっさとあぐらをかいてる大地が羨ましい。
「あの、申し訳ありません。わざわざ娘さんのお手間をとらせてしまって」
「はあ、娘ですかの?」
「さきほどの女将さん・・・」
「ああ、ありゃ違います。あたしに身内はもうおりませんわ」
「はあ、そうですか・・・」
おばあちゃんがお茶を入れてくれた。皆に配りながら、あたしと大地に笑顔で話しかける。
「あんた達は、話し合いの間はここで待っとりんさい」
「えっ!?」
「心配なのは分かるがね。その方がええよ」
「そんな・・・!」
せっかくここまで来たのに!
ここで話し合いに参加すらできなかったら、なんのために来たのか分かんない!
「七海、そうさせてもらいなさい」
「大地、ここにいろ」
なのにお母さんやおじさんまで、当然のようにそんな事を言い出した。
・・・嫌だ。そんなの嫌だよ! あたしがお姉ちゃんを守るんだから!
そばで支えて、必要ならあたしがお姉ちゃんの気持ちを代弁してあげるんだ!
「あたしと大地も一緒に話し合います!」
「そら止めといた方がええねえ」
なんで!?
あたし達、興味本位な訳でも面白半分な訳でもない! 本当に本当に心配で真剣なのに!
そのあたし達の気持ちなんてどうでもいい事だって言うの!?
邪魔だって言いたいの!?
「そんなの大人の横暴だ! 絶対に納得できない!」
ねえそうでしょ? おばあちゃん! あたし間違ってないよ!
丸い背中の小さなおばあちゃんを、あたしは必死の思いで見つめる。
おばあちゃんはそんなあたしを見てニコニコした。
「よほど心配なんだねえ。お姉ちゃんが」
「はい!」
「そうかそうか。良い子だねえ」
ニコニコと何度も頷いて見せるおばあちゃん。
「でもね、世の中、子どもにはどうしても入り込めない領分というものがあるんだよ」
「子どもだからだめなんですか!?」
「そうだね」
「子どもでも家族なのに!」
なんだかそれってバカにしてるよ。子どもをバカにしてる。
高校生だからって軽く見てるんだ。
『どうせ何も知らないくせに。どうせ何もできないくせに。どうせただの高校生のくせに。子どもは黙って言う事を聞いていればいい』
そういう、子どもを軽んじる偏見が虐待への悪しき一歩なのよ!
子どもだって人間なのに!
考える頭を持った、感じる心を持った立派な人間なのに!
大人がどんだけエライっつーのよ!?
あたしはどんどん興奮してきた。また鼻が膨らんでるのが自分でも分かる。
でもここで止めちゃだめだ! 鼻穴なんか気にしてる場合じゃない!
大人の横暴に立ち向かうべき時なんだ!
「大人なんて、ただ年の数が多いだけじゃん!」
「う~ん、そら違うねえ」
「違わない! 大人だって子どもと同じに不完全だし間違うじゃん!」
「ならお前さん、今の自分の悩みを幼稚園児に相談できるかね?」
「え゛・・・?」
その問いかけに、あたしの勢いはカクッとコケた。
よ、幼稚園児に?
このぐちゃぐちゃした恋愛問題とか、家族の問題とか、お姉ちゃんの妊娠問題とかを?
相談をもちかけて解決してもらえと?
「できませんっ」
あたしは即答した。常識でしょ?
できるわけないじゃんそんな。考えるまでも無いでしょうが。
「なんでかね? 幼稚園児だって同じ人間で家族だがね?」
「いや、そーゆー次元の問題じゃ・・・」
「じゃあ、小学生ならどうかね?」
「いやだから、そーゆー・・・」
「中学生は?」
「できませんてばっ」
「高校生は?」
「・・・親友なら相談するけど。解決までは望みません」
「なんでかね?」
「だって当然でしょ? いくら信頼しててもまだ高校生なのに」
こんな大変な問題解決の責任を負わせるような事、とてもじゃないけど・・・。
あ・・・・・。




